第6話 これが噂のざまぁ展開?
―――これは先日のイグニスの槍のお話
カインに嫌みを言いギルドを離れた後。勇者ルーク達は、大変な目にあっていたらしい。
90Fのボスに挑もうと80Fに転移しダンジョン攻略を開始した。
「お荷物カインもいなくなったことだし90Fもサクッとクリアしようぜ」
ルークが上機嫌に言う。
「ニコラ盗賊らしく前衛を頼むわ。」
「わかりました~しっかりと私の後に付いてきてください。」
ダンジョンを一階一階丁寧に探索するわけではなくサクサクと進んでいく。イグニスの槍はカインがいた頃に一度90F手前まで予習しに来ているからある程度の情報は頭に入っている。
と思っていた。
「あの、地図と全然違うんですけど…ルークさんわたしより後ろを歩いてください。ここらへんの罠は一発で死ぬようなものが多いので。」
新しく加入した盗賊のニコラが自信なさそうにパーティに伝える。ダンジョンは定期的に形を変える。たまたま変わったタイミングに変わってしまったみたいだ。普段ならここでカインが臆病者と言われるのを承知で撤退を提案するのだが。
それに、どうやら迷ってしまったみたいだ。
「は? そんなことがあるかよ。しっかりとカインにマッピングさせたんだから。ほらさっさと行くぞ。」
言うことを聞かずにルークが先頭に立ち、どんどん進む。
「ルークさん広間の真ん中を突っ切って歩くのは危ないです。ってあっ」
まばゆい光が部屋を包む。トラップの発動する光だ。
ニコラがまずいですねとつぶやき両手に短剣を構える。
悪い予感は当たった。モンスターハウスのトラップだ。部屋一面に龍が5体。骸骨ロード。ウルフロードなど今までのボスとして出てきた敵が少なくとも30体はいるのではないか。
「チッまずいことになった。おい、ニコラ。おまえが囮になって切り開くぞ。いったん階段まで撤退だ。」
「無理ですよ。普通これだけの数の相手囮になったら、数十秒で殺されます。」
「何いってんだ。今までカインだったらこんなの余裕でやってたぞ。」
「盗賊にタンク役なんて普通はできません。だったらルークさんが勇者なんですから、囮と殿努めてください。」
ニコラはだんだんイライラしてくる。こんな身勝手なパーティだとは思わなかった。
「とにかく全部を相手にするなんて無理です。通行のじゃまになる敵だけを攻撃してどかしましょう。階段まで駆け抜けますよ。敵がきますよっ」
◇
「ハァハァみんなは…無事みたいだな。」
なんとか撤退できたみたいだ。皆、階段を降りるとすぐに床に座り込む。ダンジョンを一階下るまで命からがらに死ぬ物狂いで逃げてきた。敵モンスターはダンジョンの階層が変わるところまでは追いかけてこない。
くそっこんなところで足踏みするなんて。とルークがつぶやく。
「ルークさんなにいの一番に逃げ出してるんですか、
ニコラがルークを問い詰める。今にも殴りかからんとする勢いだ。
「他のメンバーもなんでルークさんの言いなりなんですか。イグニスの槍の聞いてた情報と違いすぎます。ボスまでたどり着けないし、こんなの攻略なんて無理ですよ。」
「まぁこんな日もあるだろ。」
反省の色が一切見えないルーク。
「おいソラ、ニコラ、全員に回復魔法、頼むわ。」
「あのですね。盗賊に回復魔法なんで使えるわけないでしょ。」
ニコラが心底バカにしたように笑いながら答える。
「おまえ、回復も使えねえのか。チッ使えねえ。カインだったらボス戦までニコラのMP温存するために回復させたんだがな。」
ソラはわかりましたと返事をし、全員に回復魔法をかける。ニコラは全員に回復魔法をかけるとMPが大幅に使用しMPが枯渇したのだろう。その場に座り込んだ。
「それで、どうするんですか。回復薬のMPも尽きている状態で、少なくとも今日ははあのままトラップで召喚された敵モンスターは消えませんから、また数日後来ますか。」
「それをなんとかするのが、ニコラおまえの仕事だろ。」
付き合いきれない。イグニスの槍は帝国一番のパーティだと聞いていた。たまたま役に立たないメンバーがいなくなったからということで入れてラッキーだと思っていたがこれだったらハズレくじだ。
皮肉の一つでも言いたくなる。
「もう付き合いきれません。こんなひどいパーティが帝国の勇者なんて笑っちゃいます。カインがやってくれた。カインならこうだって言いますけど、今の現状見るとカインさんでこのパーティ持っていたんじゃないですか。」
「おまえ、なんにもやってねえくせに偉そうに説教してんじゃねえぞ。クソガキが。せっかくイグニスの槍に入れてやったのに。」
ルークがニコラの胸ぐらをつかみ、唾が顔にかかる勢いで罵倒する。
「もう言い返す気力もありません。さっさと戻りましょう。わたしは死にたくないんで。」
「お前が決めんじゃねえよ。」
「あのですね。言わせてもらいますけど。罠も警戒せずに突っ込み、いの一番に逃げ出すバカ勇者。タンク役も十分にこなせない指示待ちの戦士。魔法使いも僧侶もすぐにMPが枯渇する能力値の低さ。むしろ今までよくこのありさまでやってこれましたね。」
みな下を向き言葉を失っている。ぐさりと刺さるものがあるのだろう。
「うるせぇ。ほらもう一回行くぞ。」
「それに、反省を生かせず、特攻しようとするバカも追加で。」
ルークが腹を立てたのだろうニコラを殴る。ニコラは床に倒れ込んだ。
「実力のなさを棚に上げて暴力で解決しようとするなんて最低です。これはギルドに報告させていただきます。」
服についたホコリを手で払い、今日でやめます。先に失礼しますね。とニコラは言い先に転移陣で戻っていった。
残された四人はその後、言葉が出なかった。今までは楽勝だったのに。まさかボスまでも行き着けないという現実が重くのしかかっていた。
それから十分はたっただろうか。
「私たちこれからどうするの。ボス戦失敗ならまだしも、ボス戦にまで行けないなんて噂になるわ。」
魔法使いのルキナが問う。
「うるせえ。そんなことわかってんだよ。また一人メンバーを入れて挑戦すりゃいいだろ。」
「うるせぇってなによ。そんなんだからあんな小娘に舐められるのよ。カインをまた使ってやればいいじゃない。今までそれでうまく回ってたんだから。」
「今更カインにお願いするなんて冗談だろ。おまえも自分の実力の無さ棚に上げてんじゃねえ。おまえが魔法で敵を一掃できていればよかった話じゃねえか。」
ルークと魔法使いのルキナが言い争いをしている。エスカレートしたら取っ組み合いにもなりかねない勢いだ。
僧侶のソラは思った。こんなことになるなら、カインさんの追放を止めておけばよかった。今までカインさんがいたからこのパーティは回っていたんだ。今まで順調に来ていたことが調子に乗ってそしまった原因だろう。誰もルークをたしなめられなかった。うまく行かないときはカインさんのせいにしていた私たち全員が悪い。
後悔してももう遅いだろう。散々ギルドでカインをあおったと自慢そうにルークが話していたし。皆自分のことしか考えていない。パーティとして機能するなんて無理だったんだ。
もうこのパーティはダメかも。ソラはポツリとつぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます