S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員として生きることにする

神谷みこと

第1話 魔法戦士は最強職業!?

 「カイン、申し訳ないがキミとはここでお別れだ。これはパーティ全員の同意なんだ。」



 パーティリーダーのルークは、酒を飲みながらへらへら笑いながらそう言った。


 何を言っているのか理解できなかった。明日のダンジョンのボス戦に挑もうとしているのタイミングでなんでこんな事を言うのか。



 帝都にある100層のダンジョンで、俺たちパーティイグニスの槍は他のパーティと比べても最もダンジョン攻略を進めている5人パーティだ。現在、89階まで攻略していて90階のボスに挑もうとするところだ。


 パーティメンバーは勇者ルークと魔法使いルキナ、僧侶ソラ、戦士アパムとオレ魔法戦士カインの5人で今まで苦楽をともにして旅をしてきた。


 なぜタイミングなんだ。


  「力はアパムや俺に劣っているし、魔法だってルキナ以下だ。回復はソラで十分だし、おまえみたいな便利屋はいらねえんだよ。おまえがこれからの階層で通用しないのは目に見えてる。」


 たったそれだけの理由だった。


 「なあおまえらも、カインは魔法剣士で力不足だってそう思っているんだろう?」


 勇者ルークが問う。皆、われ関せずだ。気まずそうに下を向いている。


 「アア。ここまで来るまでなんとかなっていたが、これからはもっと強いメンバーを入れたほうが良いな」 


 「たしかにそうね。新しいメンバーには前衛の盾役がほしいわ。」


 「私はわかりませんが、皆さんがそういうのであればしょうがないと思います。」


 他のみんなもおおむね賛同しているようだ。


 「俺がいなくなれば良いのか。」


 「そうだ。新しいメンバーも決まっている。カイン。おまえはこのパーティいらないんだよ。」


 能力値だけで見れば足手まといなのは事実だった。


 魔法剣士は戦闘中にこなすタスクは多岐にわたる。物理攻撃や魔法攻撃。サポート魔法に回復魔法。よくを言えばマルチタスク。悪く言えば便利屋だ。


 ただオレのサポートがあったからここまで攻略できていたのも事実だと思う。ギルドとのやり取りや帝国とのダンジョン使用に関する交渉。獲得物の販売まで面倒ごとも全部担ってきた。


 「そっか。オレはまた要らないんだな。」


 パーティを組んで2年。天井を見つめながらポツリとつぶやく。


 明日の大一番に向けての緊張感もあるせいもあるのだろう、皆心ここにあらずだ。


 このままではらちが明かない。が、ゴネてももうどうにもならないのだろう。


 なによりイグニスのやりの力になれないことが悲しい。これでも今まで旅をしてきた仲間だ。


 このパーティの仲間でダンジョン100層まで踏破したかった。


 いつものボス戦の前日は騒がしい飲み会になるのだが、今回は皆、口数がすくない。


 そうか。皆の目にオレはもう写っていないんだ。


 「わかった。パーティを抜けるよ。」


 めまいがする。


 めまいがするなんて言ってられない。とにかくこの場を離れようと、席を立つ。


 「カイン、待てよ。装備品一式置いていけよ。装備はパーティのものだろ」


 勇者ルークは勝ち誇った顔をしながら続ける。


 「しょーがねえから、おまえの剣と500PYNだけ持っていけよ。退職金だ。俺たちパーティの変なうわさ言いふらすんじゃねえぞ。」


 明らかに不条理な退職金だ。今までパーティで稼いだ金額の20万分の1の金額にも満たない。ただ言い争いもなにもしたくない。一刻も早くこの場を離れたかった。


 「もういい。わかった。それでいい。他の全装備は置いていくよ。今までありがとう。これからの皆の健闘を祈っているよ。」


 勇者ルークはもともと勝ち気な性格でいわゆる俺様キャラなのはわかっていた。


 ただ他のメンバーが止めてくれてほしかった。


 いちるの望みを託し扉の前で振り返る。勇者ルークと目が合う。中指を立てている。


 「ああ。俺がこの2年間守ってきたものは何だったんだろう」


 目がチカチカする。重い足を引きずりながら俺は酒場をあとにした。


 もうパーティに戻る気なんてないし、きっと二度と会うこともないだろう。


 俺のパーティイグニスの槍の活動は終わった。


 仲間を活かし生かすこと。それが、俺の任務だったがそれも終わりだ。


 「……さて、これからどうしようか」


 居酒屋の外にまでさっきまでいた場所でどんちゃん騒ぎが聞こえる。

 さっきまでのシリアスな雰囲気は演技だったのだろう。


 冷静に考えて、500PYNなんてたかがしれている。宿に泊まるにしても5日しか泊まれないだろう。あいにく、他の道具は愛剣しか持ち合わせていない。


 まずは冒険者ギルドにパーティ離脱の報告をしないと。


 俺は重い足取りでギルドに向かって歩き出した。





 「やあミント。今はギルマスはいるかな?」


 ミントは冒険者ギルドの受付嬢。もふもふの猫耳を持つ獣人だ。


 「カインさん。こんばんは。こんな時間に珍しいですね。どうされました?」


 内容を言いたくはない。追放されたなんて恥ずかしい。それに、自分の口から言葉にすることで、自分が今まで積み上げてきたものが、全て否定されるような気持ちになる。


 「いや。ちょっとギルマスに相談したいことがあって。」


 「今は2階のギルマス室にいるみたいなので行ってみてください。」


 「ありがとう。行ってくるよ。」

 

 2階のギルマス長室前に到達した。


 扉を前に、息をすっと吸い込み、ゆっくりと吐き出す。深呼吸だ。冷静にならないと。

 

 なんと言われるのだろうか。すごく感情が高ぶっている。手汗もすごく出てきた。


 2度ノックして室内に入る。


 椅子にはギルドマスターであるメンゼフが座っている。


 メンゼフさんを説明するには日によく焼けてTHEマッチョなガチムチなおじさんを想像してほしい。その思い描いたのがメンゼフさんだ。


 「ほぅ。珍しい客が来たもんだ。何か急用があるみたいじゃねえか。どうした。相談くれぇなら乗るぜ。」


 さすがギルマス。俺の不安を見抜いているようだ。


 


 「実は、パーティイグニスの槍を追放されました。」


 「なにっ…」


 おじさんが椅子から崩れ落ちるのを人生で初めて見た。



 …先程の経緯をひととおり説明した。


 「そうか。それはひどいな。パーティイグニスの槍はカイン。おまえで持っていたようなものなのに。」


 「さすがにそれは言いすぎです。残念ですが、脱退する形となりました。」


 俺はパーティの潤滑油になっている自負もあった。言葉にすると悔しさがこみ上げる。


 「これからどうするつもりだカイン」


 ギルマスのメンゼフは苛立ったかんじでたばこを吸い出した。


 ギルド内は一度たばこの不始末で火事になりかけて全面禁煙のはずだが。


 「まだ決まっていません。お金もないし。一人でダンジョン走破は無理です。帝都にいても彼らと顔を合わせることになるので地方を回ろうかと思っています。」


 「なるほど。ちょっと待ってろ。」


 メンゼフはどこかに電話を掛けだした。


 すぐに電話は切れ、それからメンゼフは何か考え込んでいるようで言葉を発しない。


 その沈黙は俺にとってすごく苦しい


 数分たっただろうか。ドアをバンと開けて2人が入ってきた。


 一人は受付嬢のミント。もうひとりは副ギルマスのマンゼフだ。


 「あら。カインちゃんじゃない久しぶりねぇ」


 マンゼフは副ギルマスであり、メンゼフの双子の弟である。俗に言うオネエだ。


 「急に呼びだててすまねえな。実はーーー」


 メンゼフが一部始終を説明してくれてた。俺はギルドすらも追放されるのだろうか。


 「なんてかわいそうなカインちゃん」


 胸毛がもじゃもじゃなマンゼフさんが抱きしめてくれる。今はこの優しい感じが染み渡るが、胸毛は嬉しくない。


 「ほんとあのこらはてんぐね。勇者だからって評判は悪いし、カインちゃんがかわいそう。」


 「カインさんは何も悪くないですよ。」


 受付嬢のミントは涙を流しえぐえぐしながらも慰めてくれる。なんて温かいひとたちなんだ。


 「パーティの追放や脱退では罰を与えることはできねぇ。ただカインの才能を眠らせるのももったいなく思ってな。そこでだ。相談なんだが、カインおまえ、ギルド職員にならないか。」


 「それって冒険者を辞めろってことですか?」


 なんとか声を絞り出しながら震える声で答える。俺はギルドにも必要とされていなかったのか。


 「そうは言っていない。カインが優秀なのは俺もマンゼフもミントも認めている。だからこそカイン。お前にギルドを手伝ってほしいんだ。ギルドはダンジョンを走破することが目的じゃねえ。新人育成から難易度の高い依頼。帝国の騎士では対応できない変わった依頼までこなさなければならねぇ。正直なところ、俺とマンゼフだけでは回ってねえんだよ」


 「わっわたしも受付なのでダンジョンにはいけませんが、カインさんと一緒に働きたいです。」


 「わたしはもちろんオッケーよ~。かわいいかわいいカインちゃんと一緒にダンジョンにいけるなんてわくわくするわ。」


 そうか。僕にはパーティでダンジョンを攻略するのがすべてだった。


 パーティは手段の一つでしかなくて、いろいろな生き方があるんだ。



 『常に強くあれ――』


 貴族の愛人の子として生まれ、身内から迫害を受けながらもそれを家訓として体の芯までたたきこまれてきた。


 もしかするとダンジョンを攻略するだけが強さじゃないのかもしれない。


 なによりギルマスや副ギルマスはパーティ《イグニスの槍》のメンバーより能力、そして人間としても強いじゃないか。


 僕は<強さ>を勘違いしていたのかもしれない。今まで何を勘違いしていたのだろうか。


 「急いで決めなくても良い。落ち着いて手伝いたくなったらいつでも言ってくれ。大歓迎だ。」


 これだけの優しさを向けてくれる彼らに義理を果たさなければならい。


 ダンジョン制覇だけじゃない。ギルド職員それがこれからのぼくの任務だ。


 僕は僕らしく強さを追求すればいい。


 彼らの期待に答えなければならない。

 

 「わかりました。ぜひとも一緒に働かせてください。よろしくお願いします。」



 僕が言うと、メンゼフの険しい顔はにんまりと笑顔に変わった。


 それはまるでこどもの成長を喜ぶ父親のような表情だった。


 「そうか。それはなによりだ、今日は疲れているだろうし、明日またお昼までには来てくれ。こっちにも準備が必要だからな。報酬や条件は明日にでも話し合おう。なに悪いようにはしねえよ」


 マッチョが怪しくにやっと笑う顔は気になるが、、、とりあえず良かった。



 僕はお礼を言い、扉から出た。宿に向かう足取りは軽くなっていた。

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