スローフードダイアリー

希見 誠

第1話

 一日目…まだ、変化らしい変化は見られない。

 二日目…表面が少しだけ水を吸っているのがわかる。

 三日目…表面は柔らかくなってきているが、まだ棒のようである。よくかき混ぜる。

 四日目…両端にしなりが出てきたが、全体としてはまだ固い。

 五日目…全体に弾力性を感じられるようになってきた。鍋の中で蛇のようにくねる。

 六日目…食べれないことはないが、噛んだときに芯が歯に残る。

 七日目…完璧なアルデンテ。だが、私はモチモチが好きなので、もう少し茹でることにする。

 八日目…歯で噛んだときにほどよい弾力感。芯まで茹だっている。まさに食べ頃、好みの味。

「さあ、飯にするぞ」

「楽しみだなあ」

「イタリアンは、スローフードでなくちゃな。やっぱりパスタは七日茹でが最高だよ」

「ところが世間では、3分茹でや2分茹でなんてものまであるらしいぜ」

「そんなに食事を急いでどうするつもりなのかね」

「まったくだ。ゆっくり食事を楽しんでこそ、人生の質が良くなるというものなのに」

「あ、しまった。パスタは茹でたけど、ソースを作るのを忘れてたよ」

「心配ないよ。レトルトのソースがあったじゃないか」

「ああ、そうか。じゃ、僕はカルボナーラにするけど、君はどうする?あれ、どうしたの?」

「いや、なに、せっかくスローフードを楽しもうというのに、パスタ一皿食べるのはあっという間だなあと思ってさ」

「それもそうだね。じゃあ、こうしよう。これは一週間かけてゆっくり食べようよ」

「それ、いいね。でも、その間の僕たちの食事はどうする?」

「大丈夫。ハンバーガーを買ってくるから」

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スローフードダイアリー 希見 誠 @warabizenzai

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