貞操逆転世界で”世界最強の暗殺者”である妻の”主夫”をしています〜しかし世界中の刺客たちから求婚されて困っています!〜

遅桜ノンネ

第一章 家族

第1話 プロローグ

これはきっと昔の夢だ。

そう僕は朧げに自覚した。


「はぁはぁッーー」


僕、織宮優姫おりみやゆきは追っ手から逃れるために息絶え絶えに薄暗い路地裏を全力で走っていた。


「おいッそっちへ行ったぞッ」


後方から聞こえる怒声に怖くて叫び出しそうになるが、必死に堪えて走り続ける。

運悪くスマホの電池が切れたのでライトが使えなくて月明かりだけを頼りに走る。


「ッと!?」


空の瓶が入ったケースにつまずき路地裏に大音量が響いた。しまった!


「!、こっちだ!」


バレた。


そもそもなんでこんなことになったんだっけ。僕はただの一般人。品行方正にただ普通に暮らして来ただけなのに。


!?


「うそ…」


十字路を曲がるとまさかの行き止まりだった。

そのとき後ろの足音が大きく鳴りやがてピタリと止まった。


「ヒヒッ、残念でしたー!そっちは行き止まりデェーす!」


「観念しておねーさんたちに素直に従うってんなら命だけは助けてやる」


「そのかわりに坊ちゃんの貞操はなくなるけどな!」


「「「ギャハハハハッ」」」


深夜の路地裏に女三人分の嗤い声が響く。レッグホルダーだっけ?ふとももの部分に銃を携帯しているのがチラリと見えた。

逆らえば殺される。さぁーっと顔が青ざめていくのが自覚できた。


「くっ…」


僕は追手の女たちと睨み合いながらじりじりと後退するがやがて背中が壁についてしまう。


「ヒヒッ、大人しくするなら優しくしてやるからよ」


女の一人の手が僕に触れた。

こわいこわいこわいこわい

いやらしい手つきで撫でまわされ、まさぐられた。

体が震えた。僕は現実から逃げるようにギュッと目を瞑り、祈った。


(助けて、神様っ)



「ぐぁッ、、、」







目の端に涙を浮かべて固まっているとふいに僕の体をモゾモゾとまさぐっていた女の手がぴたりと止まった。そして女のうめき声が聞こえた。


不思議に思い目を開けるとそこに映ったのは意外な光景だった。

女が倒れ伏していた。


(…いったいなにが?)


「おいッ一人やられた!油断するなよ!」


「あぁ!わかってる!」


残りの女二人が銃を手にして背中合わせになり周囲を見渡していた。しかしこの暗闇の中で敵の姿は見つからない。


「あっ」


でも僕にだけは見えた。

暗闇の中に輝く赤色の双眸。

その瞳が光の線となり途切れたかと思うと鈍い打撃音が続けて二発。

次の瞬間にはもう既に残りの女二人も白目を剥いて伸びたように倒れていた。


「がはッ…」


「ごべっ…」


コツコツと靴音を鳴らし、路地の暗闇から現れたのは金髪赤目のスーツを着たスラリとした長身の女だった。


月明かりに照らされて幻想的に映えていた。

外国の絵画を見ているみたい。

きれい…

ドクンッと激しく胸が高鳴った。


「ターゲット確認(ボソ)」


その女は何かを呟いた後、僕に向けて話した。


「今から君をーーー」



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【後書】

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