陽と葵のifストーリー☆ ウェディング ~in front of Heaven~
第55話 それぞれの願い
★茜の祈り★
結婚式を一週間後に控えて、
いつでも猪突猛進。
前へ前へと進んで行く茜のことを、陰ひなたに支えてくれる
そして、何かあっても良平なら一緒に乗り越えてくれると、心から信頼している自分も誇らしい。
そんな自分の幸せを、見せたかった親友がいた。
結婚式で隣にいて欲しかった友。
きっと、私よりも先に嬉し泣きしちゃうね。
陽ちゃんは泣き虫だから。
茜の頬を、ポロリと涙が零れ落ちた。
『あ! 花嫁が泣いちゃだめだよ。茜ちゃん。お化粧崩れちゃうでしょ』
クスリと笑った陽の声がした。
慌てて振り向けば、自分だって涙をいっぱいに溜めた陽の笑顔。
「陽ちゃん! 会いたかったよ」
茜は両手を広げて幻の陽を抱きしめた―――
物心ついた頃には、もう一緒に遊んでいた。
幼稚園から高校まで、毎日ずっと一緒。
正義感が強くて直ぐに行動に出る
でも、物事を見る目は確かで、いつも的確な一言を言って背中を押してくれる。
だから、茜は安心して前に進めたのだった。
そんな大好きな友がいなくなってしまったのは、高校三年の夏のこと。
病のために、帰らぬ人となってしまった―――
未だに信じられなくて、いつも心の中で語りかけてしまうけれど、もっと傷ついているであろう、陽の恋人、
でも、最近ようやく、葵も前を向くことができたようだ。
だから、私も、ちゃんと寂しいって良平の前で吐き出せたのよね。
『その言葉を、待っていたよ』と、良平は言ってくれた。
どれほど彼に心配をかけていたのかと申しわけなくなったのと同時に、それだけ愛されていたのだと幸せな気持ちにもなった。
「陽ちゃん、私、幸せだよ」
『知ってる。だって、ぜーんぶ見ていたもん』
隣で陽が、嬉しそうに笑っているのを感じる。
やっぱり、陽ちゃんは今も一緒だよね―――
ふと思った。
陽ちゃんと葵も結婚できたらいいのに。
もし、天国の入り口で結婚式を挙げられたら……
私だって、二人のウェディングを見たい!
茜は祈るように胸の前で手を合わせた。
★天国の花嫁(陽side)★
誰か呼んだ?
私は突然、まどろみの中から揺り動かされた。
ゆっくりと起き上がってみると、羽を瞬かせて空を飛ぶ天使が手招きしている。
静かに立ち上がって歩き出そうとして、洋服の裾を踏みそうになった。
長いドレス……綺麗!
まるで天使の羽でできているんじゃないかって思うくらい、フワフワでキラキラな純白のウェディングドレス。
うわぁ! 嬉しい。
くるくると裾を翻して一回りしてみれば、天使がふふふっと笑った。
『みんなが呼んでいますよ。だから、特別』
いつの間にか周りの風景が変わって、緑と青空に囲まれた白亜のチャペルの前にいた。
目の前に続く美しい花々に彩られたアーチを辿って行く。
知ってる。ここ。
だって、
その陰から、ヒョイっと懐かしい顔が飛び出した。
茜ちゃん!
「陽ちゃん!」
ぎゅっと抱きしめられて、私もぎゅっと抱きしめ返した。
私たちの間に、言葉なんかいらないね。
ただただ、二人で抱き合って、長い空白の時間を埋めていく。
「ずっと見ていたよ」
「うん、知っていたよ。陽ちゃんがいっつも隣にいてくれたこと」
「茜ちゃん、おめでとう! 良平君だったら陽も安心」
「良平、陽ちゃんのお墨付きもらえて喜ぶね」
「うふふ」
二人で微笑みあって、また抱き合う。
触れ合える。
それだけのことが、こんなに幸せに思えるなんて―――
「ずっとこうしていたいけれど、陽ちゃんに会いたい人はいっぱいいるからね。どんどん行こう!」
いつもの元気な茜ちゃんになって、私の手を引っ張ってくれた。
また、花々の間から大好きな顔が現れた。
パパ! ママ!
先に死んじゃってごめんね―――そんな言葉が最初に溢れそうになったけれど、ぐっと堪える。
だって、今日は幸せな日だから。
悲しいことはいらないから。
会えた喜びだけを両手に抱えて、二人の胸に飛び込んだ。
「パパ、ママ、ただいま!」
「「おかえり」」
二人の笑顔は、やっぱり今日も優しかった。
★地上の花婿(葵side)★
まどろみの中で、良平の声がした。
「葵、おめでとう」
何がめでたいんだ?
そう思いながら目を開けて自分を見下ろして見れば、いつの間にか白いタキシードに身を包んでいる。
なんだこれ!
こっぱずかしくて、こんなの着ていられるか!
急いで脱ごうと上着に手を掛けたら、良平が笑い出した。
「おいおい、花婿なんだから着崩すなよ」
花婿って、俺のことか?
どういうことだろう。俺は一体誰と結婚するっていうんだ?
未来の話か?
いや、そんなはずはない。
俺は陽以外と結婚する気はないんだから。
驚いた顔を良平に向ければ、良平が呆れたように言った。
「おい、何ぼーっとしているんだよ。お前もマリッジブルーなんてなるのか? んなわけないよな。ようやく竹内と結婚できるんだからな」
「陽との結婚?」
「そうだよ、葵。今日はお前と陽ちゃんとの結婚式だ」
そうか……陽とようやく結婚できるんだな。
俺は驚きよりも安堵の方が大きかった。
やっと―――陽に会えるんだ。
良平と連れ立って、白い空間を進む。
いつの間にか、美しい森の中にいた。生き生きとした緑が、梢が爽やかな風に揺れている。
まるで手招きしているようだな……
導かれた先には、白い祭壇。振り向けば花々に彩られたアーチが見えた。
「綺麗なところだな」
思わず漏れた素直な言葉に、良平がクスリと笑った。
「ああ、そうだな。葵のそんな興奮と感傷がないまぜになった顔、早く竹内に見せたいよ」
「うるせぇ」
小さく毒づきながらも、心の中のワクワクが止まらない。
陽と会える!
この日をどんなに夢見たことか―――
だから、今度こそ……
あの時お前は、『今日だけ』ってやせ我慢したろ。
俺はもう、我慢しないぜ!
今度こそ、お前を一人占めする!
お前がなんと言おうと、俺はもう、お前を手放す気は無いんだから―――
覚悟しておけよ。
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