俺の〇〇が普通じゃない。

三ツ石光輝

第1話俺の青春が普通じゃない。

「何だこれはあああぁぁァァァ!!!」

 一枚のファイルを机に叩きつけ、その女性教師は約80畳の職員室に怒号を響かせた。

「ど、どうしたんですか。これは先生が出した作文の宿題ですよ」

 奏汰は努めて冷静に接した。

 奏汰が今こうして呼び出されている理由は他でもない、この一枚のファイルの中身に関係する。

「『より多くの人外娘の餌食となり、より巨大かつ強力な快楽を追求するーー』どうしたら一年間の決意の作文がこうなる……」

 奏汰の作文を見ながら頭を抱える担任の羽中田。

「だから、俺は将来異世界に行ってたくさんの亜人や巨大娘と触れ合うんです!並みの男はムスコだけで気持ちよくなれるんだ……もしこれを全身で感じられるなら、これ以上の快感はーー」

「黙れ異常性欲者がッ‼」

「ぐはっ⁉」

 羽中田の放った右ストレートは、見事に奏汰の頬にクリーンヒットした。

「言っておくがここは職員室だ。ふざけたような真似はするな……!」

「はい………」

 奏汰は死んだような声で返事をした。

「ハァ、とにかく、これはやり直して今週中に再提出。お前の将来の夢がロクでもないことはわかったから、一年間の高校生活の『目標』を書け。いいな?」

「はい……」

数十分の説教の末、こうして奏汰は職員室から解放された。

ドアが閉まるのを見てから、羽中田は深くため息をついた。

「一体なぜ、彼はあんな性格になったんだ……あれさえなければ、きっと彼も良い青春を送れるだろうに。いや、普通だったら、こんな難関校受験しないか。全くよくわからん男だ……」

 彼らの物語の始まりは、約二週間前の入学式まで遡る。


        ◇ ◇ ◇


 4月の暖かい朝、歩道を埋めるブレザーの中に、奏汰たちはいた。

「なぁ、お前こんな難関校受ける必要あったかのか?お前たしか作家志望だろ」

 奏汰の友人である、疾風が言う。それに対して、奏汰は真面目な顔で反論した。

「いや、異世界に行くには科学の知識が必要かもしれない。だからこの高校で推薦枠を取って、東大に行って異世界の入り口を発見するんだ!」

「お前そこまでして被食者になりたいのかよ……」

 奏汰の真面目な表情に反したトンデモ理論に、疾風はかなり引いた表情をしながらつぶやく。

 彼らが入学する、私立斎条高校は、偏差値76と極めて高いレベルの高校だ。そんな高校を目指した理由が、異世界の亜人に丸呑みにされたいからだなんて恐らく誰が聞いても呆れるだろう(というか引く)。

「この世界と異世界を繋ぐ道さえ発見すれば、異世界に住みながら作家業で稼げる。つまり、俺の夢を両方叶えられる!」

「は、はぁ……」

「見てろよ、俺は必ず異世界に行って、亜人の美少女たちと幸せな生活を勝ち取ってやるぞ!」

「ガンバレガンバレ〜」

 奏汰はその決意とともに、拳を強く握って、突き上げた。

 棒読みで激励の言葉を贈った疾風は、直後苦い笑みを浮かべ、奏汰に訴えた。

「で、周りの視線が痛いから、やめてくれないかな……?」

「……?」

 奏汰が辺りを見渡すと、さっきまで雑談を交わしていた他の連中は、そろって奏汰たちに氷の視線を向けていた。

「……なんか今日寒いな。早く教室行こうぜ……」

「お前のせいだぞ」

 疾風の言葉をスルーして、奏汰は足早に正門をくぐった。

 そこからは、疾風に注意されたのもあってできる限り凡人を演じ続けた。


『ボラレフィリア』ーー相手に丸飲みにされることに対して性的興奮を覚える非常に珍しいと言われる異常性癖。

 男子高校生である、桐生奏汰もその性癖を持つ人のうちの一人だ。この物語がどこまて狂ってしまうのか、彼らはまだ知らない。

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