鐘の音

キザなRye

全編

 空の色が青から赤へと変わっていくような時間帯に一人の女性が事務所に駆け込んできた。

「一つ調べてほしいことが……」

少し顔がひきつっていて悩みに悩んで来たことが分かるくらいだった。

「まずは落ち着いてください。ゆっくり話を聞きますから取り敢えず座ってください。」

綺麗に整った髭や髪を白く染めた男性が優しい口調で話しかけた。女性は言われた通りにゆっくりと座った。

 「私は市の中心部にあるお寺の近くに住む者なんですが、毎晩毎晩真夜中になると鐘が鳴るんです。最初は住職さんが鳴らしているんじゃないかと思っていたんですが、聞いてみたところそうではないらしくて。住職さんはお寺を離れられないということで代わりに私が相談に来たんです。」

座ってふうと息を吸うとベラベラと話し出した。とにかく私は話し切るんだという強い熱意みたいなものが感じられた。

「何か原因として考えられるようなものはないんですか。」

「住職さんと話をしてみたんですが、これと言って……。」

「なるほど。深夜12時くらいに鳴っているということで間違いないですかね。」

「はい。」

「それでしたら今、行きましょう。住職さんにお話を聞きたいですし、カメラをセッティングしましょう。」

「分かりました。では案内します。」

 二人は十数分の間歩いた。ほぼ会話を交わすことなく、沈黙が続いた。こんな都会にお寺があるのかという場所にお寺があった。豪華さは市の中心部にあるのが理解できるくらいだった。階段を上ると目の前に住職がいた。

「この方は松井さん、この間話をした探偵さん。」

住職と女性の間で何か話をしている。状況の説明をしている。

「原因不明で鳴っているのはあの鐘です。」

歩きながら鐘の方に進んでいって住職はそう言った。

「鐘が鳴るようになったのは大体二週間前ですかね。最初の方は風とかでたまたま鳴っていただけだと思っていました。ただそれが続くにつれておかしいぞと思って鐘を調べてみたんですが、特に変化はありませんでした。」

男性の鐘についての問いに対して住職はこう返答した。彼なりに原因を調べてみたらしい。一番よく知っているであろう人が調べてみても分からないとなると相当厳しい戦いになりそうだと探偵は思った。

「取り敢えず鐘の周囲に数台のカメラをセッティングさせてください。」

住職はこれを承諾し、三人で手分けして鐘が画角にしっかりと収まる位置や鐘の内部が見えるような位置など数ヵ所にカメラを設置した。

「また明日来ます。そのときにカメラを回収しますね。」

それだけ言って男性は帰って行った。

 翌日の午前中に男性は再びお寺を訪れた。滞在時間はほぼなく、設置したカメラを回収してそのまま撤退した。その足で事務所に行き、一晩で取れた映像を確認した。その映像から鐘の鳴る原因が分かった。

 お寺の境内には住職、女性、探偵の三人がいた。探偵は他の二人が映像を見ることができるように画面が大きめのパソコンを持っていた。

「真夜中に鐘が鳴る原因が分かりました。この映像を見てください。」

再生された映像には鐘の裏に隠れているどんぐりを持っていくりすの姿が映っていた。どんぐりを持っていくときに鐘が鳴っていた。

「このりすが要因ということですか?」

「はい。動物愛護団体の方にこのあとご連絡してりすを保護してもらいます。」

「いや、それは大丈夫です。」

「どういうことですか、住職さん。」

「ここは市の中心部で動物なんて滅多にいないんです。そこにりすがいるとなれば私がきちんと保護します。鐘がならないようにどうすれば良いのか考えるのは私のやるべきことだと思いますので。」

 その後、住職はりすのためにあれこれして鐘の裏側ではないところにどんぐりの溜め場を作った。これにより真夜中に鐘が鳴ることはなくなった。専門家によると人があまりいない時間帯に食べ物を取りに来ていたので真夜中に鐘が鳴っていたのだという。動物と人間が都会でも共生できるような世界の実現に住職は今後従事していくのだろう。

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鐘の音 キザなRye @yosukew1616

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