朝起きると女になっていた俺ですが、色々あってお嬢様学校に転入するようです。〜なぜか学校中の女子にお姉様と慕われるようになりました。いや、ハーレムになるなんて聞いてないんですけど!?〜
#14「着せ替え人形にされてしまったようです」
#14「着せ替え人形にされてしまったようです」
「……ところで、最初はどこに行く予定なの?」
俺がそう尋ねると、華恋と杠葉ちゃんは顔を突き合わせた。そして華恋が答える。
「うーん、そうだなぁ……まずは駅前まで行って、そこからは気になったお店があったら色々見て回るつもりだけど……ねぇねは、どんな服が欲しい?」
「欲しい服ねぇ……」
正直、流行りの服なんてものは、全く分からないからな……。
「……2人が似合うと思った服でいいよ」
「むむ……また難しいことを……」
俺の答えに、華恋は頭を悩ませる。
まぁ、ほとんど丸投げなのは悪いとは思うが、分からんものは分からんのだから仕方がない。
すると杠葉ちゃんが尋ねてくる。
「朱鳥お姉様は、普段どんな服を着てるんですか?」
普段着てる服って言ってもな……。
「んー……今着てる服と似たようなワンピースが2、3着……それと、ジャージとスウェットが何着か……」
「……もしかして、それだけですか!?」
「う、うん……そうだけど……」
まぁ、少ないわな。それは流石に俺も分かっている。
それに数少ない女物の服も、母さんの趣味全開のチョイスだ。別に俺の好みって訳じゃない。
「……ほら、ねぇねって海外での暮らしが長かったから」
華恋が助け舟を出してくれたので、俺もそれに乗っかる。
「そうそう……こっちに来る時に荷物になるのが嫌だったから、何着かだけ選んで他は全部向こうに置いてきちゃったの。だから、着ていく服に困ってて……」
「ふーん、そうだったんですね……やっぱり海外暮らしが長いと大変ですね……」
なんとか誤魔化せたようだった。
華恋もたまには気が利くな。
「……そうなのよ。それに海外暮らしが長かったせいで、こっちでどんなファッションが人気なのか全然知らなくて……。だから色々教えてくれると嬉しいな」
「そういうことなら、任せてください!」
俺のお願いに、杠葉ちゃんは張り切った様子をみせる。
それを見て俺は、なんだかほっこりした気分になるのだった。
そんな感じで杠葉ちゃんの健気さに癒されつつ、適当に駄弁りながら最終的にたどり着いたのは、駅前のショッピングセンターだった。
映画館なんかも入ってたりする大型施設で、地元民の憩いの場にもなっている、そんな場所だ。
レディースファッション系の店舗もいくつか入っていたのを覚えている。
……まぁ、流石に女になる前は入ったことがなかったため、その辺りはまったく詳しくないが。
華恋と杠葉ちゃんは、時おり展示されている洋服見て、やれ可愛いだのやれ綺麗だの色めきながら歩いていき――やがて、あるセレクトショップの中へと入っていった。
俺はぶっちゃけそのノリについていけなかったため、一歩後ろから2人に付いて、その店の中に入る。
「朱鳥お姉様は、何か気になる服は有りましたか?」
杠葉ちゃんが、振り向いて俺に尋ねてくる。
「そうね……」
正直、女性物の服についてはサッパリだったが……今の女になった『天王寺朱鳥』に似合う服ということであれば、いくつか候補が思いつかないでもない。
そもそも今着ている服は、母さんが用意した服な訳で、完全に母さんの趣味が入っている。
清楚系のワンピース――確かに、それもそれで悪くはないのだろうが、俺としてはもうちょっと動きやすい服がいい。
だから俺は思っていることを、そのまま杠葉ちゃんに言った。
「……もうちょっと、動きやすい服がいいかな」
「動きやすい服? 例えばどんなものですか?」
「うーん……」
例えば、か……。
「例えば……そこのジャージとか――」
「――却下!!」
華恋に食い気味に却下される。
……まぁ、うん、分かってたよ?
「ねぇねの服は私と杠葉ちゃんで選ぶから、ねぇねはじっとしてて、ね?」
「ああ、うん……」
「……ふふっ」
すると俺と華恋のやりとりを見ていた杠葉ちゃんが、噴き出すように笑う。
そして、それに自分でも気付き、顔を赤らめる。
「あ、いえ……私勝手に、朱鳥お姉様はしっかりした人だと思ってたから……その、こんなにお茶目な人だったんだなって……」
「……言われてるよ、ねぇね」
うるせぇよ。
俺が華恋に脇腹を小突かれてるのを見て、杠葉ちゃんは慌てて弁明する。
「違うんです……! 別に変な意味じゃなくて……もっと遠いところにいる人だと思ってだから……だから身近に感じられて嬉しいんです」
ここのところの俺は、栖鳳女学院に馴染むために女らしさを演じてたところはあるからな……。それが杠葉ちゃんにはお堅い感じに見えたのかもしれない。
俺は杠葉ちゃんに向かって言う。
「そっか……それは良かった。こんな私だけど、これからも仲良くしてくれる?」
「はい、もちろん……!」
「……じゃー、話もまとまったところで、杠葉ちゃんとねぇねに似合う服探してくるから、そこで待ってて?」
華恋は杠葉ちゃんの背中を押して、奥へと入っていった。
果たして華恋に服選びのセンスがあるのかはちょっと疑問だったが……まぁそこは杠葉ちゃんがいるので大丈夫だろう。そこは信じて待つしかない。
そして俺は華恋に言われた通り、その場で2人の帰りを待ったのだった。
◇◇◇
そんな訳で、2人を待つこと、数分。
華恋と杠葉ちゃんが戻ってくる。
「お待たせ、ねぇね! 取り敢えずこれ着てみて?」
華恋が俺に服を1セット渡してくる。
「これを……?」
「いいから、いいから」
そして、半ば無理やり試着室に押し込められる。
「……」
俺は渡された服を両手で広げる。
それにしても……なんだこの防御力の低そうな服は。
自分なら絶対に選ばないような布面積だった。
この世界がRPGだとしたら、たぶんこの服は最初の村で売っているものに違いない。
……だが、他に選択肢がない以上、着るしかない。
俺は渋々、試着室の中で着替えた。
「……ねぇね、着れた?」
しばらくして、華恋が声をかけてくる。
「ええ、なんとか……」
「じゃあカーテン開けるよ?」
「え? いや、ちょっと待っ――」
華恋は、俺の静止を一切気にすることなく、勢いよくカーテンをスライドさせた。
――2人の目の前に、露わになる俺の姿。
「っ……」
俺が渡されて着替えたのは――、ノースリーブのブラウスと短いスカートの攻めたコーデだった。
何というか……下半身がスースーして心許ないんですが……。
だが、2人的には悪くなかったのか、満足そうにウンウンと頷く。
「……ねぇねって脚長いから、こういう脚を出した格好似合うと思ってたんだよねー。やっぱり思った通りだったわ」
「すごい……朱鳥お姉様ってスタイル良いですね……」
どうやら褒められてるようだし、そこまで悪い気はしない、が……だからといってこの羞恥心はどうにも拭えない。
「ねぇ、華恋、杠葉ちゃん……この格好、すごく恥ずかしいんだけど……」
「こんなので恥ずかしがってたら、なんにも着れないよ!」
「で、でも……回し蹴りしたらパンツ見えちゃうし……」
「普通の女の子は、回し蹴りなんてしません!」
「うぅ……」
――そこから、華恋と杠葉ちゃんの2人で、俺の着せ替え合戦が始まる。
もちろん、俺の意見は完全無視で。
「――これ、可愛くない? ちょっと着てみてよ、ねぇね」
「――これなんかどうですか? ちょっと試着お願いします」
……なんかもう、2人の着せ替え人形じゃねぇか。
とはいえ、様々な可愛らしい服を着ている自分を見て……満更でもない自分がいるのも事実だった。
鏡を見て……俺って意外とイケるじゃん、みたいな。
「――あれ? もしかして、ねぇね、意外と楽しんでる?」
しかしそれを華恋に指摘されて、ようやく我に返る。
「……べべ別に、楽しんでなんかねーし!」
「もー、そんなに否定しなくてもいいのに。ねぇ? 杠葉ちゃん」
「うん! 朱鳥お姉様、すごく可愛いです! 自信持ってください!」
「……そう?」
「はい! とっても!」
そんなに褒めてもらえると、やっぱり悪くないかも、と思えてくる。
「いやぁ、そっかそっかぁ、似合っちゃうかぁ」
「…………チョロくね?」
……聞こえてるぞ、妹よ。
◇◇◇
――そんな紆余曲折もありつつ、俺は2人に選んでもらった服を何着か購入した。
ちなみにスカートの購入については、今回は控えさせてもらった。
俺にはまだハードルが高すぎる。
その代わりに、キュロットとかいうものを選んでもらった。ざっくり言うとスカート風の短パンだ。形状はスカートに似ているが、下に布がある分スカートよりも安心感がある。
学校の制服もスカートではあるが、あれは意外と丈が長いので、防御力があるのだ。割と履くことに抵抗を感じない。
だがオシャレ重視のスカートは、履けるようになるまで、もう少しかかりそうだった。
……まぁ、今後はそういう羞恥心も、徐々に無くしていかないといけないのだろうが。
目当ての洋服を買った後も、雑貨屋などを適当に冷やかしつつ、帰路に就く。
「……あー、楽しかった」
俺は帰り際、そう呟く。
それを耳聡く聞きつけた華恋が、
「あれぇ〜? ねぇね最初は渋々って感じじゃなかったっけぇ〜?」
うっ……。
「べ、別に……思ってたよりは楽しかったってだけ!」
「もぉ〜、照れちゃってさ〜」
別に照れてねえし!
そんな俺と華恋の会話を、杠葉ちゃんは微笑ましげに見守る。
俺は杠葉ちゃんに尋ねていた。
「杠葉ちゃんは、どうだった?」
「はい……とっても楽しかったです」
「……そっか」
俺だけ楽しんでいたのではないかと多少心配だったが、杠葉ちゃんも楽しんでくれていたのなら、良かった。
「あの……」
「……ん?」
杠葉ちゃんは俺の方をチラチラと窺いつつ何度も言い淀みながら、ついに意を決して俺にこう告げる。
「もし、良かったら……またこんなふうに朱鳥お姉様と遊びに行きたいです」
そう言った杠葉ちゃんの顔は、真っ赤になっていた。
それに対して、俺は――。
「――そんなこと、わざわざ聞かなくても良いのに」
「え……?」
「また遊びに行きたいと思ったら、好きに誘えば良いんだよ。それが……お友達ってもんでしょ?」
今までロクに友達いなかった奴が何を偉そうに言ってるんだ、と思うかもしれないが――これは、今の俺の、紛れもない本心だ。
「だから、また――遠慮なく誘ってよ」
「――……はいっ!」
そう言って微笑む杠葉ちゃんの表情は、間違いなく今日イチの笑顔だった。
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