第6話 唵摩訶摩瑜利迦楼羅廬舎那仏莎詞 フライ・ハイ(またまたインチキ呪文発動)

 魔法耐性が意外に高かったのだろう「ニブい」とか「鈍感」とも言う、ミノタウルスの傭兵さんが一人一頭?、「ううぅん」なんて小さくうめきながら上体を起こした。

 私が、タフだなあ、とか思いながらぼんやり眺めてると、そのミノさん(?)は、こっちを見るなり、大きく目を見開き、いきなりがばっと立ち上がり、牛そのままの勢いで土煙をあげて、と、こちらに突進してきた。


 そして私の背後に回りこんで、左手を回して私の両肩を抱え込み、右手で短剣…… ん、左手で短剣、右手で両肩だっけ? まあそれはどうでもいい。とにかく私の喉元に凶器を突き付けて叫んだ。


「お、おい! この雌ガキの命が惜しかったら、これ以上、変な真似をするんじゃねえ。そ、それから、すぐに仲間を回復しろ」


 あーあ、声が裏返ってますけど。

 巨体に似合わねー。

 ん、でも、今何と言った? 「」だとお!

 スバラシク下品なヒトコト、言ってしまいましたね。

 許さん!!


おん摩訶摩瑜利迦楼羅廬舎那仏まかまゆりかるらるしゃなぶつ莎詞そばか 、フライ・ハイ!」


(はぁ…… 毎度毎度デタラメな呪文もどきを唱えおって。それに最後に「フライ・ハイ」だと?)


 小さく唱えると同時に私の身体は空中高く飛翔。

 もちろん背後から私を抱え込んでいる牛さんの身体も一緒についてくる手を離せばいいのにな~


「あわわ……」(ミノタウルス・談)


 そして城壁と同じぐらいの高さまで上昇したところで素早く反転、今度は逆に頭から地面へ高速で落下した。


 


 と、大地にくいを打ち込むような重い衝撃音と共に、私より遥かに背の高い牛さんの頭部だけが地面に激突、2本の角から地面に突き刺さった。

 私は音のした瞬間、牛さんの力が緩んだ隙に腕から逃れ、また反転。脚から地面にふわりと降り立った。


「「「「「「「「「「おお―――!」」」」」」」」」」


 周りで見ていた皆さんが驚きの声を上げる。

 今日も満員のお客様、期待通りの反応、ありがとうございます。


(一体何なのだ、それは)


 え? いやあ、やっぱりお客様には常に感謝の心を持っていないとね。

 ほら、拍手してくれてる人もいるよ。心の声さんもちゃんと感謝して……


(お前はいつから芸人になったのだ。誰がお客様だ! それに、そんな事は言っておらん。我が言っておるのは、あの呪文だ。「摩訶摩瑜利」は孔雀明王、「迦楼羅」はガルーダ、「廬舎那仏奈良の大仏はコレ」は大日如来。何の神や仏に帰依しているのかも分からぬ、ゴチャ混ぜのオールスター感謝祭感謝祭って? TBSさん、ごめんなさい(作者談)ではないか)


 まあまあ、いつものことじゃん。

 それに、孔雀とガルーダには翼があるし、飛翔呪文には似合ってると思うよ。


(では、大日如来はどうなのだ)


 そこはそれ、「さあ、太陽に向かって高く飛ぶぞぉーっ」って勢いでどうよ?


(はぁ…… それで、さっきの教会の呪文の話だが)


 えーっ、まだあるのぉ?

 そんなんだからオジサンの話はクドイって言われるんだよ。


(黙って聞け! これからが大切な所なのだ)


 わかったから、ウザいウンチクは無しで!


うーっ……少し傷つきながら ほ、本来、ヒト族はその繁殖力の強さを武器に、数の力で魔族を駆逐してきたのだ。それは知っているだろう?)


 はいはい。まあね。


(それが、ここ数百年の均衡状態にれて、魔導士の大量養成による戦力の大幅な増強という手段に出たのだろう)


 それって、近い内にヒト族から魔族に決戦を仕掛けるってこと?


さあねぇ……今度は、ちょっと得意げに ボク、子供だから良くわかんないや)


 つまんない。とてつもなくつまんないボケ。

 もっと笑いのセンスを磨きなよ。


ううっ……またまた傷つきながら と、とにかく、ここ暫くの様な勇者頼みや領地争いの小競り合いではなく、大規模な攻勢を掛ける準備である事は間違いない。なにしろヒト族は人口が膨大だから、例外とはいえ、魔導士候補の総数は相当になる。一人ひとりの魔力は微弱でも、数が揃えばかなりの戦力になるからな)


 うーん、なんだかアブナイ話になってきたねえ。

 まあ,その時はその時だよ。

 明日のことは明日、未来のことは未来になってから考えよう。


(…………)


 でさあ、エノク語じゃないってのはわかったよ。

 考えてみれば、秘密の言語を神様や天使がそう易々やすやすと人間に教えてくれるわけないもんね。


(そういうことだ)


 でも、だったらなぜ心の声さんはエノク語を知ってるのそこですよ、問題は!(作者・談)


ドキッ そ、それはあれだ。色々と事情があるのだ。むにゃむにゃむにゃ……)


 ふーん。そんなことは大したことじゃないけどねまあいいか、なんてね。またテキトー

 長く生きてれば、私の知らない、いろんな経験をするだろうし。


そ、そうだろう。なっいかにも嬉しそうに!)


 そうそう。だって心の声さんみたいなオヤジと違くて、私、まだ花も恥じらう真っ盛り、経験不足の14歳、キャーッ!!


(…………)


 ここでやっと、衛兵さんたちが慌てて走って来た。

 角のある人は隊長さんと、他にはええと三人だけ。

 隊長さんが平身低頭、何度も深く頭を下げて謝ってくれて、逆にこっちが恐縮した。


「申し訳ありません! 魔王様の御威光で、この頃はこういった常識のないやからは見かけなかったので、油断怠慢?しておりました。今後更に注意致しますので何卒なにとぞご勘弁をっ!」


 デリーシャス傭兵団の皆様は、気を失ったままどこかに引きずられて行く。

 あーあ、目が覚めたら監獄かあ。

 隊長さんの狼狽ぶりからして厳重注意だけでは済まなそう。

 下手すると強制労働か、まさかこんなんで処刑(!)ってことはないよね。


 まあ、正当防衛成立ってことで過剰防衛? いや~、そんなことは、あっはっは

 難しい話は置いといて、晴れ晴れとした気持ちで魔王の街を訪問しましょう。



 そして、門を一歩くぐって目の前に開けたのは


!」

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