第21話
シアリーズは衝撃を受けても倒れたり、体勢を崩したりはしなかった。
むしろ、衝撃の力を上手く受け流したり、その力に乗って素早く移動するほどだった。
それはシアリーズがこの力を良く知っていて、何度も訓練したからこそできる芸当だった。
一方、ジャンババンは衝撃を受けるたびに体勢を崩してしまう。
ジャンババンも少し訓練を積めば、衝撃に慣れてしまうかもしれないが、この戦いの中でそれを成すのは困難だった。
しかも、ジャンババンが加速の力を持つアーティファクトを発動しようとするたびに衝撃が飛んでくるので、ジャンババンは本領を発揮できずにいた。
それはつまり、ジャンババンが懐中時計の形のアーティファクトを手にして、発動のスイッチを押そうとするたびにメリーアンが衝撃波を起こしている、という事だった。
問題はソルだった。
思いついた作戦を伝えるためにメリーアンに近づこうとするのだが、その度に衝撃がソルを襲うのだ。
しかも、近づけば近づくほど衝撃の威力が増すので、メリーアンに近づくのは非常に困難だった。
しかし、なんとしても近づかなければならない。
作戦はジャンババンに聞かれてはいけない。
ジャンババンに聞こえないようにメリーアンの傍で小声で伝えなければならないのだ。
「メッ、メッ・・・メェエエェエーーーー!」
メリーアンの名前を呼ぼうとしたさなかに衝撃を受け、まるで羊のような声を上げるソル。
その声と必死に自分の元へと向かおうとするソルの行動を見て、メリーアンはソルが何かを伝えようとしている事に気が付いた。
そして、シアリーズとジャンババンの戦いの様子を窺いながら、合間を見て、メリーアンはソルに近づいた。
「どうしたんです!?ソルさん」
「はあ、はあ、はあ・・・、ようやく近くに・・・はあー・・・」
「どうか落ち着いて。でも、あまり時間はありません。すぐにまたこのエンジェリックアネレクサを発動しなくてはシアが・・・」
「はあ、はあ・・・。作戦があるんです。こっちに・・・こっちの方に・・・」
息を整えながらソルは弱弱しく、ある方向を指さした。
それはジャンババンたちが戦っている場所から少しばかり右にずれた方向だった。
「・・・この先に崖があるんです。少しばかり行ったところだ。その衝撃を上手く使えば・・・」
「崖、ですか・・・」
メリーアンは深く考えた。
そして、コーザの方を見た。コーザは衝撃の特性を理解してか、はるか遠くの方で待機している。
メリーアンはそれを見て再び考えた。
「崖・・・上手く使えば・・・」
また少し考えて、メリーアンは静かに「分かりました」と言った。
「ソルさん、シアに今の話を伝えに行ってくれますか?そして、シアと一緒に戦ってほしいんです」
さらにメリーアンはソルの手を両手で優しく包み込み、顔を近づけて言った。
「そして、可能ならジャンババンさんを崖の方に誘導してほしいんです。シアと協力して・・・できますか?」
そう言われて「出来ない」と言えるはずもなく、ソルは「い、いい、行ってきます」と言って走っていった。
全身打撲で痛む体も、この時ばかりは気にならなかった。
ソルは作戦成就と恋のために走った。
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