ガラクタ発見器
Kは発明好きな人物だった。彼は幼いころからいくつもの発明品を作り上げていき、その数は日を追うごとに増えていった。
しかし、Kはその発明品の数々を世の中に公表しようとはしなかった。いや、できなかったのだ。最初の頃は何度か世間に公表しようと試みたりもした。けれども最初の発明品は失敗作や人々が欲しがらないものばかりで、世間の評判はいまいちだった。
そのことが原因で、Kは世間に発明品を公表するのが怖くなっていた。自分の発明品がガラクタ扱いされるのが、耐えられなかったのだ。
「このままでは、僕の発明家人生は終わりだ」
Kはそんな風に日に日に思い始めていた。
Kが発明家になってから十年、発明品も二十を超えたころ、Kはあるものの発明に成功した。
「よし、遂に完成したぞ。これで僕のこれまでの成果がはっきりする」
Kが喜び見つめる先にあったのは、懐中電灯のような形をした発明品。頭には大きなライトが付いており、しっぽの方にはスイッチのような大きなボタン。そして持ち手の部分の先にはメーターのようなものが付いている。そんなものだった。
彼が発明したそれは、ガラクタ発見器だった。ガラクタ扱いされるのが怖いなら、いっそ自分の発明品にまず指摘してもらおう、そんな思いから出来たものだった。そのライトでものを照らすと、ガラクタならメーターの針が上に、そうでなければ下にいく、そんな仕組みだった。
「早速試してみよう。これがガラクタかどうかわからなければ、意味がない」
Kはそう言いながら、まずは最初に発明した眼鏡にライトを向けた。服の中を透かして見れる、なんてものを想定して作ったのだが、どういうわけか臓器から骨の部分まで見えるようになってしまった、透けすぎてしまったのだ。
「さあ、これはガラクタか」
ライトのスイッチを照らす。しばらくすると、ギギギという音と共にメーターが動き出した。徐々に動き出した針は、想定通り上に向かっていた。
「おお、ちゃんとガラクタ判定してくれた。少々がっかり感もあるが、ちゃんと判定してくれたのは良しとしよう」
Kは満足げに笑みを浮かべた。けれどもその笑顔は長くは続かず、やがてきりっとした表情に変わった。
「いや、これだけで満足してはいけないぞ。まぐれということもありうる。他のものでも試してみよう」
Kはライトのスイッチを切り、次の測定の品を探し始めた。
次にKが目を付けたのは、世間にガラクタ扱いされた若返りの薬だ。確かに若返りはするのだが、飲んだ次の日に下痢が止まらなくなってしまったのだ。
「よし、どうだ」
ライトを照らしてみると、今度は先程よりもより上に、メーターの針が向かった。
「おお、これは今回のは本当に成功品かもしれないぞ」
Kは喜びながら、周りの品々にライトを当てた。壊れた扇風機に、焦げ付いたフライパン、コンセントの千切れたテレビなど。そのどれも、メーターはぐんと上を差し、ガラクタであることを示し、Kはますます満足する。
「では、ガラクタでないものに当ててみよう」
Kはそう言って、今度は家の中にあったクーラーにライトを当てた。去年買ったばかりの、高性能の最新型だ。
ギギギ、という音と共に、今度は下にメーターが動いた。
「おお、今度はちゃんとガラクタではないと発見してくれた。いいぞ、この発明は成功だ」
Kは一安心といった様子でこれまで以上に喜びの表情を見せた。他のいくつかのガラクタとは言えないものにもライトを当てて効果を確かめると、Kは満足げな様子で研究室に入った。
「よし、これからが本題だ」
Kはそう言って自分の発明品を目の前に並べた。
「さあ、僕の発明品はガラクタなのか」
Kは目の前の発明品にライトを向けた。
最初に向けたのは、飲むだけで話した言語が英語になる薬だ。一応彼が試した時には手ごたえは確かにあったが、それでも不安だった。
ギギギ、という音と共に、メーターは一気に下に降りた。
「おお、成功か、これはガラクタではないか」
Kは嬉しそうに次の発明品にもライトを照らした。今度は家政婦ロボットだ。日常的にKが使用しているが、まだ世間には公表できていなかった。
「おお、これも成功品か」
家政婦ロボットも、メーターは下にいった。Kは嬉しそうにその光景に満足していた。
「これは、僕の初期の発明品がガラクタでないということ。僕は素晴らしい発明家なのかもしれない」
Kは自信がついてきたようで、嬉しそうにそう言った。
そしてすべての発明品にライトを当て終わると、そのほとんどがガラクタでないという結果が出た。
「おお、これはすごいことになったぞ。早速世間に公表する準備をしよう。十年ぶりの発明品の発表でその数々が素晴らしいもの。きっと世間の奴らも驚くだろう」
Kは急いで準備を始めた。いろんな資料を鞄に押し込んでいると、手が滑ってガラクタ発見器が落っこちてしまった。
「ああ、やってしまった」
Kはガラクタ発見器を手に取ってそう嘆いた。ガラクタ発見器のライトがちかちかと点滅し、メーターがぐんと上を差していたのだ。
「落とした衝撃で壊してしまったか。良い発明品だったのに、残念なことをした。それでも、成功した発明品はたくさんある。良しとしよう」
Kはそう言ってガラクタ発見器をゴミ箱に放り込んだ。
確かに、ガラクタ発見器は壊れてしまっていた。しかし、Kの言ったように落とした衝撃からではなかった。落とした弾みでライトのスイッチが押され、後ろを向いていたKがライトに当てられて……。
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