One/Hundred ~ "最強能力"が蔓延るVRデスゲームに頭脳で挑みます

柏木 巧

第一章:異能力100人サバイバル『Centono』

第1話 異能力100人サバイバル『Centono』

「ここで死ね、化け物が!」



 その怒声を合図に、横並びになった男女は秘めたる能力を発動した。

 彼らの狙う『敵』の背後はそびえる崖の袋小路であり逃げ場は残っていない。



「大炎波ァ!」



 まず動いた金髪の男は、腕から火炎を濁流のごとく発し津波のように燃やし流す。

 地面までもを融解させ焼き尽くし、一瞬で地獄の様相へと変えた。



「弾けろっ」



 隣の小さな少年は、銀髪を総毛立たせながら全身から光を発し始める。

 彼の周囲の空気はバチバチと何かが割れるが如き音が続き、一瞬の間を置いてから炎海へ向け稲妻が迸った。



「その首もらった!」



 前衛の女が二本指を振り抜けば、その場に歪みのようなものが生じる。

 歪みは風の刃、いやさ全てを斬り刻む暴風の壁となり、融解した地面、炎、雷らを裂きながら殺到した。



「骨も残さん」



 最後まで背後に控えていた男は、親指を下へ向けながら力を使う。

 協力者三名の攻撃が殺到する中、しだいに天から光は薄れ、地上に巨大な影を落とす。

 見上げれば大小無数の隕石が、暗雲を押し開いてターゲットの頭上へと降り注いだ。


 攻撃に全力を注ぐ四人には油断こそなかったが、それでも驕りは残っていた。

 逃げ場のない状況で、これだけの攻撃を放たれて無事でいられるはずがない。

 そんなごく当たり前の希望的観測は、やはりごく当たり前に消し去られた。



「……は?」



 呆けた声が出るのも無理はない。

 避けることなど不可能の全方位攻撃が、瞬き一つの間に全て消え去ってしてしまったのだから。

 奴の足下は大地があり、草が生え、背後の崖の形状もそのまま。

 まるでダメージを受けたようには思えない。



「だ・か・ら、言ったじゃーん。俺様に"選能イデオ"は通用しないんだーって! 慣れない即席チームごときが傷一つでもつけられるとでも思ったのかなー?」



 化け物はしてやったりと嘲り笑い煽って見せた。

 犬歯剥き出しの醜悪な顔は、渾身の一斉攻撃を防がれたという事実と相まって、襲撃者たちを一歩退かせる。



「くそ、どうあっても効かないのか!?」


「うろたえるな! イデオが効かないのなら、取り囲んで殴り殺せ!」


「そ、そうよ! あいつはきっと、能力を消し去る無効化系能力者!」



 転がっている手近な石を拾い上げた四人。

 幾分と、という言葉では足りないほどにスケールダウンしてしまったが、それでも数の上では圧倒的有利のはず。

 だというのにどうだ、多数側の表情には余裕がなく、未だに笑みを崩さない男とは対照的だ。



「く、ふ、ふは、あはは、ハハ、アハハハハハハハハ! あー、そう? そうくる? そーかそーか。ていうかよく生き残れたよなお前ら。もっと優秀なのは腐るほど転がっていただろうによぉ!」



 勝利宣言代わりの呵々大笑。

 笑いすぎて目のはしに溜まった涙を人差し指でぬぐい取ると、そのままその指先を炎使いへと向け指した。



「消えろ」



 音はなかった。

 ただただ、体が崩れ去って消えた。

 まるで初めからそこに存在していなかったかのように。



「ひっ……!」


「最後だし教えてやるよォ! 俺様のイデオは! 俺が選んだ対象を跡形もなく消滅させる力! てめぇらとは頭の出来がちげぇんだよぉー!」



 隕石使いが頭部から順に消えてなくなり、雷使いは背を見せた瞬間に崩壊した。

 高笑いを続ける男は溢れんばかりの自信と確信を顔に出し嗤う。

 ついには腰を抜かし動けなくなった真空波能力の女に向かって舌を出して挑発を始めた。



「……で? 誰が追いつめられたって?」


「く、そぉ、死ねぇ!」



 破れかぶれに放たれる最大威力の真空波……は、不発に終わった。

 発動できるわけがない、振り抜いた右腕はすでに肘から先が消えてなくなっているのだから。



「あっ、あっ、あ……」



 砂のように順に崩れる自分の体を凝視しながら、襲撃者最後の一人は消し去られた。

 すでにこの場には音もなく、人の気配もない。

 圧倒的な理不尽さを存分に発揮した孤独な王は、この結果に全身の血を沸き立たせた。



「──はぁ! 黙らせてやった! 俺様が全て! このサバイバル、俺様の勝ちだ!」



 勝ち鬨を上げ叫ぶ男の満面の笑み。

 しかし、それも次第にいぶかしむ表情へと変化する。

 左右を見回し、己の手を見つめ、舌打ち一つ。



「おい、運営! もうプレイヤーは残ってねぇはずだぞ! 終了宣言はまだか!」



 やはり返答は無かった。

 索敵能力者が嘘を吐いた可能性を考え始めるも、それにしては襲撃してきた四馬鹿にも背後を警戒する様子は無かったように思える。



「ったく、どうなってやがばっ……?」



 頭に鋭い衝撃が走り、よろけ、体勢をたもてずに情けなくも倒れた。

 頭を押さえた右掌は真っ赤に染まり、頭部は穴でも空いたかのように陥没し、中身を溢れさせ嫌な音が脳髄に反響する。



『──ゲームセット。勝者No.17』



 薄れゆく意識の中で最後に聞いた番号は、彼のナンバーではなかった。

 どこで間違えたのか、どこから仕組まれていたのか。もうそれを考えることはできない。

 化け物とまで呼ばれたプレイヤーの遺体は、終了宣言と共に0と1のポリゴンの羅列へと変わり──後には血濡れの落石だけが残されたのだった。



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