第8話 武器売買阻止。その3
―― 20:30、『タカシ&アイリス』裕福なサメ船上――
作戦前にセリョーガが手料理を振舞ってくれた。
――スズキのすり身に酢とクリームを練合せたカマボコや塩漬けイクラをブリヌイと呼ばれるそば粉のクレープで包んだ巻きものと、ロシアンワインで胃袋を満たした。
◇◇◇ フェーズ1 ◇◇◇
―― 0:30『タカシ&アイリス』裕福なサメ船上――
タカシとアイリスは、ウェットスーツにタクティカルベストを着こんだ姿で『裕福なサメ』の後部デッキで待機していた。
「キャプテン。目的地に到着したぞ。」
タカシとアイリスは動力付きボディボートを抱えて、順番に海へ飛びこむ。
――ボディボートに上半身を乗せ、水中モーターを起動すると、時速30キロの速度で目的地に向かう。
「キャプテン。
「任せろ!……それと、
タカシはセリョーガに答えた。
セリョーガは、タカシたちが船から離れたことを確認すると、『裕福なサメ』を出航させる。
―― 1:00、『タカシ&アイリス』リトルハロングベイ岩礁――
タカシとアイリスは、取引地点から50メートルほど離れた岩礁の側で、飛行艇の到着を待っていた。
……100メートル程の海岸線には、数組のキャンパー達がたむろしているのが見える。
タカシは目を凝らし、キャンパー達を観察していると、不審な点がいくつも見つかった。
『――あのキャンパー……。全員、武器密売人の手下だな』
タカシたちが待機している入り江は、キャンピングスポットとして知られた場所で、キャンパーを装っていれば、まず怪しまれない。
しかし、キャンプに不釣り合いな軍用のインフレータブルボートが2艇ほど停泊していて、全員が武器を隠し持っているのが分かる。
『できれば、あいつ等とドンパチは願い下げだな……』
―― 1:30、『タカシ&アイリス』リトルハロングベイ岩礁――
海岸線で動きあった。……2台のSUVが現れると、キャンパーに扮した武器密売人たちが隠し持っていたSMGやカービンライフルを取り出し、周囲を警戒し始める。
密売人たちの前にSUVが止まり、中から2人の護衛が現れ安全を確認。その後にリーダらしき男が車から砂浜に降り、後続車から更に3人の男が現れた。
「あいつらが『白い羊たち』か……」
タカシは独り言ちていると、密売人たちの中から大柄な男が進み出て、『白い羊たち』のリーダーと挨拶を交わしている。――大柄の男が密売人たちのリーダーらしい。
……飛行艇はまだ来ない。
―― 2:00、『タカシ&アイリス』リトルハロングベイ岩礁――
テロリスト達が、密売人たちに合流して30分が経過していた。
……そして、タカシたちが『裕福なサメ』から出発して1時間半が過ぎた。
南国とはいえ、真夜中に1時間以上も海水に浸かれば、体が冷え切ってしまう。
「……アイリス。寒くはないか?」
タカシはアイリスを気遣う。
「体は冷えていますが、大したことはありません。……それとも、タカシさまが温めて頂けるのですか?」
アイリスはそう言ってタカシに寄り添ってきた。
『――タクティカルベスト越しじゃ、雰囲気台無しだな……』
タカシは、心の中で愚痴る。
「キャプテン。のろけはそこまでだ。飛行艇のご到着だ」
タカシが耳を澄ますと、北側からエンジン音が近づいて来るのがわかった。
アイリスをみると、やはりエンジン音に耳を傾けている。
やがて、夜目が利くタカシとアイリスの視界に、着水体勢を取り始める飛行艇が現れた。
飛行艇はタカシたちの真横に着水し、その波がタカシたちを襲った。
二人は岩礁につかまり、波が収まるまで耐える。
飛行艇が停止すると、海岸側が慌しくなる。
インフレータブルボートに武器密売人と後続車の3人が乗り込み、飛行艇に向かっていく。
タカシとアイリスは、飛行艇に向けて泳ぎだす。……モーターの駆動音で気づかれるリスクを避けるためだ。
飛行艇に横付けしたインフレータブルボートから『白い羊たち』の3人が飛行艇に乗り込み、入れ替わるように2人の操縦士と思われる武器密売人がボートに乗り込む。
『白い羊たち』のメンバーが積み荷の点検を行い、問題がないことを確認すると、ライトで海岸の仲間へ合図をする。
それに合わせて、武器密売人たちを乗せたインフレータブルボートが海岸に戻っていく。
タカシは武器密売人たちのインフレータブルボートが海岸に戻ったことを確認すると、アイリスにアイコンタクトでフェーズ2の開始を指示した。
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