覚えてはない。思い出せるだけで。覚えてはないんだ…… ※乙喜実視点

「……………………」

 ベッチャベチャや……。いやもう乾いててベタベタや……。

 えっと……昨日はあれから――。

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ」

 あーもう! なんでこの目は! 目はァ! 思い出さなくて良いことまでぇ! もう! もう!!!

「……はぁ」

 とりあえず匂いも酷いし、シャワー浴びようかな。自分の匂いをここまで強く感じるなんて初めてだけど……あんなことされたら仕方ないと納得もできちゃう。悲しみ。

 当の加害者リリアンさんはいないみたいだし、今のうちにシャワーと着替え済ませちゃお。

 ……どこ行ったんだろ?



  ***



「ふぅ……」

 いやぁ〜。シャワーって良いもんですね。っぱ一人で入るシャワーに勝る癒やしはそうそうないよ。

 本当ならこの気持ちを昨夜寝る前に感じるはずだったのに……。

 まぁ、昨日のことが頭の中グルグルして落ち着けなかったけども。

「えっと……」

 一応昨日色々と買ったからそれ食べてもいいけど。今は……六時半か。なら学食でもいいかも。人いなさそうだし。むしろ人いない今だからこそ利用できるチャンスでは? リリアンさんもいないしちょーど――。

「――ん? 起きたかキミ」

「あぁ…………はい……」

 よくないですね。はい。

「えっと……どちらへ行ってたんですか?」

「お姉様がアッチに戻っていないか確認をな。キミについてならお話もさせてもらえるだろうし……と思っていたんだが」

「い、いなかったんですね」

「あぁ」

「残念でしたねぇ……。ところで、私について何を話そうと?」

「味」

 全力でやめていただきてぇ!

 リリンさんもそんなの聞いてどう反応していいかわかんないですって!

「あの男を気に入ってる理由も少しはわかったとお伝えしたくて、な。合うのが相手だとこうも良いモノだとは」

「…………」

 それってつまり……あの二人がってこと……だよね?

 いやまぁただならぬ関係ってのはわかってたし? 契約者ってだけじゃなく。

 でもいざ他の人から聞いたりすると……こう……生々しいというか……変な気分になっちめぇよ

「さっき? 昨日? のことは私にとっても驚くべきことばかりだったからな。その上でお姉様の興味もとなればこれ以上はない。いつもは大して楽しませることはできずとも、今回は他でもないキミのことなんだ。きっとそそるはず!」

 そんな自信持たんでいいです。っていうか普段めっちゃあしらわれてるんですね知ってますけど。

「……あ」

 話しててメールに気付けなかった。っていうか深夜に届いてたみたい。差出人は……。

「あ、リリンさんだ」

「お姉様!?」

「ひゃひっ!?」

 食いつきすごい! わかりきってた未来だとしても怖い!

「お姉様から!? で!? 内容は!?」

「えっと……あ、天良寺先輩のとこで朝食の誘いみたいです」

「……あの男のところかぁ〜」

 むしろ先輩のとこ以外ないでしょうと言いたい。だってリリンさんの契約者で、一番仲いい? わけだし。

「仕方ない。お姉様の近くに行けるならば例えこの身がすり潰されても行かざるを得ない」

 そのくらいじゃ死なないし痛くないですもんね。リリンさんの影は別として。

「じゃあ早速行くぞキミ!」

「あ、今から一時間後だそうです」

「……ではその時が来たら」

 出鼻くじかれちゃいましたね。

 でもなんだろう。

 平和で嬉しいな。

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