誰作

電楽サロン

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 Kさんが小学生のころの話だ。

 秋ごろの寒くなってきたときだった。Kさんがいつものように登校していた。

 家から学校までは畑と田んぼが続く平坦な道が続いている。見晴らしがよく、山から吹きおろす風がいつも強かった。

 Kさんはマフラーを巻きなおす。ふと、畑の中に人影を見つけた。20メートルほど離れた場所に頭巾を被ったお婆さんが立っていた。

 はじめは野焼きをする人だと思った。だが、すぐに思い直した。

 Kさんにはお婆さんだけ時間が巻き戻ってるように見えた。お婆さんは前を向きながら後ろにゆっくりと歩いていた。

 退がるのとは違っていた。後ろを気にしない逆再生のような自然さがかえって気持ち悪かった。

 ひときわ強い風が吹いた。マフラーが飛ばされそうになり、Kさんは端をつかんだ。もう畑にお婆さんはいなかった。

 それから何度通りかかっても見ることはなかった。

 Kさんが成人してから、お婆さんの話を家族にした。家族は妙に納得したような顔をした。

 その畑の持ち主は何十年も前に亡くなっていた。それなのに、畑だけは毎年耕されて作物が出来ているのだという。

 お婆さんを見たときの気持ち悪さが蘇った。

 今もその畑に夏に行くと、立派なとうもろこしができている。

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