ライラとライル(キス)

サティ「…はぁ、はぁ…。ちょっと、仕切り直しましょう」

ミシアと口論していたサティは、一旦口喧嘩を切り上げた。

ミシア「うん、そうだね…。落ち着いて、冷静に…」


改めて、ミシアはライルに向き直った。

ミシア「…えーっと…。もうライラさんとキスした?」

ライル先生「ぶふぅっ!!」

アーキル・ケニー「「ぶふーっ!!」」


ライルは、飲みかけていた水を吹き出した。

そして、その様子を離れたテーブル席から聞いていたアーキルとケニー、彼らも飲んでいた酒を吹き出した。


アーキルとケニーはミシアの冒険者仲間だ。

今はまだ昼過ぎなので、甘いはちみつ亭の客は冒険者たちとライルだけだった。

夕方を過ぎれば畑仕事を終えた村人たちで酒場は混雑するが、この時間帯は、学校の仕事を終えたライルと、休息期間中の冒険者しか居なかった。


サティ「なんであなたは、そういう…そういう事を聞くんですかぁ?!」

ミシア「…いやぁ、よく考えたら、こういう話題に慣れてなくて…。何を聞いたらいいか分からなくってさ。サティはキスしたことある?」

サティ「んなっ?!何を…?!ききき、キス?!」

ミシア「あーごめんごめん、あるわけないよね」

サティ「んなっ…んなっ…そんなわけないですわよ!きききキスのひとつやふたつ、あああ有るに決まってるじゃありませんの!?」

タニア・タリア「「まぁっ?!」」

ミシア「へー、そうなんだ?相手は誰?」

サティ「あ、相手は…相手は…その…」

サティは腕をぶんぶん振り回した。

そして、ぴたっと止まった指先は…、ライルを指していた。

ミシア・タニア・タリア「「「ええっ?!」」」

ライル先生「ええええっ?!」

ライラ「…ライル先生~~、それは~どういう事~なんですかぁ~~?」

にこにこしながら話を聞いていたライラが、さらに一層にこにこしながらライルに迫る。

ライル先生「えええぇ、誤解っていうか、キスなんかしたことありませんよっ?!」

ライラ「本当にぃ~?」

普段腰に差しているおたまを取り出し、ゆらゆらと振るライラ。

ライル先生「ちょっと待ってください!?濡れ衣、濡れ衣ですから!」

ライラ「ちょっと~、2人きりで~ゆっくりと~お話ししましょうかぁ~?」

ライラはにこにこしながらライルを引きずって、厨房にある地下室への扉の奥に消えていった。


ミシア「…それで、本当のところは?」

ミシアもにやにやしながらサティに訊ねる。

サティ「きききキスは、けけけ結婚する人とするものですわよ?!」

ミシア「つまり?」

サティ「…まだしたことありません…」

タニア「なーんだ、嘘だったのね」

タリア「だったら、早く誤解を解いた方がいいんじゃない?今頃どんな修羅場になっていることか…」

サティ「…ええ…。ちょっと行ってきますわ…」

サティはびくびくしながら地下室へ向かった。


ミシア「それにしても、女の子って、キスとかそういう話、好きだよねー」

ミシアは両手を頭の後ろに当てて伸びをしながら、飽きたような様子で言った。

タリア「お姉さまも女性ですけど…?」

タニア「おねえちゃんは興味ないの?」

ミシア「うん、別に」

ミシアは本当にそういうことに興味が無かったが、目の端にちらっとケニーが映り、ケニーとキスする様子を一瞬想像した。…ミシアは背が低いから、ミシアとキスするのは大変だろう…。

タニア「あたし、おねえちゃんがどんな人とキスするのか、興味あるけど」

タリア「わたしも」


ミシア「ふーん…。なんなら、ボクとキスするかい?お姫様」

ミシアはにやっと笑ってタニアのあごに手をやり、くいっと自分の方に向かせた。

…ミシアの方が背が低いので、サマにならないが。

しかしタニアはポッと頬を赤らめた。

タニア「ええ?!…で、でも、おねえちゃんとなら…」

タリア「冗談に決まってるでしょ!真に受けるんじゃないの!」

タリアは思わずタニアの頭を叩いた。

タニア「ぶったー!何するのよ!」

タリア「ごめん、つい…。でもあんたが変なこと言うからよ!」

タニア「それはおねえちゃんが!」


ミシア「あっはっは。2人とも、喧嘩はよくないよ?」

タニア・タリア「おねえちゃんのせいだからね?!」「お姉さまのせいですよ?!」

妹たちは一斉に姉に抗議した。

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