オレは、真夜中のヒーローだ!

凹田 練造

オレは、真夜中のヒーローだ!

 ――東京。

 多くの者が寝静まった街。

 真夜中の大都会。

 突如響き渡る悲鳴。

「キャーッ!」

 若い女性の声だ。襲っているのは、黒ずくめの男3人。

「大人しくしろ。黙ってついてくりゃ、いーんだよ」

 絶望的な表情で、必死に抗う女性。

 さあ、ここで、ヒーロー登場だ。

 私は颯爽と悪者の前に立ちはだかる。

 私に気がついた、黒ずくめのリーダーが、私に向かって叫ぶ。

「誰だ!」

 私は、ゆっくりと、余裕を持って、名乗りを上げる。

「私は、真夜中のヒーロー、クフイカーローヒだ」

「なにを、邪魔だてすると、承知しないぞ」

「お前たちこそ、若い女性をいじめるのをやめたらどうだ」

 返事もせずに、リーダー以外の二人が、私に向かってくる。私は真夜中のヒーロー。一人を投げ飛ばし、もう一人にパンチを食らわせ、簡単に二人を気絶させる。

 相手のリーダーが、夜目にもわかるほど顔を真っ青にしている。

「おぼえてやがれ」

 強がりつつも、一目散に逃げていく。

 私は、今助けた女性に向かって言う。

「お嬢さん、大丈夫ですか」

「ええ、どうもありがとうございました」

 無事を確認すると、私は、音もなく去っていく。

 ――真夜中のロンドン。

 夜遅くまでやっている、パブ。

 店主が一人でやっているその店は、今、二人組の強盗に襲われていた。

 7〜8人客が入ればいっぱいになりそうなその店で、強盗は店主にピストルを突きつけている。

 私はゆっくりと、ドアを開けてその店に入っていく。

 二人組の強盗のうち、太っちょの方が、私に気がついて叫ぶ。

「誰だ、お前は」

 私は、余裕の笑みをかましながら、一語一語噛んで含めるように言う。

「私は、真夜中のヒーロー、クフイカーローヒだ」

 もう一人の、背の高い強盗が、店主に突きつけたピストルを、小さく動かしながら言う。

「何をふざけたことを言ってるんだ。大人しくしないと、こいつを撃ち殺すぞ」

 だが、私は、真夜中のヒーロー、クフイカーローヒなのだ。そんな脅しには屈したりはしない。

 目にも留まらぬスピードで背の高い強盗に忍び寄り、ピストルを奪い取りながら相手を気絶させる。

 私の身上は、この圧倒的なスピードなのだ。強盗どもは、そのことを知らない。

 もう一人の、太っちょの強盗は、何が起こったか分からないような仕草で、あたりを見回している。

 やっつけるのは簡単だが、こんな雑魚を相手にしても始まらない。私は、教え諭すように言ってやる。

「お前の仲間は、もうやっつけた。逃げるんなら、今のうちだぞ」

 途端に、魔法がとけたように、一目散に逃げ出した。

 店主は、目を丸くしながら、私にお礼を言う。

 私は、そんなつもりでしたことではないと、ビールを一杯だけ御馳走になり、そのパブをあとにする。

 ――眠らない街、ニューヨーク。

 そんな街も、真夜中には別の顔を見せる。

 不良たちが数人、手に手に武器を持ち、深夜営業の食料品店を、襲おうとしているのだ。

 私は、そんな不良連中の前に、立ちふさがる。

 不良たちが、口々に叫ぶ。

「誰だっ」

 私は、にんまりと笑いながら、名乗りを上げる。

「真夜中のヒーロー、クフイカーローヒだ」

 不良たちは、色めき立つ。

「何を寝ぼけたことを言ってるんだ。邪魔だてすると、承知しないぞ」

 私は、一番手近にいるやつを、空高く投げ上げる。落ちてくるところを、空中で腕を取り、そのままもう一度投げ上げる。

 3度ぐらい投げ上げて、あとは地面に叩きつけられるままにしておくと、もうそいつは身動きもしなくなる。

 残りの不良たちは、逃げるのも忘れて、呆然とこちらを見ている。

 もう一人、同じように何度か投げ上げてやると、こいつも地面に落ちたあと、全く動かなくなる。

 一瞬のち、我に返った残りの連中は、一目散に逃げ始める。真夜中のヒーローの、完全勝利だ。私は、高笑いをしながら、その場を去ってゆく。

 ――再び、東京。

 真夜中の大都会。

 今度は、若い男女の二人が、チンピラたちに絡まれている。

 さっそうと現れる私。

 チンピラの中の、一番威勢のいいやつが、俺に向かって吠える。

「誰だっ」

「フッフッフッ。私は、真夜中のヒーロー、クフイカーローヒだ」

「真夜中のヒーローだと」

「そう、真夜中のヒーロー、ん?」

 ちょっと待て。日本が真夜中でなくなっている時間も、地球のどこかが真夜中になっている。真夜中から真夜中へ、移動しつつ、悪と戦っていたら、私はいったい、いつ休むのだろうか。いつ眠ることができるのだろうか。

 いや、これは、冗談じゃないぞ。

 その時、まさに今、真夜中の地域や、これから真夜中になる地域から、たくさんの救助要請テレパシーが送られてきた。

(こちらバンコク、誘拐事件発生です)

(こちら、シンガポール、強盗が銀行を襲っています)

(こちら、クアラルンプール、ならず者たちが若者に暴行を加えようとしています)

 じょ、冗談じゃないっ!

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オレは、真夜中のヒーローだ! 凹田 練造 @hekota

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