真夜中の小人さん
サビイみぎわくろぶっち
真夜中の小人さん
朝。今日も部屋の床がきれいになっている。小人さんのお陰だ。
小人さんは、真夜中に床の掃除をしてくれる。昨日の夜もコトコトと何かが動く気配がしていた。
この小人さんは、イギリスや北欧のおとぎ話に出てくる屋敷しもべ妖精みたいなもんなんだけど、この現代日本でも、お願いすればこの小人さんが来てくれる。
「小人さん、いつもありがとう」
部屋がきれいになっていること以上に、私はこの不思議な存在を感じることで、心が温かくなるのだ。
・・・・
◆小人さんと人間の約束 …必ず守ってください。
1.小人さんへのお礼として、専用の菓子入れの中に小さなお菓子をひとつだけ置いておきましょう。本来はミルク粥ですが、現代の小人さんはお菓子も大好きです。
2.小人さんが働くのは真夜中です。物音がしても絶対にのぞいてはいけません。のぞいても、小人さんの姿は人間には見えません。
3.もしも、床の上に小さなゴミやホコリが残っていても許してあげましょう。小人さんには、人間が住む家はとても広いので、こんなこともたまにあると考えてください。
・・・・
「この企画、成功ですね」
「こんなのが売れるとは思わなかったよ」
ここは家電メーカーの商品企画部である。
「でも、うちの企画が当たったから、他社も似たような商品を出してくるでしょうね」
このメーカーでは、お掃除ロボットの売上を伸ばすべく、ある企画を立ち上げた。お掃除ロボットの需要は限られていて、売上がなかなか伸びなかったのだ。
商品企画部が知恵を絞って打ち出したのは、「小人さんのお掃除サービス」というものである。
サイトからこのサービスを申し込むと、「小人さんのおうち(実はお掃除ロボット)」が届く。
この「小人さんのおうち」を、取扱説明書のとおりに室内の床の上に設置して(コンセントにも繋ぐ)、付属の「小人さん専用の菓子入れ」を同じ部屋の中の分かりやすいところに置くだけで完了である。
菓子入れに入れるお菓子は、客自身が毎日用意して入れることになっている。
そして、その日の真夜中から、「小人さん」が家の掃除をしてくれるという訳だ。
「お掃除ロボットにストーリー付けしただけなんですけどね」
「お客さんは喜んでるんだから良いんじゃない?」
「専用菓子入れに入れたお菓子…、実は捨ててるんだよな…」
このお掃除ロボットにはアームが付いていて、物をつまむ機能がある。
「お菓子がちょっともったいないね。これを考えた時はこんなに当たると思わなかったから…」
「でも、これが現実味を増すのに一役買ってるんだと思う。実際に、朝になったらなくなってるんだもん」
ここで、全員が眉をしかめて、うーんと唸った。
「考えてみれば、ある意味では罪な企画だったかもしれない…」
深刻げな雰囲気が辺りに漂う。
しかし、すぐに部長が、きりりと顔を上げた。
「そんな細かいことを考えてもしょうがない。この商品、シリーズ展開するぞ」
商魂とは逞しいものである。
「部長…」
「罪な部分はあるかもしれんが、売り手としては拡大しない手はない。次は何がいいだろう…」
「洗濯機とか?」
「食器洗い乾燥機とか?」
「タイマーで動くものなら何でも行けそうですけど…」
「でも、二番煎じ感は否めないなあ…」
「アイディアを出すんだ!メルヘンでファンタスティックな設定を、みんなで考えるんだ!!」
真夜中の小人さん サビイみぎわくろぶっち @sabby
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます