第14話:嬉し恥ずかし半同棲生活、開始

 俺の親は放任主義というか、中学から俺がベースとバンド活動を好き勝手やってきたので、外泊やら何やらにはあまりうるさくない。

 まあ流石に何日も家に帰らなかったり、折角入った大学で授業を全く受けなかったりしたらまずいので、最低限の授業には出席し、アキラのことは曖昧に、バンド始めて忙しくなるから外泊が増える、とは告げた。


 問題は金銭面だった。スタジオ代や楽器のメンテなんかは案外馬鹿にならない。

 部活棟の四階の部室は一応防音だが、タクトもアキラもそこでは練習する気が無いようで、もう受付の人に顔を覚えられた例の地下ブースのあるスタジオにばかり行っている。


 タクトはこう言った。

「僕はね、一応タダで曲書いてあげてたんだけど、半分くらいの人が、『これはお金を払わないといけないくおりりーです!』ってお金くれてて、それ貯めてるから多分大丈夫」

 と、あっけらかんと言ってのけた。つか『クオリティ』は言おうぜタクト。

「へぇ、どんくらいあんの?」

 アキラが聞くと、タクトはスマホを取り出し、おそらくは銀行関連のアプリを起動したのだろう、そして、

「えっとね、32に0が4つ」

 俺とアキラが一瞬考え、次の瞬間飛び上がった。

「320万?!」

「あ、そんなにあるんだぁ」

「だぁ、じゃねんだわ!」

 半ばキレ気味のアキラに、タクトが聞き返す。

「二人はどうなの? お金ないと練習できないし、ちゃんとしたスタジオでレコーディングもできない。まあライブはまだ先だろうけど、お金はあった方が良い」

「……お、俺は、皆無。バイトするわ……」

 俺がうつむき加減で言うと、

「いや、結斗の分は俺が持つ」

 とアキラが言い放った。タクトが少し眉を上げる。

「自分で言うのもアレだけど、俺んち金だけはあるから。それに俺が住んでるマンション全室防音だから、適当に理由付けてバンド用に一部屋がめてもいい」

 俺は驚いてアキラの顔を見た。

「え?! あの部屋賃貸じゃないの?!」

「言ってなかったっけ? あのマンション俺の親のなんだわ」

「秘密基地——!」

 突然ウキウキした声をあげたのはタクトだった。

「リアル・ガン・フォックスの秘密基地作れるね! 楽器とか機材全部置いて、入れるの僕たちだけにして、こっそりそこでいっぱい練習して、僕もいっぱい曲書いて、うわぁ〜楽しそう!!」


……やっぱりこいつは年中さくら組の幼稚園児だ……。



 そしてスタジオを出た俺ら三人は、自然とアキラと俺がアキラの部屋の方へ向かい、タクトは駅方面に歩き始めた。

「あのさぁ結斗」

「ん?」

「帰ったら速攻で抱いていい?」

「はぁ?! ちょ、そういうことは公共の場では!」

「知るかよ。なんかすげえおまえ食いたい」

「残念ですが俺は食い物ではありません……」

 とか言いつつ、ちゃっかりドキドキしている俺がいる。

 晴れて『恋人』同士になってから、ちゃんとしてないからだ。

 あーやばやば、三津屋アキラが、あの三津屋アキラが、俺に好意を抱いた状態で俺を——

 と、ぐるぐるしていると、何か冷たいものが俺の右手に触れた。

 ん?

 違和感を抱いたのも一瞬。

 次の瞬間には、その冷たいもの、三津屋アキラの手が、俺の手を握っていた。


「だあああああああああああ!!! アキラ!! それはちょっと!!!」


「え、なんで?」

「こ、公共の場、ですので——!」

「結斗って結構そういうの気にするんだな、ちょっと意外」

 アキラはニヤッと笑って、再び俺の手を取りその腕力で俺を引き寄せた。

「いいじゃん、どうせ5分ちょいだし、人気も無いし」

 結局俺は言いくるめられる感じで、でもすげえ嬉しさもあって、マンションまで手を繋いで歩いた。



 バタン、と俺の身体がアキラの部屋に入りドアが閉まった瞬間だった。

「んっ!」

 アキラが俺に口づけてきて、ギグバッグを下ろし、ジャケットを脱ぎながら舌を入れてきた。

「結斗……」

 熱っぽくアキラは俺の名を呼び、俺のベースと荷物を玄関に置くよう動かし、そのまま俺の胸を触りだした。

「んっ——!」

「結斗」

「あっ! な、なに」

 アキラは答えずに俺のベルトをすっと抜き、デニムを脱がそうとしてきた。

「ちょ、ア、アキラ! ベッド行こうよ!!」

「無理」

「無理って?! あ、あぁ、そこダメ!!」

 俺の上着を脱がしたアキラは、玄関から続く廊下に俺を押し倒し、自分はその上に覆い被さった。

「アキラ——?」

「結斗」

 言うとアキラは俺の鎖骨付近を舐め始めた。ここは最近聖なる性獣アキラさんによって開発された俺の変な性感帯だ。

「ふっふあっ! あ、あん! い、やだ!」

「相変わらず感度良いな」

 アキラは両手で俺の胸を撫で始めたけど、中心を避けてばかりで、俺としては生殺し状態、思わず身をよじってしまう。

「もう腰振ってんの? これだから小悪魔ビッチなえろえろ結斗くんは」

「んんー!! だって、アキラが——!」

「俺が何? 結斗」

「ん、ちゃ、ちゃんと触って、くれない、から……」

 俺は限界だった。もう何をしても先端に触れて欲しかった。しかもアキラは俺のTシャツ越しに触ってるからもどかしさは倍だ。

「結斗、どうして欲しい? ここ」

「あ、あ、あ!!」

 アキラが少しTシャツで突起を擦る。頭から理性が消し飛ぶ。

「あぁ、触って、ねぇアキラ、ちゃんとアキラの指で触ってぇ!」

「よくできました」

 アキラは満足げに言って、両手をTシャツの中に滑り込ませ、容赦なく先端をつまんだ。

「ああぁぁぁ!!」

「結斗」

「ア、アキラ、好き! もっと、もっと来てぇ!」

「結斗、マジかわいいな」

 

——結局玄関で二回して、ベッドでは睡眠をとるだけの夜だった。 


 

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