第10話:決定事項

「どうする? まだ時間あるけど、タクトのオリジナルやるか? 譜面とかあるなら俺はいけるけど」

 タクトにバックハグされていたアキラが言うと、タクトは首を傾いだ。


「譜面?」


……猛烈に嫌な予感が、俺とアキラを襲った。


「僕、採譜はしない。そもそも楽譜読めない。音源は気に入ったやつしか残さない。あとは全部ここ」

 と言ってタクトが指差したのは、案の定自らの頭だった。

「じゃあタクト、おまえのお気に入りでなるべく分かり易いやつを、軽く弾いて教えてくれ。メロは結斗ならラララで行けるし、俺も基本的なリズムだけ聞けばある程度合わせられる」

「んー、じゃあ……」

 ぽや〜んとした幼稚園児だったタクトは少し思案し、腰を落とした次の瞬間、物凄いスピードでギターカッティングを始めた。

 テンポ相当早い、しかも変拍子、つかシンコペとピッキングが変態的、っていうかただの変態、弾きながらふらふらと俺のマイクスタンドまで歩いて来てラララと歌い出したメロディはシンプルだったが、音域は相当広い、高音が鬼……。

 1サビを終えたところでタクトは演奏を止めた。

「どう?」

「三連符になるフィルの位置だけ分かり易く弾いてくれ。したら乗っかる」

 マ、マジですか、聖なる性獣、もとい、スーパードラマー・アキラさん。

「須賀くんは?」

「メロは覚えた。ファルセットをチェストボイスに変えたりして良ければヴォーカルはいけると思う。ベースラインはスラップの位置だけ合図もらえれば」

「おっけー」

 ほやほやと朗らかな笑顔を浮かべる幼稚園児(年中さくら組)の眼が、アサシンの眼になり、ギターをかき鳴らし始め、アキラの力強いキックが重なる。俺もベースを合わせ、ラララで歌い始める。


 そして数十分後、スタジオ内の退出五分前のライトが光り始めたが、俺もアキラも、おそらくはタクトも、同じことを考えていたに違いない。


『もっとプレイしたい!』


 タクトの曲の良さ、タクトのギターの音色の良さ、俺のベースの安定感、そしてアキラのドラムの力強さと繊細さ、そして俺の歌声——。

 これらが集まると、誇大妄想と笑われるかもしれないけど、今北半球で最高にロックしてるサウンドだと思うほどの仕上がりになっていた。

「じゃあ僕帰るね〜、お疲れ〜」

 マイペースな幼稚園児(年中さくら組)は機材を纏めてブースの重いドアノブに手を掛けた。

「え、一緒に飲みに行ったりしねえ?」

 アキラが驚いた様子で言うと、

「僕は未成年だし、お酒飲めないし、もう七曲、この三人で演奏できる曲聞こえてるから、家に帰ってそれを形にする」

 七曲って……、と俺とアキラは呆然としたが、そんなことは意に介さず、ドアを開けたタクトが振り向いてこう言った。


「で、バンド名はどうするの?」

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