第7話:聖なる性獣vs.小悪魔ビッチ

「俺、おまえのこともっと知りてえわ」


 互いに息も絶え絶えに後処理を始めると、アキラがぽつりと言った。


「キモくないの? こんな、やべーストーカー」

「い、いや、俺はむしろそれくらいの実行力とか長年好きでいてくれたとか、そういうのにめっちゃ弱くて……しかも俺のスティックで——」

「そ、それはもう言うな!!」

「分かったよ。でも、もっと知りたいわ、おまえのこと」


 そう言う『聖なる性獣アキラさん』は、俯いてはいたが真顔なのが分かったし、もしかしたら本当に俺なんかに興味を抱いてくれたのかもしれない。


——Rape me, rape me, my friend

Rape me, rape me, again

I’m not the only one ah ah I’m not the only one…


 気づいたら俺はこんな曲を口ずさんでいた。

 ニルヴァーナの「Rape Me」、なんか、そんな気分だったし。

 しかし次の瞬間、アキラがばっと立ち上がって叫んだ。


「おい結斗! 今のおまえの声か?!」

「え、そうだよ。他にいないじゃん」

「おいおいマジかよ……」


 俺にはよく分からなかった。

 ただ、地声と歌声が違うとはよく言われる。

 でもこれまではヴォーカルよりベースが楽しくて、ベース&ヴォーカルをメインにバンドを組んだことはなかった。


「すげえよその声。おまえ、ベースも同時にいけるか? ならタクトに紹介したい!」


——はい?


「でも俺、歌下手って言われるよ?」

「そいつらはピッチの話だけしてる。確かに癖のある歌い方だけど、嫌みじゃない。何より本気で歌ってないのに、遠くまで届く声質だって俺には分かる。後でタクトと合流するから、その時一緒に来てくれねえか?」


 え、え、もしかしてこれって作詞作曲水沢タクト&ドラム三津屋アキラっていう最強コンビのバンドに入れるかもっていうフラグ?!


「も、もちろん!!」


 俺は直立不動で敬礼してまでそう応えた。

 そしてアキラがニヤリと笑ってまた着替えを始めると——


——あ、やば。


 歓喜したのも一瞬、アキラが着替えのためにTシャツを脱いで、そのなめらかで適度な筋肉のついた腕を見た俺は、劣情を催してしまった。


「あの、アキラくん……」


 心持ち声のトーンを下げつつ、教室の隅で俺に背を向けて着替えを取り出しているアキラに声をかける。


「ん? どうしんんんん——!!」


 アキラが振り向いた瞬間、思いっきり頭を掴んで思いっきりディープキスをかましてやった。アキラもすぐ舌を入れてきて、唾液が混ざると俺はもう第2ラウンドに参戦できる状態になっていた。


「はぁ、結斗、おまえ……」

「水沢くんと会うまで時間あるなら、そのー」

「いいよ、小悪魔ビッチなえろえろ結斗くん」

 そう言ってアキラは俺に触れてきた。

「何しろ俺は聖なる性獣アキラさんだからね、おまえみたいな小悪魔ビッチには勝てないんだわ。喉潰すなよ?」


 言うが否や、俺たちはここが大学の敷地内であることも忘れて、まるで自分たちが前世からの恋人同士だったみたいに交わった。

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