第六話 終わらない一日

「どうだ、追手は?」

「いえ、来ていないようです。元々、盗賊のメンバーは残り、僕が逃がしたのと、ラグネから逃げた人だけでしょう」

「なら、走る必要はないか」


俺達は走っていた足を止めた

下を見れば走っていて気付かなかったがいつの間にかあの舗装もされていない土の道から石畳になったいた

俺達は走って気付かないうちに村へと戻っていたのだ


「歩きましょうか」

「そうだな」


息を整え、再び歩き始める

さっきまでガタガタの道が舗装されていることでスムーズに歩けて快適だ


「そうだカズマ、この日記、エリックさんの日記だけどこの人の身内の人に届けないか?」

「届けるって言いましてもそれ約30年前の日記ですよ?身内がいる保障もないのに....」

「さっき聴いた人にもう一度ど聴いてみるさ」

「わかりました。ここまで付き合ったなら、最後まで付き合いますよ」


カズマからの了承を得て、共にまたあの女の人のところに向かった

今思えばこんな夜中に訪問するのもあれかもしれないけど仕方ないと思っておく。日が暮れたのはついさっきだ。月だって完全に顔を出していないし大丈夫だろう


「すいませーん!」


カズマがいきなり声を出してビックリした

なにかと思えば俺達はいつの間にか、そのタラント鉱山について聴いた人の家まで歩いていた

気が抜けていた....


一方カズマはさっき話していた人を見つけて声をかけたらしい。せめて何か一言、声を掛けてくれよ


「あら、あなた達さっきの」

「日が暮れているのにどうもすいません」


社交的なのはやっぱりカズマ

俺はあまり知らない人に対しては自分からは声をかけないタイプだし、向こうから話しかけてくれたら意外と話せる人間だし

うん、コミュニケーション力高くて羨ましいね


「いえいえ、あら、その血....」

「お察しの通りにお陰様で依頼をこなすことができました」


そう言ってカズマはお辞儀をした。当然俺もそれに合わせた


「それと、こちらについて何かご存知ではないでしょうか?」

「これは......本ですか?」

「ある人の日記です。名前はエリック・トッド」

「エリックさんのですか!?」


日記を渡し、名前を言うと驚いた表情でその日記と俺達の顔を交互に見る

俺達は唖然としていた


「お知り合いで?」

「ええ、旧友です。この村で行方不明になったとき皆で探したのですが見付からなくて」

「エリックさんは既に亡くなっていました。タラント鉱山で」

「そうですか。タラント鉱山は当日危ないって理由で封鎖されていたので誰も近づこうともしませんでした。ですけど、そうですか」


そう言って日記を見つめた

俺達はまたしても唖然として棒立ちだった。話が飛躍し過ぎて理解に追い付いていなかった。でもなんとなく直感で理解はしていた


「これは私から親族に渡しておきます。お二方様、どうも有難うございます」


そう言って彼女は深々とお辞儀をした


「寄った甲斐があったな」

「そうでしたね」


俺達はそう言って再びギルドの方へと足をはこぶ


◆◆◆◆◆◆


「すいません。依頼をこなしたのですが」

「あ、先程の!」

「これが頼まれていた指輪です」

「はい、ちゃんと預かりました。ではこちらが報酬金です」


俺が指輪を渡して指輪の確認をした後、受付の人はカウンターに小さい麻袋を置いた


俺達はここへ来るまで何事もなく着くことができてホッとしている。カズマが言っていた取り逃がした奴は現れないし、エルトが逃がした仲間も同様にだ

何事もないのが一番だけどね


「ちゃっかりと貰いました」

「また、町のためによろしくお願い致します」


俺は麻袋の中身にある報酬金の額が合っているかどうかを計算してローブのポケットに入れる

受付の人はお辞儀をして俺はギルドを出た


ギルドの外にはカズマが待機していた


「終わりましたか?」

「ああ....ほら、ちゃっかりと」


そう言って麻袋をポケットから取り出してカズマに見せる。見せた後は再びポケットへと入れる


ふと、外の情景が目にはいる

昼間はあんなに人が往来している道でも流石に夜だと人通りが少なくなっている。辺りには火の光を使った街灯があり、妙な不気味さがある


「今日は付き合ってくれてありがとな」

「良いんですよ。僕も久しぶりに動けたので良い運動になりました」

「なら良かった」


俺はカズマの言葉にフッと笑いながら答えた


「カズマ、お前はどうするんだ?ここで探すったって、手掛かり無しじゃいくら探しても見つからねえし、俺で良かったら手伝うぞ?礼がしたいんだ」


単純に礼がしたかったし、旅がしたかった

この一日でわかった。俺は仲間と一緒に絆を深めたかったんだ。俺の旅の目的は行き当たりばったりだったけども、カズマの共に戦って思ったんだ。俺は仲間と呼べる者と一緒にフリム大陸を見たかったんだ。この大陸で旅がしたかったんだ


「でも....わかりました。ではこれで借りは無しってことで手伝って下さい」

「任せてくれ」


カズマは俺の問いかけに答えてくれた

一方的とはいえ、俺はカズマと仲間と言える仲でいたかった


「でもこの先、もしかしたら別の都市や街に移動だってあるのにラグネの旅は良いんですか?」

「俺の旅の目的ってのは多分、仲間との旅だと思う」

「仲間....ですか?」


俺は仲間と一緒に過ごしたい。同じ目的、目標を持つ人と一緒に楽しく、厳しい旅をだ

そんな幻想的な考えを俺はしている


「それでしたら、僕が探しているパーティーメンバーを見つけたらどうなるのですか?」

「ん?確かに....」

「無計画ですね」


確かに無計画だ

カズマがパーティーメンバーを見つけたら離脱するだろう。だとしたら俺は一人で旅ってことになる


「まあ、旅の途中で付いてきてくれる人を探したら良いでしょ」

「ラグネの旅は行き当たりばったりになりそうだね」


そう言って俺達は二人で笑った

こう言うのを俺は望んでいるのだ


「じゃあ明日、またここで会いましょう。明日ここでパーティーメンバーが見つからなければコトナナに向かおうと思います」

「わかった。それでいこう」

「ではまた明日」

「おう、また明日」


そう言って俺達は明日のことを話して帰ろうとした

そう、帰ろうとしたのだ。普通ならばここでお互いに違う道で帰るのが当たり前な風潮があるにも関わらず、同じ方向へと歩き始める


「....」

「....」


なんだろう気まずい

ギルドで会った時もいつかまた遇おうって言う感じだったのに台無しになった思い出がある


「じゃ、じゃあ俺はこっちだから....また明日....」

「....」


だがカズマは俺と同じ宿へと向かっていた


「....」

「....」


沈黙だけが続いていた


「同じ宿かよーー!!」


俺は叫んだ


◆◆◆◆◆◆


宿に入った俺達は自分の部屋へと向かった

まさか同じ宿に泊まっているとは俺も思わなかった。なんだろうな、このカズマに遇う確率みたいのって....

俺はそう思いつつ部屋へ行くための階段を上がっていた


「じゃ、じゃあ今度の今度こそ、また明日」

「はい、また明日」


そう言って俺達は互いに向き合っているドアを開けて部屋に入る

向かい側かよ!


「はあ、今日一日だけでどっと疲れた....」


開けたドアを閉め、旅用のローブを脱ぎ捨てた後、俺は壁に剣を立てかけベットに倒れこむ


今日一日だけで色々とありすぎた。カズマにあって別れた後に数時間後再会、ギルドから依頼を受けて死闘を繰り広げたらこの茶番だ


ん?なんだか忘れているな


「なんだったか」


ふと壁に立てかけている剣が目に入る

そこにはただただ俺が今日一日使っていた剣があるだけだ

一本だけ....


「な、ない!?」


そう、なかったのだ

エルトから押収した呪具がなかったのだ。確かにあの時、ギルドまでの行く途中にはあった


「ろ、ローブは?」


部屋のどこかにないか探したがあるはずもなく、腰にかけっぱなしだと思って腰を見るがそこには何もない

ならばローブかと思ってローブのポケットを探す

ローブの中には日記や手紙があるはずだ。今思えば、なんで俺がギルドに私忘れたか、それは剣がその時に既に無かったからだ

ローブのポケットの中身にも日記と手紙は完全になかった。何もない


「盗まれたってことかよ!」


剣、日記、手紙、全て奪わられた

ここへ来る途中一回も人と遭遇はしていない。確かに俺達の隣を横通った人は何人もいるが俺達が気付くことができない程ではないと思うが....

て言うか剣を盗るのに気付かれずに盗ることができるとは思えない


「カズマ!ヤバイぞカズマ!」


部屋を飛び出た俺は向かいのカズマの部屋をドンドンとドアを叩く

それと同時にドタドタと部屋の中から音がしてドアが開く


「ど、どうしたの?」

「大変だ....剣が盗まれた」

「え?剣ってエルトから回収した!?」


当然カズマもその事の重要性はわかっているようだ

エルトの話によれば、あの剣は斬った相手の心臓を破裂させる恐ろしい呪具なんだ。それを盗まれたってことは相当ヤバイってことだ


「それどころか日記や手紙も盗まれてる」

「日記もか....急いで探さないと大変なことに....それどころか、もし、盗んだ相手が『辻斬り』だと考えるとぞっとする」

「確かに、待っててくれ着替えてくる」


俺はカズマにそう言って自分の部屋に行き、脱ぎ捨ててあったローブを着込んで剣を腰にかけたらカズマのところに再び戻る

カズマの方も弓や矢筒を用意して待機してくれたようだ


俺達は互いに用意ができた事を確認し宿の外を出る


「出たのは良いものの、どいつかってのは検討がつかねえぞ」

「可能性としては盗賊の生き残りと言う可能性が高い」

「どうしてそれだと?」

「簡単だよ、復習の為だと思う」

「....」

「それに、僕達から気付かれずに盗める人って並みの人じゃ絶対にできないと思うから」


俺達は意味もわからずに走りながらそう言う会話をしていた

おそらくカズマは的を射ている。ただ、それだと疑問点が生まれる


「だったらどうして、俺から剣を盗った時に殺さなかった?」

「多分、人前では殺しにくかったんだと思います。いくら僕達が憎くても人前で殺すと騒ぎになると思ったんでしょう。その人も衛兵沙汰になりたくはないでしょうし」

「だったら、こうやって無意味に走ってるのって?」

「人目が完全に無いところに行くためです」


つまりはカズマの推察だとこのまま盗った犯人は俺達が人目につかないところで殺そうと考えている。俺達はそれを迎え撃つって言うことだ


「けど、ここの地理にも詳しくないってのにどうやってそんなところ探すんだよ」

「昼間にそう言ったところを見つけたのでそこで迎え撃ちます」


昼間の間にどうやって逆に見つけれるんだよ

俺だって宿を探すのにあっち行きこっち行きしててんやわんやしてたってのに


「こっちです」


カズマが先導するなか、後ろから人の気配がした。確かに所々に人はいるけど明らかに俺達をつけている人の気配だ


「どうやら引っ掛かったぞ」

「そのようですね。そして着きましたよ」


俺が後ろの人の気配に気をとられていると、どうやら目的地に着いたようだ

当然街灯はなく、人が通りそうな道ではないし、家と家の間にある路地裏、家には窓がなく確認できるような場所がない


「さあ!剣を返して貰おうか」

「....」


俺が声を出して問いかけると、家の壁から姿を表したフードを被っている男が出て来た

フードを被った人....体格からして男がフードをとり、俺達を睨みつけた


「お前らがやったのか?」

「....」

「....」


当然俺らは返答をしなかった。あえてそうしたのだ

男は「クソッ!」と言い、更に俺達を睨みつけた。当然だ。向こうからしたら俺達は悪役、エルトにもそう言われたな


「殺す、絶対にだ」


仲間の復讐に燃えている男は鞘から剣、呪具を出した

それを俺達に向けて構える。これから一戦が始まろうとしている


「お前、名前は?」

「エルドラ・ラグレイト」

「兄弟か」


不幸にもそいつは俺達が殺した兄弟だった。つまりは仲間の為と言うより兄弟の為に憎しみを俺達にぶつけに来たってことだ


俺は剣を構え、カズマは弓を構える

俺達の一日はまだ続く

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