第5話 旦那と毒
お里は、旦那が嫌いだ。
ろくに仕事も続かない旦那を、なんとか殺したいと考えていた
棒手振りで魚でも野菜でも売ればいいのに
それが出来ない、顔はいいから客受けは良いのに、
だらしがない性格で仕事が続かない
「おい飯まだかよ」
今日も仕事にあぶれたのか、ごろごろと狭い長屋の部屋で寝ている。
邪魔で内職も出来ない。
外に出てお碗を洗おうと井戸へ行くと、お松が居た。
旦那が死んでからさみしげな彼女に声をかける
「どう調子はいいかい?」
「ええ、最近は、あの人からぶたれる事もないので・・」
お松の旦那は、嫉妬深く彼女をよく殴っていた
美人のお松はよその男から目をつけられやすい。
「人間って簡単に死ぬんだねぇ」
井戸の水でお椀を洗っていると、お松は小さな声で
「自然に死んだわけじゃないです」
聞き間違いかと、その時は気にしなかった。
翌日は雨で仕事がまたあぶれたのか旦那はごろごろしている
ため息をつきながら米びつを見ると空だ
「あんた米ないよ」
旦那は「隣から借りろよ」と平然と言う
長屋の連中はみんな貧乏だ、貸し借りは逆に高くつくのが
判らない人だ、でも仕方が無い
「ごめんよ」隣のお松に声をかける。
戸を叩いても返事が無い、居ないのかと思って戸を引くと
開いた
畳の上でお松は座っていた
「居たのかい、悪いけど米を貸して欲しいんだけど・・」
彼女は私を見ると黙ってうなずく。
どう見ても普通じゃ無い
「どうしたんだいお松さん」
肩に手をかけると、彼女は泣き出した
しばらく泣いた後に事情を話してくれる
「旦那にひどくぶたれた時に、人づてで毒薬の話を聞きました
少しずつ食べると死ぬと言うのです」
彼女は罪を告白した
「あんた旦那を殺したのかい?」
うなずく彼女を見ながら、私もその薬が欲しくなる。
「ひどい旦那だったろ?死んで当然さ」
彼女の肩をゆすりながら、なぐさめる
落ち着いた頃に、私もその毒が欲しいと切り出す
びっくりした彼女の顔を見ながら
「でも食事に入れるんだろ?旦那のだけ特別に作るのかい?」
「いえ、解毒の粉を飲めば平気と聞いてます」
なるほど、同じ飯を食べても私は毒にならないのか。
「これが毒です、そして解毒剤」
2つの紙包みを貰う
「白い方が毒、黄色い方が解毒です」
間違いないように覚える
米を借りると早速使ってみる
解毒剤を飲んでから、朝飯に毒を入れる
「おい変な味がするぞ?」文句を言う旦那に
「借りた米が古かったんじゃないの?」と答える
薬を入れすぎたかな
しばらく毒を使うが旦那はだらだらしているだけだ
「あんた調子はいいのかい?」
「ああ、なんか調子が悪い、だるいよ」
薬が効き出したのだろう、私は毒を毎日入れた
○●○●○●○●○●○●○●○●
その日は葬式だった、お松は隣に行くと深々と頭を下げる
旦那が出てくると悲しそうに泣いている
旦那を慰めながら、夫と隣の妻を同時に殺した罪で胸が痛い
でもこの人と一緒になれるなら
地獄行きでもかまわないとお松は覚悟した
お里には、毒と解毒を逆に教えた。
布団で横になっているお里に手を合わせる。
終わり
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