第3話 秘剣の罠

路上には人は、もう居ない

月明かりの中、両者は間合いをとる。


「貴殿の秘剣をみせていただく」

気を抜けば、即座に切り込まれる。

覚悟を決めて太刀を抜いた。


秘剣の話は、下級武士の酒の集まりである。

たわごとを言いながら、憂さを晴らすだけの場だ。


上役の悪口や扶持米の少なさで、うだうだしていると

「おまえは秘剣を持ってるのだろう」

からみ酒の犬飼某は、いきなり切り出した

「そのような剣は知りませんな」

とぼけるが、一子相伝の剣を父から受け継いでいる


秘剣というくらいなので、道場などで披露するわけでもない。

一撃必殺の剣は、だいたいは弱点がある

知られてしまえば、対応もされる。

門外不出でも、噂は雇い人から漏れる場合もある


「嘘をつけ、俺は知っているのだぞ」

もう酩酊しているのか、ふらふらしながら隣に座り込む

犬飼某もそれなりの腕はある


だが養子のためか、親から教えられた剣に興味があるのだろう

「俺と勝負をしろ」

あしらいながら、その場を去る。


翌日に上役から、上意討ちを伝えられた。

相手は犬飼某である

その酒癖の悪さから、目を付けられて上級武士への非礼があると

説明された。


道場で手加減せずに、打ちのめしたのだろう。

刺客として、自分が選ばれた。


犬飼某には恨みはないが、口上を伝えて試合の場所を決める。

なぜか上機嫌に見える犬飼某が、飛ぶように突撃をしてきた

必殺の突きで、上半身を狙われている。


太刀でさばくと同時に、左手で脇差しを抜き、同時に太刀を落とす。

自分の剣は、変形の二刀流である。


脇差しは、重量のある鉈のような刀だ。


両手で力をこめて、太ももの外側を削いだ。

激痛のためか体がゆれる犬飼某の、右腕を切り落とす。

落ちた太刀をとると、とどめを刺して終わる。


「それがそなたの秘剣か」

頭巾姿の侍が塀の影から現れた。

満足そうに見える。


最初から、見世物あつかいで仕組まれたのだろう。

下級武士の剣術など、そんなものだ。


他に誰も居ない事を確認しつつ、犬飼某の太刀をとると

頭巾の侍を刺突した。

別に怒りがあるわけでもないが、父から秘剣を見た者は殺せと厳命されている。

決闘に巻き込まれたと言い訳をする事にした。

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