時代劇風のSS
WsdHarumaki
第1話 秘剣おっとり刀
「右衛門はおるか」
上役の笠松佐一郎が俺を呼んでいる、板敷きの上で書類を整理していたが
中断をして立ち上がる。この仕事も速く終わらせないといけない。
「どのようなご用でしょうか」
平伏して指示を待つと、笠松は書見台を見たままで顔は向けない
「江戸から使者が来ている」
そう言えば江戸屋敷から剣士が来ていると噂がある
「はい、承知しております」
「秘剣を探しているらしい」
「秘剣でございますか?」
剣の技には、一家相伝もあるので秘技を外部に知らせない場合もある
「お前は剣の技に詳しい、秘剣探しを手伝え」
難易度が高い命令だが、上役からの命令は絶対だ。
「江戸からの使者と相談いたします」
屋敷を出ると、使者が滞在をしている稽古場まで、出向いた。
「使者様ですか?」
若い侍が応対したので、使者との取り次ぎを申し出る。
「今は道場で稽古をしています、そこでお待ちください」
私は稽古場の中に入ると、彼の腕前を確認する事にした。
「えぃっ」鋭い気合いで、形稽古をする
見ていると激しい剣なのだが、単調に思える
「私は浅沼小次郎と申します」
正座した体は大きく膂力はある。
「井口右衛門と申します
笠松様から、秘剣を探していると聞きまして
手伝いを指示されました」
「それはありがたい申し出ですが、自分一人で探したいと存じます」
断られるとは思わなかったが、上役からの指示を強調しても変わらない
「判りました、失礼いたしました」
私が立ち上がろうとすると
「せっかく来たのですから、稽古をつけていただきたい」
「道場には人がおりませぬか」
私は不審に感じたが、受ける事にした。
形稽古と勘違いをしていた、彼は打ち合いを求めていたのだ
あの体で木刀で打ち合うの危険だ、手首に当たれば骨折もある。
これが道場で長年稽古をしている相手ならば、当てないで
勝負も判るが、見知らぬ相手では加減を取れない。
浅沼が突きを決めてくる、打ち合いどころではない
殺し合いになりかねない。これでは道場の連中は相手にしたくないだろう。
私は我流ながら秘剣を習得している。
後の先を主体とした、相手の技を見切る剣技だ。
先に仕掛けないので「おっとり刀」と称している。
浅沼の剣は単調だ、容易に見切れた
当てるわけにいかない、江戸屋敷からの使者にケガをさせるのはまずい
技を決めずに体力を減らす作戦にした。
へとへとになるまで打たせる、私は最小限の力でかわすが
長時間ともなれば私も汗がでる。
床がすべりそうになる
「まった、私の負けです、先に打ち込む隙がありません」
後ろに下がり、頭を下げた。
浅沼は、水をかぶったように汗だくで顔も赤い。
「よ、よろしかろう、これで私の勝ちとします」
ぜいぜいと息を切らせて、終わりになる。
事情を笠松佐一郎に報告をすると、
「腕前は悪いと言う事だな」
と聞いてくる
「ほぼ力任せのため、技を習う以前かと思います」
「江戸屋敷から上意討ちの命が来た」
どうやら江戸の方で失態があるらしい、こちらに戻ったのは
罰を恐れて逃げてきたのだろう。
秘剣を習いたいのは、討伐命令が来た時に使うつもりらしい。
すぐに習えて使えるものなら、誰も苦労しない
知恵も浅いのだろうが、彼も必死だ。
「笠松どの、騒動が起きました」
近習が浅沼が暴れていると報告に来た。
「右衛門は上意をもって浅沼を殺せ」
すでに稽古場は役人などが来て騒いでいた
「井口どうした、おっとり刀で参上か」
笑いながら同僚が声をかける
知り合いは見物に来ているらしい。
「笠松様から上意討ちを命令されている、入らせてくれ」
中に入ると、女中らしき者を人質にしていた
どうやら上意の話がもれたらしい
道場内の金子(きんす)などを盗んで逐電しようとして
物色中に見つかり暴れた。
何人かは切られて手当を受けている。
「浅沼小次郎、上意が出ている支度をしろ」
まだ十五くらいの娘を盾にしている。
娘ごと切るのは可能だが、あまりにむごい。
「どうした先ほどの試合で、私の腕前は知っているだろう」
「私を倒して逃げれば時間が稼げるぞ」
浅沼は黙ったままだったが、娘を乱暴に放ると
私に向かって大上段から刀を振り下ろす
後の先は、打ってきた刀の軌道をみて、先に打ち込む。
振り下ろそうとした右の手首を切り上げた。
浅沼は何が起きたかわからないまま、
もう一度刀を構えようとするが、混乱をしている。
右腕の痛みを感じないまま、私は左手首を切り落とす
呆然とした浅沼は、刀を持たない両腕を差し出したまま
大声で気合いを発して腕を高く上げた。
「もうよせ」と声をかけたが、錯乱したまま飛び込んでくる。
右首の頸動脈を切って終わらせた。
娘には傷はないようだ、道場から出ると上役に報告しに戻る。
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