第50話 クトゥルフ同窓会2

「Hey Everyone! 殲滅姫と偽魔女を連れてきたよ!」


シャーロンはアヤとリンゴを屋敷の中へと連れ込まれる。

中にいた四人の美少女がこちらを向いて、一人の美少女が声に出す。


「シャーロン、ここクトゥルフ同窓会のテリトリーだぞ? ホイホイ敵陣営を引き入れてどうするの?」


「フェルちゃん、手厳しいね! でも殲滅姫の名は知ってるでしょ?」


「まぁFFO詳しくない私でも知ってるけどさ。でも仲間にするならともかく殲滅姫……ああ、失礼。アヤさんはクラン所属中だから無理でしょう?」


「私は皆んなに新しいフレンドの紹介をしたかっただけだよ」


「シャーロンってそんな……むぐぅ!?」


フェルと呼ばれた少女の口を塞ぎ、笑顔で答えた。


「もう、フェルちゃんは疑り深いんだから」


シャーロンはフェルの耳元に何か囁き、フェルは小さくため息をついて朱色の長髪を靡かせる。


「そうなら早く言え」


「sorry sorry. でもこうでもしないとフェルちゃん聞いてくれないからね」


「私は融通きくタイプだと自負してたんだけどな」


フェルは椅子から立ち上がり、羽根のようなスカートが揺れてアヤ達に近づいて止まる。


「こんにちは、アヤさん、リンゴールドさん。私の名前はフェルニクスだ。言いにくいならフェルで構わない。ああ、私達に敬語は不要だ」


「よ、よろしく、フェル」


「ん、よろしく、フェル。あと私の名前はリンゴでいい」


フェルは首を後ろに曲げて一言口にする。


「ほらあんたらも自己紹介しな」


少女達はアヤ達を囲むように集まり、サメの格好をした少女が口を開けてギザ歯が鋭く光る。


「ハーイ! 私はグゥワ・シャークでーす。リスナーからグゥワって呼ばれてるから気軽にグゥワって呼んでね」


次に裾がボロボロの黒いシスター服を着た長身の少女が手を振って可愛らしくアピールする。


「私はソルラ・カリュだよ。設定で死神だけど、そんな怖い存在じゃないから気軽に話し合おうね」


最後にちょっと衣装が際どい少女。メンダコの髪型に天使の輪がついた神秘的なオーラを纏ってゆっくりと口を開いた。


「私はネクロ・ミコンです。あんまり話し合いは得意じゃないけど、よろしく、ね」


照れくさそうに黒い本を盾にしてネクロは顔を隠すが、シャーロンが抱きついて頬をつつく。


「ちなみにクトゥルフ同窓会の由来はネクロちゃんからなんだよ」


「勝手にシャーロンが決めたんだよ。私は死神探偵団の方がいいと思ったのに」


「不幸を呼ぶような探偵はダメでしょ」


アヤがツッコミを入れるとシャーロンがケラケラと笑って近くのソファに座る。


「ともあれ仲良くしようね!」


が、リンゴの表情は曇ったままでゆっくりと声に出した。


「……で、本題は?」


「嫌だな〜そんなに疑り深くなったら人生楽しめないよ?」


「シャーロンが騙そうとしてなければ、そうだったかも」


「あれれ? 私、嘘なんてついてないよ?」


「仲良くしたいのは建前。本音はまた違う」


するとシャーロンの瞳から笑みが消えて冷徹な獲物を狩る瞳に変わった。


「You got me. バレたら仕方ないや。でも仲良くしたいのは本当だよ?」


「腹黒探偵め」


「酷いな〜私ってそんなに腹黒かな?」


「腹黒だな」「腹黒探偵ですね」「腹黒だよ」「腹黒探偵……いい名前」


四人のクトゥルフ同窓会少女達は大きく頷く。


「ちょ!? 皆んなまでそれ言う!?」


納得がいかないそうに頬を膨らませるが、手をぶらぶらさせてアヤ達の方に向く。


「まぁいいや。というわけで本題に入るね。私達クトゥルフ同窓会は妖精の箱庭に同盟を申し込みます」


「同盟?」


私が首を傾げるとリンゴが分かりやすく説明してくれた。


「同盟は内容が果たされるまで一緒に戦う約束。でもプレイヤーが作ったルールだから、必ずしも守られるとは限ってない」


「つまりは口約束みたいなもの?」


「ん、アヤは理解が早くて助かる」


「そ、そうかな」


「あーそこ。話を聞いてください」


ジト目で見つめるもシャーロンは声に出す。


「同盟の内容だけど、一緒にグリフォン騎士団を倒してほしいんだよ」


私はどうしてグリフォン騎士団と戦うのか、を聞くとシャーロンは少し困った顔で目を逸らした。


「いや〜私の戦闘スタイルをケチつけたプレイヤーがいてね。もちろん拳でわからせたんだけど、そしたらライジンに言いつけるってどこぞのB級やられキャラみたいに走ってたの」


シャーロンは一息ついて話を続ける。


「そしたら最強ライジン様が私達に宣戦布告してきてね。で、あとから聞いてみたらそのプレイヤーが実はグリフォン騎士団所属だったんだ。まぁつまるところヤバい強豪クランに目をつけられて、私達五人じゃ勝てないから協力してほしいんだよ」


私は少し悩んだあとある事を思い出して口に出す。


「私達との戦いはどうするの?」


「もちろんするよ。グリフォン騎士団を倒したあとでしっかりとね」


「でも必ずしも同じフィールドにワープされる訳じゃないでしょ?」


「そうなったら仕方ないかな。ただもしも同じフィールドになったら、ね。その場合に一緒に戦ってくれると助かるな〜」


「……なるほど。今回はチーミング禁止されてない。だからアリ」


リンゴが小さく頷くとシャーロンは手を合わせて答える。


「That's Right. 敵同士が同じ強敵と戦うのって、ストーリーとして熱くならない?」


「ん、つまり撮れ高マシマシってことか」


「オブラートに包んだのに中身開けないでよ」


「ボタンを押すなと言われたら、私は押すタイプだから」


「一番厄介なタイプね……」


苦笑いを浮かべながらもシャーロンは私に近づき、手を差し伸べる。


「そんなわけでして、よろしくお願いします」


同盟……口約束……このまま手を握ったとして、シャーロン達は私達が裏切るとは考えていないのだろうか?

と、口にする前にリンゴが質問する。


「二つ条件がある。一つ目、そっちが攻撃を仕掛けたら、同盟破棄。二つ目、クトゥルフ同窓会の固有オリジナルスキルを教えること。これを守れるならオッケ」


「ちょ、リンゴ」


するとリンゴがフレンドボイチャでわざとアヤの耳元で小さく囁く。


「あっちが裏切っても固有スキルが分かれば、対策できる」


「でも嘘をつかれる可能性だって」


「大丈夫。嘘を見抜くことなら、朝飯前」


「確かにリンゴなら見抜けそうだけど」


「アヤは同盟に不満?」


「不満ってわけじゃなくて……私達にメリットあまりないよね?」


「そうでもない。クトゥルフ同窓会はかなりの強豪クラン。戦わないなら、それに越したことはない」


「戦闘狂のリンゴが戦いたくないほど強いんだね」


「む、私は戦ってもいいけど、今回はクラン対抗だから、迷惑かけるつもりない」


意外な一面に少し驚きつつもリンゴは背を押してサムズアップする。


「私じゃなく、クラマスのアヤが決めるべき」


「責任重いなぁ」


うじうじしても仕方ないのかな。


「決まった? こっちはリンゴの条件バリバリOKだよ」


いつの間にかシャーロン達は話をつけてサムズアップをおくる。

言い逃れるためか、私は自然とその言葉にした。


「シャーロン、私達はもしかしたら裏切るかもしれないよ?」


「まぁ他のクランだったらそうかもね。でもは必ず約束を守ると信じてるから、こうして同盟を結ぶにいたったんですよ」


その言葉に私はドキッと動悸がした。

なぜ私が約束を必ず守ると知っているのか。仮に偶然だとしてもどうしてそこまで真剣な目つきで私を見れるのか、頭が一瞬真っ白になって、どう返答していいのか分からなくなっていると……


「アヤが決めたことは、私は後悔しない」


リンゴの言葉に迷いが消える。嬉しい、けれどひと握りの不満。そんな気持ちを抱えながら私はシャーロンの手を握って言葉を告げる。


「わかりました。もし同じになったら一緒に戦いましょう」


シャーロンはここ一番の満開の笑顔で私の手を両手で覆う。


「Thank you! 殲滅姫がいてくれたら心強いよ!」


ハイテンションなシャーロンに(物理で)振り回されながら、クトゥルフ同窓会と同盟を結んだのだった。

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