episode ena 彼女は願う

地獄と言われて死後の世界で閻魔に罰を受けるとほとんどの人はそう思う。

血の池、針の山、閻魔の舌抜きとか、だ。まぁ八大地獄や八寒地獄とか詳細を語ればもっとある。あ、話が脱線した。

えーと、もしも生きた身体でそんな地獄を味わったらどう思う?

例えるなら全身が針で刺されて身体中が焼かれるような熱に犯される。

それがずっと続けば普通は頭がおかしくなって死にたくなる。実際、私はそうだった。

……今もときどきあるけど。


​───────!


あ、呼ばれてる。けど、まだ寝ていたい。


​───────な!


声が頭の中に響いてくる。ハッキリとまだ意識がしてないのにそれが誰なのか分かった。

私は目を開けて、精一杯の声量で声を出した。


「おはよ、兄さん」


その声はか細く小さく空気を伝って彼の耳へ届いた。


「随分と元気そうだな」


黒縁メガネかけて髪が乱れた男性はホッと一息をついてお見舞いのフルーツをテーブルに置き、近くの椅子に座った。


「仕事を放り投げて来てみれば、猫を助けるために川を泳いだって何考えてるんだ」


「兄さん、駆けつけるのが遅い」


「海外飛び回っている兄にそんなこと言うか? ドイツから日本に来るの大変だったんだぞ」


「めんご。でも結果的に生きてる」


「ヒヤヒヤさせる生き様はしないでくれ。お前はちょっとの運動で息切れするくらいまだ体が弱いんだぞ」


彼女は体が極度に弱い。特に幼少期はベッドで寝ていなければ生きることすら叶わない病弱な少女だった。

少女の兄はため息をついて、乱れた髪を整える。


「それで、体調悪くないか?」


私は首を縦に横に振って、ついでにガッツポーズして健康アピールする。兄さんは苦笑いして声に出した。


「そのあとに倒れたこともあったから油断ならん」


「む、健康優良児なのに」


「優良児なのは間違いないが、それ以外が問題だ」


「そういうの酷くないですか!?」


「…………お前らしくない反応だな。またなんかのアニメの影響か?」


「違う。これはFFOで出来た友達フレンドのセリフ」


少女は気の抜けた笑顔で兄を見つめた。


「随分と楽しげに笑うな。どうも仲が良さそうに見える」


「ん! フレンドの中の友達フレンドだから!」


私は脇腹に当てて胸を張ると兄は軽く鼻息をついてテーブルに置いてあったVRヘルメットを取る。


「FFO、か。良くも悪くも随分とお前の印象が変わったのは兄として嬉しい限りだがな」


「ん、おかげで退屈せずに遊べてる」


「消灯時間が過ぎてもやってるから寝かせられないと看護師が迷惑してたぞ」


「む、個室だから誰にも迷惑かけてない。それにFFOは実質寝てるのと一緒」


「体はそうかもだが脳はバリバリに起きてるからな。それで脳死とかになったら笑い話にもならない」


「むむ……」


「要は程々にだ。やり過ぎて心配かけんなってことだ」


「ならもっと迷惑かけていい?」


「さて帰るか」


少女の兄はスーツを整えて鞄を手に持つ。


「冗談。兄さん、待って」


少女の兄は扉を閉めて廊下の歩く音がコツコツと聞こえる。少女は頭を傾げ、ピーンと閃いて手を叩く。


「私の初めてをあげたフレンドなのに」


途端、廊下からバタバタと音を立てて扉が勢いよく開いた。


「け、結婚だとぉおお!?」


「なんでそうなる」


「普通は親族に相談するもんだぞ!?」


「だから結婚してない。回復アイテムを渡しただけ」


「純潔な妹をたぶらかした罪、万死に値する! 草の根を分けてまで探してやる!」


「だから! 結婚してない! ちゃんと話を聞け! 早とちりシスコンドM野郎!」


少女はプイッとそっぽを向くと少女の兄は心を落ち着かせて頭を掻く。


「早とちりは認める。が、それ以外は事実と異なる」


「本当のことなのに」


「……お前の扇動せんどうは難癖つけるジジイ共よりイライラさせられる」


「人を陽動させるのは得意分野」


「操るの間違いだろ。あいつからそれがお前に遺伝した時は肝を冷したんだぞ」


少女の兄は深いため息をついて病院の窓の外を見る。


「それにお前のってやつは現実でもゲームでも、思いのままにどんな人間でも陥れることができるからな」


「そんなこと微塵もする気ない。あとどんな人間でもじゃない」


「どうせ80億人の中で探すのは無理だって言うんだろ?」


「違う。勘に反応しない人がいた」


少女の兄は目を見開き、面白そうに笑みを浮かべた。


「へぇー、偶然じゃないのか?」


「違う。母さんと同じ勘に反応しない。それにとても可愛くて、面白い友達フレンド


少女はよろよろと立ち上がってテーブルに置かれた赤い果実を一つ取って外の風景を眺める。


「きっといつか会えると信じてる」


「それはお前の勘によるものか?」


少女は振り返り、無邪気な子供のように笑顔を浮かべる。


「私の願望だよ」


少女は瑞々しいリンゴを一口齧った。




​───────​─────

​───────​───────




皆様、ご無沙汰しています。

この度、アイドル(略)二章を読んでいただき、誠にありがとうございます。

……色々と解決してなくてモヤモヤする?

まぁそれが狙いですからね。後々にちゃんとスッキリ爽快フレッシュにしてみせます。


さて、読者様が気になっていると思うのでまずは三章の話です。


三章の公開日ですが大まかな予定として五月中になるかもしれません。

二章の途中でモチベが完全燃焼してしまったので、書くのが億劫になっていて話を作るのに時間が掛かっています。許してヒヤシンス。


それから下の文章は作者の二章を作る際の葛藤話なので読みたい読者様はご自由にお読みください。




さて、二章の後半部分なのですが本当はもっと明るめに話を作ろうとしてました。なにぶん『人』を書くとどうしても暗い部分が出てしまいます。ですので、悩んだ末に思い切って猪突猛進してみました。やや強引気味になってしまいましたが、笹川綾香らしい解答になったとは私は思います。

……ゲーム内では殲滅姫と呼ばれてますが。


さてさて、vrmmo作品のあるあるといいますか、私の知るvrmmo作品ではだいたい『運営』の裏方が出てきます。侮辱しているわけではありません。作品の奥行きを広める分にはいいと思います。ただ裏方を登場させてFFOを楽しむアヤ達の世界観を壊してしまわないか、と危惧しているのです。

第三者から見ている分にはいいと思いますけどね(更なる予防線)。

そんなわけでアイドル(略)の運営は登場しません。


また勘のいい読者様ならお気づきかもしれませんが、ゲームに登場する敵キャラや武器などの名前はあっても街やフィールドの固有名詞は一切語っていません。

実際はありますがゲームのガチガチに固めた設定をすげぇ〜語るのではなく、アヤ達のつくる物語に主軸を置いています。

ゲームの世界観を語りすぎて情報過多になるのも嫌ですからね。もちろんFFOの重要になってくるゲーム性は語ります。



長話はここまでにしておき、最後に改めて。ここまで読んでくださった読者様、作品、レビュー、応援してくださった皆様、本当にありがとうございます。

次の三章はもっと破天荒に明るく暴れたいと思います。もちろんいい意味で。



では肌が日焼けしたあとに、小説を読み終わる頃にまた。

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