閑話 強者達の酒盛り+報告

とある酒場で三人の男性プレイヤーが仮想の酒を手に持って愚痴をこぼしていた。


「酒! 味がしねぇ!」


槍を持った男性はごくごくと酒が入った樽ジョッキを飲み干してテーブルに置く。


「仕方ないよ。味覚の表現技術は相当難しいらしいから」


禍々しい剣と白銀の盾を背負った優男は眉を曲げて苦笑いする。

槍の男性は納得いかなそうにテーブルを手で叩いて顔を伏せる。


「今日は残業あったんだよ。だからゲームでも酔う気分になりてぇよ」


「まあまあ、ダンジョンボスも討伐したし明日はPvPだ。気合い入れていこう」


「へぇ! 俺なんてランキング外になる自信しかないね!」


「それはないだろう。な、ジャック」


隣に座っていた尖った黒髪の男性がナイフを研ぐのをやめて槍の男性に視線を移す。


「ツルならトップ10くらい余裕だろ。まぁ俺の方が上になるが」


「言いやがって! ならランキングがどっちが上か勝負だ!」


「おいおい。俺が勝つ未来しか見えん」


「じゃあ負けた方が追加スロットの譲渡な!」


「二人とも。興奮してたら明日まで持たないよ」


優男が放つプレッシャーに二人はビクッと一瞬震えて賭け話をやめる。

少し間を置いてジャックが優男に話しかける。


「ライジンの方が血気盛んに見えるが?」


優男​──ライジンは不敵な笑みを浮かべて口を開く。


「そんなことないよ。僕は一位という称号を入手したいだけさ」


「称号マニアめ。そのせいでこちとら万年二位やらライジンのおまけなんて言われる始末なんだぞ」


ジャックは悪態をついて口を尖らせるとライジンは余裕のある笑顔でテーブルに肘をついて頬に手を当てる。


「なら一位の座を奪いにくるといい。負けた方が裸縛りで炎龍ヒドラ討伐ね」


「いいぜ受けてやろう」


「俺も受けるぜ、ライジン」


「二人が僕を倒しにくるの待ってるよ」


「「首洗って待ってろ(よ)」」


三人は樽ジョッキを持って今宵の戦いと次なる戦いに向けて強くぶつけた。



◆◆◆◆



翌日の深夜


いつもの酒場でイベントの話を愚痴をこぼしに三人はきたのだが、少し違った様子をみせる。


「まず俺から話していいか?」


「「どうぞ」」


二人はどうぞどうぞと手を前に出してジャックに話の主軸を譲る。


「別に負けたことは仕方ないと割り切ってるつもりだ。いや悔しくないかと言われたら悔しいけどさ。まぁ俺の攻撃をほとんど見切って避けるし、罠にも勘づいて避けるしで久々に血がたぎったわけよ。最初は遊びのつもりだったのが……」


「つまり油断して負けたと」


ジャックの話を遮りライジンがテーブルに頬杖をついて考え込む。


「油断してたのは認めるが、途中からちょっと本気になったぞ」


「ジャックが本気出す相手はライジンと俺くらいじゃなかったのか?」


「じゃあBグループのアーカイブ見てみろよ。あの少女の強さが分かるから」


ツルは試合のアーカイブを再生し、まじまじと見て「おお」とわざとらしく感嘆の声を出す。

一通り見終わるとツルは目を丸くして口を開いた。


「この少女の一撃って固有スキルだよな」


「十中八九そうだな。何の効果か分からないが、とりあえずあれくらえば一撃で死ぬ」


「ジャックは常時パッシブスキルの〈逆行する時女神〉で蘇生するんじゃなかった?」


「ああ、HPほぼ満タンで一撃だったから発動すると思ったんだが、なぜか発動しなかった。理解が追いつかなくて待機場でリアルフリーズしてたよ」


ライジンは顎に手を当てて眉間に薄いしわを寄せる。


「悔しさ半分もう半分は再戦してガチ勝負したい」


「ジャック、か弱い女性プレイヤーと本気で戦うことは紳士のすることじゃないって言ってなかったか?」


ツルはジャックを真似た口ぶりで声にするとジャックは苦笑いして口を開く。


「あの少女は全然か弱くないからノーカンだ。あと見た目は凄くいいが中身はきっとゴリラだ」


「その少女にぶん殴られるぞ」


「いいのいいの。聞かれなきゃ問題ないから」


ジャックはパネルを操作して樽ジョッキが現れる。ジャックはグビっと飲んで一息ついてライジンに視線を移す。


「それよりライジンの試合見たんだが、お前あの偽魔女エセマジョと戦ってたよな」


ライジンは顔を上げて口を開く。


「あの魔女のこと?」


「そうそう魔女帽子被ったあの偽魔女エセマジョ。確かリンゴールドだったか」


「PvPが実装された間もない頃、僕に勝負を挑んできたんだよね。印象に残ってるよ」


「ふーん、まぁあれ見たら誰だって印象に残るか。それを初見で見抜くライジンもヤバいけど」


「タネさえ分かれば対処は容易だからね。あとちょっとのところで逃げられてたのは残念だけど、結果的にあの魔女は六位になった。賞賛に値するプレイヤーだよ」


ライジンはテーブルに浮かぶパネルを食い入るように眺める。ライジンは一人の少女がたった一度の攻撃で大勢のプレイヤーを屠った瞬間を見てほくそ笑む。


「このアヤって子も中々やるね」


「ライジンも気になるのか」


「僕とポイントが僅差だし、ツユを差し置いて二位になってるし、最後にサシの勝負で魅せてる。下手したら僕より目立ってないかな?」


二人は微笑を浮かべ、先にツルが喋る。


「安心しな。ライジンと一緒にPvP参加したプレイヤー達から二つ名付けられてるからめちゃくちゃ目立ってるぜ」


「へぇー、どんなのがある?」


「ライジンは無双王で、アヤは殲滅姫で…………俺は社畜帝だな」


「ツルが社畜帝……ハハハ、いい名前だな」


「うっせぇ無名プレイヤー」


「無名の方が変なあだ名付けられるよりマシだよ」


「なんだと!」


お互いの視線がバチバチと火花が散り、どちらが先に勝負を仕掛けてもおかしくなかった。しかし、ライジンは二人を止めることなくじっーとパネル見続ける。


「……ライジン? なにずっと黙ってるんだ?」


ライジンが黙り込むのは滅多にないことだ。

ジャック達の記憶にはリモート画面でアップデートの延長に無言で見つめるライジンか、最難関の魔古龍ファフニールのソロ討伐に悩む姿しか見たことがない。


「あ、すまない。ちょっと考え事してた」


「別に悩むのはいいが、無言のライジンはちょっと怖いとこあるもんでな」


「僕は魔王か何かかな?」


「「魔王だろう」」


ライジンは苦笑いして肩を落とす。


「二人とも酷いなぁ。まぁ野生の魔王とか魔女の子にも言われたからそうなのかもしれないけど」


ライジンは椅子から立ち上がり、体を伸ばした。


「さて。これから忙しくなりそうだ」


「ん? それはどういう意味だ?」


ツルが首を傾げるとライジンは達観したような瞳で口にする。


「次のPvPに向けての準備だよ」





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ここまで読んでくださった読者様、作品レビュー、応援してくださった方々、誠にありがとうございます。


これにて第一章は終幕です。


正直な話、この物語は幾万の物語の中に埋もれていき誰にも知られぬまま終わっていくと思っていました。そのため二章を作るとは想定していませんでした(驚愕)。


◆じゃあ、なんでアイドル(省略)を投稿したの?


作者が深夜テンションの勢いで書いた作品をそのまま廃棄処分にするのはどうかなぁと思い、カクヨムに投稿するかと脳死で投稿したのがキッカケです。

本来は別の作品を温めに温めていてそれを最初に投稿するつもりでした。(その作品もそのうち投稿します)


◆章ごとではなく随時更新しろ?


ちょっと知らない子ですね。

(本音を言うと小さな伏線を張ったり、キャラの描写に気を使ったりしているせいで、何度も話を読み返して変更しているので難しいです。許しておくんなまし)



では言いたいことは言ったので、アヤの物語を描き切る日にまたお会いしましょう。

作品レビュー、応援等は読者様の「べ、別にあんたのためじゃないからね!」みたいに気が向いたら勝手にしてやってくださいませ。

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