行き倒れ ~ 元養護施設児童の行方

与方藤士朗

プロローグ

第1話 プロローグ ~ 莫大な金の出処とその行方 前編

 2018(平成29)年5月某日 岡山市内某所にて


「米河君、あの時ばかりは、ホンマに参ったでぇ・・・」


 山崎良三元児童指導員は、仕事がらみで会った元園児の米河清治氏に対して、あの時の話を持出した。

 もっとも、その件について彼が耳にするのは、初めてというわけでもなかった。


「なんの件です?」

「ほら、あんたと同学年におったろう、覚えとるか? 宮木正男のことじゃ」

「宮木正男氏は、確かに、同学年でいましたね」

「彼の行き倒れの話、いつだったか、しただろう?」

「ええ、あの件ですね。しかし、あれもねぇ・・・」

「まあ、あの年度初めは、寮替えでまたいつも以上に混乱しよって、なぁ・・・。ほら、君らの高校生の頃のアイドル、岡田有希子な、彼女の騒動があっただろ?」

「ええ、ちょうど私もO大の学生会館のテレビで、あの事件の速報を観ましたよ。あまりにびっくりしましてね、当時2回生になったばかりの押切さんって先輩と、そのあたりのビラを集めて速報と称してマジックか何かで書いて配ろうと騒ぎだして、北原さんという法学部の先輩に、おまえらやめろ、空しいことをするなって、たしなめられましてね」

「おいおい、O大の学生会館まで出向いて、一体全体君らは何しでかそうとしとったンならぁ・・・。アホかいな・・・(苦笑)。わしは、ご存知の通り一期校のO大に合格したけど、東京に出たいばっかりに、二期校のT商工大に行ったが、それにしても、そんなアホな後輩に恵まれんで、助かったわい(苦笑)・・・」

「いやぁ、生協のアンケートにエロ本置いてくださいなんて書く優秀な後輩に恵まれているあたり、さすがですねぇ、T商工大は・・・(苦笑)」


 ひとしきり出身大学の軽口をたたいた元職員と元児童は、大笑いしつつも、さすがにこれはと思ったのか、ふとした瞬間、同時に笑いが止まった。


「まあ、出身大学ネタはお互いこの辺でノーサイドとしよう」

「そうですね、あまりにアホらしいですからね。でもまあ、これはアホらしいで笑って済ませられますけど・・・、あの件は、ちょっと、ねぇ・・・」

「まあな。岡田有希子のことはともかくとして、あの話の続きをさせてくれるか」


 山崎氏は、1986(昭和61)年4月の年度初めのことを語り始めた。

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