第二章 アースガルズ編

第32話 目覚めた侍


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まえがき

第二章開幕。

基本的に毎日12時02分に投稿していきます。

今後ともよろしくお願いします!

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「剣也君? 剣也君?」


 声が聞こえる、誰だろう。

俺はなにをしていたんだろう。

俺は守れたんだろうか……。


 剣也はゆっくりと目を開く。

見慣れた景色、コクピットの中。

ぼやけた視界がゆっくりと鮮明になっていき、白い光が眩しくなっていく。


「あれ? 俺」


「剣也君、よかった……大丈夫かい? ケガしていないか? 剣也君?」


 コクピットの中に響く通信の音。

この声は、田中さん? あ、そうだ。俺寝ちゃったんだった。


「すみません、田中さん。大丈夫です、寝てしまっていました」


「よかった! 全然起きないから心配したんだよ、こちらへきて休むといい。輸送車のほうが幾ばくか寝やすいだろう」


 剣也は言われた通りにコクピットを開く、建御雷神からゆっくりと降りた。

改めてその機体を見る。

所々傷をつけてしまったが、凛として立ち、相変わらず真っ白な機体。


「ありがとう、お前のおかげで生き残れた」


 優しくその機体をなでる剣也。


 すると田中さんが輸送車から降りてくる。


「おはよう、そしてお疲れ様。そしてありがとう、剣也君。みんなを守ってくれて」


「田中さん……いえ、お礼を言うのは俺の方です。田中さんがいなかったら死んでました」


「そうだね……ここに来た私も大概だが、無茶をするよ。本当に……」


 田中さんがゆっくりと歩いて来て、その薄汚れた白衣とくたびれたひげ面でやれやれと剣也の頭をなでる。


「まだ子供だというのに…」


「一心さんにも言われました、それで田中さん色々聞いても? アースガルズ軍人は? かぐやは?」


「まぁ、落ち着き給え、少し話そうか」


 すると輸送車の荷台を開き寝転がれるようにしてくれた。

そこに田中と二人で座る剣也。

すでに時刻は深夜近く、星と月がでている綺麗な夜だった。

 

「なんとなく察しはついていると思うけど、私はレジスタンスの一員だよ」


「やっぱりそうだったんですか」


「あぁ、少し前の作戦で奪取したKOGを使えるようにしたのも、まぁ技術的な協力を行ってきた」


 あの時一心が言っていた内部に協力者がいると言っていたのは田中さんだったのか。

剣也は納得がいく。

KOGの研究者として最先端の研究を行っていた田中、ならば簡単にセキュリティーを突破する方法も知っているんだろう。


「一心さん達は多分、アジア連合に向かっている。連絡手段がないので不明だが」


 インフラはすべてアースガルズ軍が抑えているため首都を離れると連絡方法がない。

逆に言えば連絡できないということは、遠く離れているということ。


 このことから田中は事前に聞いていた通り、アジア連合へのパイプを使って海を渡っているはずだと予想した。

田中自体は全くそういった外交のことに携わっておらず詳しくは知らないそうだが。


「そうですか……無事ならよかったです、いつか会いに行かないと」


「そうだね、君の生きる意味なんだろう? かぐや君は」


「!?」


「はは、通信を切ってなかったからね。戦いの中何度も叫んでいたよ。かぐやを守るって」


「そ、それは……」


「いちゃいちゃしたいんだろ?」 


「うっ」


 改めて思い返すとなんて恥ずかしいセリフを吐きまくっていたんだ。

歯の浮くようなセリフを連呼していた気がする、顔が真っ赤になってきた。


「かっこよかったよ。剣也君」


(もうやめて、私のライフはとっくにゼロよ!)


 田中がニヤニヤと剣也を褒める。


「いや、本当に……尊敬する。君を…。愛する人を命がけで守れた君を私は本当に尊敬する。しかもそれを成し遂げるだけの力もある」


 田中は悲しそうに、何かを思い出すように。

戦場で今だ燻っているKOGの残骸たちを見る。

剣也が滅ぼしたすべてのアースガルズ製のKOG、100体を超える死体と共に。


「私もね、無くしたんだよ。まぁあの時代はよくあることだった。どこにでもありふれている話。それでも私には耐えることができなかった出来事」


 剣也は田中さんの話を聞いて想像した。

多分田中さんも大事な人をアースガルズ軍に奪われたんだと理解する。

今ならその気持ちが痛いほど理解できる。


 もし、もしもこの戦いでかぐやが凌辱されたら。

もしも殺されたなんてことがあったなら。


 俺はあの国を許せない。


 そんなありふれた憎悪が世界には溢れている。

そしてそれを圧倒的な力で押さえつける帝国も。


「暗い話はこれぐらいにして、どうだった? 建御雷神は」


「はい、最高でした! 最高の機体です。これならどれだけだって戦える!」


「そうか、作っている当初はこんなの誰が乗れるんだって思いながら作っていたけど……まさか使いこなせるものがいるなんてね」


「得意なんです。近接。あとは…ロマンですよね。やっぱり、刀のみで戦うって」


「おお! さすがわかっているね。この機体は日本の侍をイメージして作ったんだ。もし全力を出せばだれにも負けないようぐらいの力を持っているはずだ」


 そんな会話で二人が盛り上がる。

男二人で死線をくぐった剣也と田中は、元々馬が合っていたのがさらに打ち解ける。


「それで、剣也君。これから一体どうするんだい?」


「これからですか……何も考えてませんね」


 万歳し、お手上げというポーズを取りそのまま輸送者に寝そべる。

気温がちょうどよく、気持ちいい。

硝煙の匂いがしなければ最高の夜なのに。


「私もこれからどうするかな……軍に戻ったら多分殺されるだろうし。行く当てもないな、アジアにでもいくか」


「俺も多分バレてるんですよね、ジークさんいましたし、この機体に乗れるのは今のところ俺だけなので…。戻ったら殺されるかもしれない」


 田中の正体もジークに知られているし、剣也の正体も多分ジークは気づいているはず。


「アジア連合ってどんなところなんですか?」


「そうだね……私も行ったことはないけどアジアの国の集合体だ、国単位の民主主義といえばわかるか?」


「民主主義? どういう形態なんですか?」


 勉強はあまり得意ではない剣也。

日本が民主主義だったことは知っているが、田中が言っていることが明確には理解できなかった。


「はは、勉強は苦手かな? いや、すまない。その年なら学校で学ぶこともできなかったな…」


 剣也のただの無知を戦争のせいで学べなかったのかと、悲しそうな顔をする田中。

ごめんなさい、俺がアホなだけです。


「簡単にいうと、アジアの国々がアースガルズ帝国の脅威のために一致団結した連合体だ。各国の政治形態や、経済はバラバラだが人口に応じて投票権を持つ」


「じゃあ、何か決める時はアジア連合の各国が投票で決めるってことですか?」


「そう、まぁ正確に言えばその国の代表達に決定権がある、その代表は選挙だったり、国王だったりと様々だけどね」


「そうなんですか…」

 

 この世界のことをあまり理解していなかった剣也。

アジア連合という巨大な国家の集合体、そしてEUというこれも同じ国家の集合体。

そしてアースガルズ帝国という最大最強のたった一人の人間がすべてを支配する帝国。


 前の世界でも政治にはあまり興味はなかったが、この世界では命にかかわるため興味を持たざるを得ない。


「さて、どうする? 当てもないが、いくかい?」


「そうですね…どうしましょうかね」


 すると剣也のKOGデバイスが鳴る。


(この番号を知っているのは二人だけ)


 剣也の連絡先を知っているのは今のところ二人。


 一人はかぐや、今は海外に向かっているため連絡できない。


 ならばあとは。


「もしもし…」


 剣也が恐る恐る電話に出る。


「剣也君ですか?」


「うん…どう…したの?」


「今そちらに向かっています。その白い機体の場所へ」


「……」


 その言葉が意味することはすべて理解しているということ。

つまり先ほどまで剣を交えた剣也が守るべきもう一人のヒロイン。


「話をしましょう」


 白銀の氷姫の異名を持つ、アースガルズ帝国のエース級パイロット。


 レイナ・シルフィードが向かっていた。

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