【完結・コミカライズ決定】両手に花を、両手に剣を。 ~ロボゲーのヒロインにガチ恋したら、世界が変わった~

KAZU@灰の世界連載中

第一章 異世界の騎士編

第1話 NEWルート


 問 ゲームのヒロインに恋をしてはいけないのか


 誰しも一度は漫画やアニメ、ゲームのキャラに心奪われたことがあるはずだ。

この愛すべき変態と文化の国、日本に男として生まれたからには、誰しもが一つ下の嫁がいる。


 次元がだが。


 例に漏れず、俺はゲームのヒロインに恋をした。


 加えて不純にも、二人のヒロインを同時に好きになってしまった。


 誰かに相談すればバカかと言われるだろう。

触れない相手に恋をしてどうするんだ、アホかと言われるだろう。


 しかも二人? 

妄想から目を覚ませ、現実を見ろと諭されるだろう。

そんなことはわかっている。


 誰よりもそれをわかっているのは、分かりきった顔でアニメを現実と結びつけるコメンテーターではなく。

恋焦がれてもどうしよもないと理解している自分達なのだから。


 それでもしてしまったのだから仕方ない。


 何度思っただろう、あの世界に行きたいと。


 もしあの世界に行ったら俺はなにをするんだろう。


 しかしそれは叶わないのはわかっている。

だから今日も無機質な起動音と共に作られた世界で彼女たちに会いに行く。


 今日こそは、今度こそは救いたい。


 こんな糞みたいなシナリオから。


 二人を。



「優勝は、プレイヤーネーム ソード選手です!!」


 俺は小さくガッツポーズを取った。

PN ソード、本名 御剣剣也こと、俺は優勝した。


「うぉぉぉ!!!」

「すげぇぇ! 建御雷神で優勝かよ」

「なんであれが避けれるんだ?」

「さすが前年度世界チャンプ、HP半分残りか」


 有名配信サイトでとあるゲームのオンライン大会が配信されていた。

そして優勝者、つまり日本チャンプが決まり盛り上がる、視聴者は国内だけで20万人を超えていた。


 会場は湧きに湧いたと言いたいところだが、湧いているのは残念ながらチャット欄。


 今日はオンライン大会のため別に会場はなくネット上で完結する。

俺としては顔出しする必要もないため好都合だが、運営としては辛いだろう。

文句は全部感染症のウィルスに言ってくれ。


 そして勝利者、もとい優勝者インタビューが開始される。

 

「お気持ちはどうですか?」


 ネット越しにネットアイドルのような女性が当たり障りのないことを聞いてくる。

試合中もすごーい、しか言ってなかった気がするがゲームになんか興味ないのだろう。


 ましてやオタクの俺達ゲーマなんかにも。


 オタク受けしそうな服装はオタサーの姫という感じだが、どうせ陽キャの彼氏がいるんだろうな。

そんな皮肉をすぐに思い浮かぶぐらいには俺はひねくれていた。


「はい もう6年ぐらいですかね…。このゲームをやり続けたのでとても嬉しいです」


「6年間! というとKOGのSeason2からの古参プレイヤーですか!」


「そうなりますね」


 『Knight of the Giant』、通称『KOG』と呼ばれる全世界大人気ゲーム。

なぜこれほど大ヒットになったのかというと、VRゲームとしての完成度とロボットに乗るという全世界男児の夢を叶えたゲームだからだ。


 専用のコントローラーとVR機器を付けていわゆるロボットを操って戦うゲームのKOG。

1VS1に始まり、3VS3、果ては100人以上のバトルロイヤルと多くの対戦モードがある。


 ちなみにこのロボットの名称、つまり機体名が『Knight of the Giant』だ。

直訳すると巨人の騎士。

なのでみんな機体のことはKOGと呼ぶ。

コグだったり、ケーオージーだったりまちまちだが。


「本日は1VS1の日本代表決定戦でしたが、3VS3など他のモードは出られないんでしょうか?」


「でません、一人が好きですから」


(嘘です、友達いないからです。やれるなら3人でチーム組みたいよ!)


 俺はボッチだ。

なんでボッチなのか、不登校だからかな。

いや、ボッチだから不登校なのか。


「そうなんですか…」


「…」


「…」


 静寂が流れる、チャット欄には察しろという悲しい文字達。

アイドルもなんて返せばいいかわからなくなっていて俺も心が痛い、早く話題を変えろ。


「で、では、これでインタビューを終わります!」


(おわっちゃったよ!!)


 そして俺はため息をつきながらオフラインになり、ヘッドセットを脱いだ。

今日のイベントはこれで終わりだ、久しぶりに人と会話したな。


 目の前にはPC、ここは自室兼自宅。

自宅と言っても6畳ほどの小さな賃貸住宅だ。


「二度目ともなると優勝してもそれほど嬉しくないな」


 去年の大会でも優勝している。

中学からほぼ不登校気味でこのゲームに人生を捧げた。


 高校になってからは、ほぼすべてを捧げたと言っていいだろう。


 才能はあったんだと思う。

人より反射神経が良いようだ、ネット情報を鵜呑みにすれば相当優秀らしい。

認識してから反応する速度は、0.1~0.2秒以内に収まる。

ネットで反射神経を図るゲームで試した。

FPSなどが好きな人が良くやるやつだな。


 だから才能はあった。


 でも喜び合う人はいなかった。


 俺は立ち上がって冷蔵庫を開ける。

中には水と卵と調味料のみ、寂しい冷蔵庫だ。


 一人暮らしかというとそうなる。

ただ高校が遠いから親元を離れているとかそんな幸せな理由じゃない。


 俺の両親は離婚した。

お互い好きな人が他にいるというよくある理由、不倫だ。

お互い納得し離婚することになる、しかし問題はある。


 本来は二人の愛の結晶のはずの俺。

しかし愛を失ってしまえばただ邪魔な存在だった。


 今でも思い出す。

どちらも俺を引き取りたくないと大声で言い争いをする。

それを間で聞く子供がどんな気持ちになるか考えなかったのか。


 両親から愛情を最後にもらったのは小学生の頃か。

あの頃はまだ大事にされていた気がする、時とは残酷で人を簡単に豹変させる。

でもあの頃の思い出のせいで完全に嫌いになれない自分も甘いなとも思った。


 そんな離婚する二人が出した条件が養育費の折半。

そしてこの狭い部屋と養育費の口座が与えられた。

それが両親からの最後のプレゼントとなった。


 両親から育児を放棄された子供がたどる道など決まっている。

学校に行けと口うるさい幸せな怒鳴り声をついぞ聞くことのなくなった少年が不登校になるのも仕方ない。


 まぁ学校に行かなくなったのは別の原因があるのだが…。


 だから今日も俺は家に引きこもり、あの世界へと飛び込む。


「じゃあ今日もやるか」


 少し休憩した後ゲームを起動させる。

今人生の大半を使っているゲームがある。

KOGのノベルゲームだ。


 もともとKOGはヒロインが可愛いが設定のみでストーリーモードがあるわけではなかった。

それでもKOGの対戦ゲームは。


「剣也! 頑張って!」

「剣也助けて!」

「剣也好き…」


 なんてゲーム中に言われるもんだからヒロインの人気はすごかった。

俺も例に漏れず簡単に落とされていたのだが、仕方ないよね。

VRのヒロインの破壊力ってすごいのよ。


 そんなオタク達の心の叫びを体現するかのように、遂に作られたのがVRノベルゲーム。

まるで本当にそこにいるかのような臨場感のもとヒロイン達とKOGの世界を楽しめる。

しかもストーリの中でちゃんとKOGを動かして敵を倒すイベントまで用意しているのだから本格的だ。


 だからとても楽しめるし、ヒロイン達と会話できるなんて胸が躍る。


 そう思っていたのに。



「好き、剣也……大好き。さようなら」


 ヒロインが死んだ。


「かぐやぁぁ!!!」


 毎回この場面で涙が流れる。

分かり切っているのに、涙が出てくる。


 だってこのヒロインは俺の青春だから。


 そして俺は再度ゲームを起動して、試行錯誤し、新たなルートを模索する。


「ごめんなさい、剣也君……あなたは生きてね。好きでした、あなたが…」


 ヒロインが死んだ。


「レイナァァ!!」


 そして今日何度目かもわからない絶叫の元もう一人の嫁が死んだ。


 この作品のヒロインは二人。

そしてどちらのルートを選んでも選ばれなかったヒロインが死ぬ。


 この糞シナリオ書いたライター出て来い、ぶっ殺してやる。


 しかもストーリーの序盤も序盤のはずだぞ、全然話が進められないじゃないか、俺はヒロインが死んだストーリーなんか進める気はないし、進めたくはない。


 そんな怨嗟の言葉を吐きながら俺は何度もチャレンジする。


「やっぱり無理なのかな…」


 ついぞ諦めそうにコントローラーを落としそうになる。

俺は攻略本を見ながらゲームを進めるタイプではない。

しかしどうしようもなくなった時、調べるぐらいはする。


 実はこのルートについて調べたことがあるが、まだ誰も二人が生存するルートを見つけていない。

そもそもないのかもしれない。


 開発者やシナリオライターは一切の黙秘を決め込んでいるのでどうしよもない。


「はぁ……諦めるしか……ん?」


 今日もネタバレに気を付けながら新しい情報がないかとKOGノベルゲームのスレを眺める。

ため息を吐きながら眺める俺の目に留まった一つの書き込み。


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プログラム解析したら最序盤の負けイベントの裏にルートらしきものを発見。 

よくわからないが、改造してもそのルートにはどうしてもいけない。

だれかあのイベント突破してくれ

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「負けイベントってあれか…」


 剣也が思い浮かべるのは最序盤で1VS100とかいう無茶苦茶なイベント。

スレ民達の反応も冷ややかなものであれを突破できる人がいるとは思えない。


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無理だろ…、あんなの突破できるとしたら日本チャンプぐらい?

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そもそも勝てるようにできてないだろ。日本チャンプでも無理。

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 その書き込みを見て俺は指が止まる。


「俺なら……か…」


 まるで俺に言われているような気がした。

しかし頭を振って乾いた笑いで否定する。


「はは、無理だろあんな糞イベント……」


 剣也はコントローラーとVRヘッドセットを見つめる。

思い浮かべるのはガチ恋してしまった二次元嫁達の最後。


 無意識に手を伸ばす。


「でももしあの先に二人とのハーレムルートがあるのなら……」


 剣也はにやりと笑う。

彼の癖だ、難易度の高いものに挑戦するときの癖。

辛いときにこそ笑う。


 決してドMとかではない、多分。

ただ難易度の高いミッションをクリアするのが好きなだけ。

だから、握りしめるのはKOG専用の両腕につける形のコントローラー。


 思い浮かべるのは二人のヒロイン達との幸せな未来。

ならばやることは決まっている。


「みせてやるか! 日本チャンプの力ってやつを!」

 

 俺はそのイベントへと時間を戻す。


 気合を入れてイベントを開始する。


「救ってやるぜ! かぐや、レイナ!」


~半日後。


「無理無理無理!」


 100回目のチャレンジの末コントローラーを投げ出した。


「こんな糞げー勝てるわけないだろ!」


 しばらく放心して天を見上げる。

本来1VS2でも難しい。

想像してほしい格ゲーで1VS2をするところを。

相当な実力差がなければ無理だろ。

それが1VS100、もちろん一度に闘うのは1VS5ぐらいだが。


 何度やっても10体倒すあたりで力尽きる。

普通の人なら諦める。


 でも剣也はまたコントローラーを握る。


「はぁ……まるで最初のランクでサブ垢にボコボコにされた時のような気分だな。でも……」


 糞げーと言いながらまた手に取ってしまう。

二度とやるかと言いながらまた手で握ってしまう。


 まるで電子ドラッグだ。

中毒だ、わかっていてもやめられない。


 だって。


「楽しいんだよな!」


~あれから二か月。


 その時はやってきた。

ひげも伸びて高校生というにはフレッシュさも無くなってきた。


 あれから何度も挑戦した。

敵のアルゴリズムも解析した。

紙に書き出し何度も作戦も練った。


 1VS100。

本来戦いにすらならない不可能で圧倒的な戦力差。

それでも唯一のアドバンテージは無限の挑戦権。

諦めない、その一点のみが彼の武器。


 それを駆使して何度も何度も挑戦し、か細い糸を手繰り寄せる。

超人的な反射神経と、青春を捧げた操作技術。


「やれる! やれる! これで…90!」


 90体目、残り10体。

仮想の世界で、剣也は集中の極限へ。


「かぐや! ツンが多すぎるぞ! 早くデレろぉぉ!」


 91,92,93…。


「レイナ! クールキャラがデレるのは大好物だぁぁ! 俺のために笑ってくれ!」


 94,95,96…。


「二人ともが生き残る道があるなら……」


 97,98,99…。


「俺はそれを見てみたい!」


 100!!

最後の一体を倒して爆発四散する敵キャラのKOG。


「倒した……やった…やったぁぁ!!」


 剣也はガッツポーズをする。

長かった、千? 万? いやもっと?

朝から晩まで毎日ずっとやっていた気がする。


 不可能とすら感じたクエスト。

しかし遂に剣也は乗り越えた、二人への想いだけで。


 するとVR世界でKOGに乗る剣也の前にメッセージが現れる。


『Congratulations on a fantastic victory!!』


「素晴らしい勝利をおめでとう…?」


 直後メッセージが切り替わる。


『NEWルートが解放されました、挑戦しますか?』


▶はい

 いいえ


 それを見た俺は叫びをあげる。


「きたぁぁ!!」

 

 迷わず俺は『はい』を押した。

そして物語は始まった。


 ただのゲームがうまいだけの社会不適合者の高校生の物語。

彼の物語はここで新しいルートへと切り替わる。

世界が変われば英雄になれたかもしれない高校生の物語へと。


『Good Luck!』


 そのメッセージと共に剣也の視界は暗転した。



「ん?」


 直後ぼんやりとした視界が徐々に鮮明になっていく。

明るくなったと思ったらそこは見慣れた部屋。


 つまりは自宅にいた。


「なんだ?」


 剣也は自宅にいた。

しかし違和感がある、少しばかり見知った自宅とは違うから。


「あれ? いつの間にヘッドセットとったっけ? ってかないぞ?」


 あたりを見渡してもVRヘッドセットがない。


 そして机の上には見慣れない封筒。

見たこともないマークで封をされている。


 剣也は無意識に手に取って中を開く。


「入学証明書……2級アースガルズ帝国民 御剣剣也殿? なんだ? これ」


 直後飛行機のような轟音がなる。

何事かと窓を開けて外を見る。

そこには見慣れた東京の風景などない、変わりに異質なまるで軍事基地のような光景が広がっていた。


 その光景も理解はできないが、そこにはもっと信じられないものがいた。


「はぁ?」


 剣也は思わず声が出る。

あり得ないと、空いた口が塞がらない。


 何度も頭を確かめるがヘッドセットはついていない。

頬をつねるが痛みはある。


 ならばこれは現実なのか。

夢なのか? わからない。


 しかしそこにあるのが何なのかだけはわかる。

剣也の視線の先、そこには6メートルほどの黒い巨人。


 何度も乗りこなしてきたあのロボット。

その名前の由来通りに、巨人の騎士つまりは。


「KOG?」


 巨人の騎士。

つまり『Knight of the Giant』が立っていた。


「嘘だろ……なにがおきてる…」


 恋焦がれた世界。

夢にまで見たあの世界。

叶わないとわかっていた憧れた世界。


 もしも。

もしも本当に憧れた世界に来てしまったら。


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