第17話 戻った場所
戻る過去 2010年 5月27日 19時
戻る未来 2010年 6月18日 22時
ちょうど明日は土曜日だ。何かあっても学校は休みだし、何もなくても休みだし、普通に目覚まし時計をかけて寝るだけのことだ。何も深く考えるのはよそうと、明絵は時計をセットし、両端のボタンを同時に押してベットに入った。梅雨の合間の晴れた夜、鬱陶しいほどの暑さを感じた夜のことだった。
「いよいよだね、五組が出発始めたみたい」
「え?」
「え、じゃないよ。明絵ってば何ぼんやりしてるのよ」
「ああ、ごめんごめん。なんかドキドキしちゃって」
「そんな怖がることないよ。五組の子に聞いちゃったんだけど、お化けアイテムは笑えるものばかりだって」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ楽しめばいいね」
嘘だ……嘘でしょ?まさか本当にここに戻れたってこと?
明絵は自分の居場所を確かめるように辺りを見渡した。鬱蒼とした森林の中に、ぽっかり空いた空間。その真ん中には何かを燃やした後だとわかる、煤で黒くなった土。全てつい最近見たのと同じ光景だ。
戻ってる。戻ってるんだ。肝試しの夜に。
遠くから「きゃーっ」という声が聞こえた。ああそうだ、この声が聞こえて、自分にもあんな声が出るだろうかと思ったんだ。「怖そう」「私、大丈夫かな」「肝試しなんて誰が決めたのよ」周りからそんな言葉が聞こえ、そうそうそうだったと、いよいよ自分たちの順番が近づいている、やり直せる時間がやってくると、胸がドキドキし始めた。
「だいたいさ、俺らがいたのと同じような場所にお化けがいるよな。だから楽勝だよな」
出発点である広場に戻ってきたお化け役たちが、前に聞いたのと同じ
里沙と潤が出発した。確かこのあと真生君に、「こういうの平気?」って聞いたはずだ。だから、聞かないでおこう。自分が怖いと思っていると印象付けないようにしなくては。
「行こう」
真生君の言葉に頷くと、真生君の半歩後ろを行くように続いた。
しばらく続く直線を行くと、闇の中からザザッと音がした。「ワッ」としてビクッとはなったが、その辺に誰かいて音を出したのだろうと思った瞬間、手に温もりを感じた。
「杉尾君?」
「大丈夫だよ。こんなの怖くないさ。大丈夫だから」
なんでぇ~~~?思わず、心がそう叫んだ。
「うん、大丈夫だよ、ありがとう」
そう言って、そっと手を抜こうとした。
「繋いでるの嫌?」
「嫌じゃないけど……」
「誰にも言わないでくれる?」
「え?何を?」
「あのさ、俺さ……恥ずかしいんだけど、こういうのかなり苦手でさ……子供の頃、母さんの実家で夜祭りの時に山で迷子になったんだ。その時、真っ暗で、祭りの灯りの方に行こうとしてるのに、なぜかどんどん灯りから離れちゃって、怖くて怖くて、闇の中で何か飛び出してきて、動物だと思うけどそれに当たって、怖くて走って走って……一人で真っ暗な夜そこにずっといて……だから」
「大丈夫だよ。誰にも言わないし、私が怖がってることにするよ。杉尾君、ちゃんと私の手を握ってて」
ガサッ……
「キャ――――ッ」
これでは何も変わらないではないか。その辺にいる五組の誰かが二人がずっと手を繋いでいただとか、明絵が叫んで真生に縋りついただとか、同じことをまた同じように言われ、あざといと思われた私はまた一人ぼっちになる。でも、真生君にこんなことを話されたら、他にどうしようもない。真生君の気持ち、わかるから……これで、いっか。怖かったのは私だ。
帰りのバスの中、すでによそよそしく感じていた里沙と優美の無言の空気を感じながら、明絵は目を閉じた。どこにも、居場所がない。そう感じながら。
2010年 6月18日 22時
ベットの中で、脳に重く叩く音がして目覚めた。ボーっとする頭の中で、あれ?バスに乗ってなかったっけ?と、夢でも見てたのかと思った瞬間、あっ!と思い、重い頭を持ち上げて立ち上がると、勉強机の上にある生活帳を開いた。
「戻ってきたんだ……でも、なんにも変わってないや」
なんでこんなに頭が重いのだろう。過去に戻ってくるって、こんなに負荷がかかるってことかな。何も変わらなくて、何の意味もなかったことなのに。明絵は重みを感じた右手を持ち上げると、時計が目に入った。ああ、持ったままだったんだ。こんなものっ……そう思って床に投げつけようとして、取扱説明書の言葉を思い出した。そうだ、これ、あと二回使えるんだ。
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