第14話 肝試し2

 明絵は真生と二人でペアを組んでの肝試しということで、その日のことを考えるだけで、胸の鼓動が大きくなっていた。そんな時、昼休みの喧騒の中で男子数人の話声の中に聞こえた言葉が明絵の耳を捕らえた。


「肝試しで怖がる女子にいいとこ見せないとな。ああいうの怖がる女の子って、なんか可愛いよな」


 怖がる女子は可愛い……


 その言葉で明絵は、そうか怖がって見せればいいんだ。真生に怖がってる女子をリードさせて、強い男をアピールさせる。そういうのがいいのかもしれない。そう思った。


 そんな時、ちょうどテレビ番組で『廃墟ホテルをゆく』という心霊番組があることを聞きつけ、たいして興味もなかったが何か肝試しの参考になるかと思い観てみた。


 すると、その番組内で可愛いアイドルの子が怖がって泣き出したのだ。それを見た一緒に肝試しをしていた人気お笑い芸人がアイドルを庇うように自分が前に立ち、護るようにする仕草が映し出され、明絵はそれを見て、やはりそうか、こんなふうにすればいいんだと怖くて泣きだす自分と護ってくれる真生を思い浮かべた。

 

 山の中の、暗く足元も舗装されているわけではない山道を歩く、そのこと自体は足元さえ気をつければたいして危険でもないだろう。肝試しとはいえ、それは暗い場所だから怖く感じるだけで、本当にお化けが出るわけでもなく、五組のお化け役が驚かすことがわかっているのでたいして怖くはない。が、それを怖がって涙を見せなければならないのだ。これは明絵にとって、結構難しい。出るだろうか、涙は。そして真生の背へ回り、「きゃ~っ、怖~いっ」と、なんなら真生の腕など掴んでみせなければらない。明絵は自分にそんな芸当ができるだろうかと、その様子を思い浮かべながら波立つ鼓動と闘っていた。


 そして、キャンプの班を決めたことで六人でいる時間が増え、女子三人でいる時間はさらに増え、いつも一緒にいる友だちにまだ恵まれていなかった明絵にとって、いつも一緒にいる女子友だちができ、クラス替え後の中学校生活も、ようやく楽しいものになりつつあった。



 そしてキャンプ二日目の夜、いよいよ肝試しの時間が来た。


 二組と五組の実行委員のジャンケンで、五組が先に肝試しをすることが既に決まっており、出発地点となる前夜にキャンプファイヤーをやった広場で、二人ずつ出発する五組の人たちを見送りながら、いくつも聞こえてくる「きゃーっ」という声で、自分にもあんな声が出るだろうかと、「怖そう」「私、大丈夫かな」「肝試しなんて誰が決めたのよ」などと口々に言うクラスメイトに同調していた。


 そして五組最後の二人が出発して五組全員がゴールすると同時に、お化け役をやった二組の男子が続々と出発地点にやってきた。


「だいたいさ、俺らがいたのと同じような場所にお化けがいるよな。だから楽勝だよな」


 そんなことを口々に言っていて、先にお化け役をやった男子にキャンプ場の地図を差し出して、それぞれどの辺りでお化けをやったのかを女子たちが聞き出していた。そこには里沙もいて、出発前に明絵にお化けがいると思われる場所をこそっと耳打ちしてくれた。


 一班から出発して行ったため、明絵の五班の番が来た頃には、そこに残っている人数の方が少ないくらいで、出発時点での喧騒は掻き消え、その静けさの方が怖さを感じるほどだった。そしてくじ引きで班の最後の出発になった真生と明絵は、二人連れ立ってすでに姿の見えなくなった里沙と潤を追った。


「杉尾君、こういうの平気?」


「平気だよ。ただ暗いだけじゃん。お化け役が出てきてビックリすることはあっても怖くはないよ。竹原は?」


「私、こういうの苦手なんだよね。ちょっと無理かも……ね、ここ持ってていい?」


 そう言って、明絵は真生のTシャツの裾を掴んだ。たぶん、こういうのが可愛い女の子なんだろうと考えてのことだ。


「いいけどさぁ、伸びちゃうかもしれないし、これでよくない?」


 そう言った真生の手が明絵の手を掴んだ。


「えっ?」


「嫌?」


「嫌じゃないけど、いいの?」


「なんで?」


「女子と手を繋ぐって、嫌かと思って」


「嫌じゃないよ。誰も見てないじゃん」


 そんな会話をしながらも、明絵の顔は体温が一気に何度も上がったようにカッカと熱くなっていて、それと同時に心臓の鼓動も跳ね上がり、真生と繋がった手が汗ばんで小刻みに震えていた。それに気づいてか、それを怖がっていると思ったのか、真生は強く握り返し「大丈夫だよ」と歩を進めた。

 

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