第13話 真剣勝負とその後

 周りを野次馬に囲まれた地下訓練場。

 その中央にハラダとハンセン、ガルズとウィッチの四人が立っている。その中でまずハンセンが口を開いた。


「いいか、ガルズ。私は今回死人が出ないようにする為だけに動く。その為には戦いに途中介入もするぞ? いいな!」


「へっ、そうやって、お師匠様の助太刀の大義名分にするつもりか? いいだろう、存分に手助けしろよ」


 右手を顔の横で『フルフル』と軽く振り、明らかに馬鹿にするガルズ。


「違う。お前の助太刀だ。お前とは一度試合したからな強さはわかっている。お前の攻撃が師匠に当たることは無いと断言する」


「おいおい、そりゃ俺を舐めすぎだ。一発ぐらいは当たるだろうよ」


 ハンセンのあまりの言いように、さすがにあきれるガルズ。ハラダの様子を確認するが、自然体のハラダはどう見ても強そうには見えない。


「いや無い。大体、真剣勝負ってなんだ!? 回復師一人で何が出来る? 死人が出るぞ!」


「それは、このウィッチがいれば大丈夫だ。何せ、元、王宮次席回復師だぜ? すぐさま治療できるこの狭い訓練場なら、身体の欠損まで直せるさ」


 その言葉にハンセンの目が光る。


「ほう? それは、魔力無しの人間も治せるのか?」


「そりゃ無理だろ? 魔力無しの人間は魔法が効かねえ。回復魔法も魔法だからな出来ねえよ……って待て!? もしかしてハラダは魔力無しなのか?」


 ちょっと予想しなかった展開に、ガルズが焦る。


「そうだ、お前の攻撃がまともに当たれば魔力無しの人間は死ぬな? ギルドマスターも普通ならこんな勝負はさせないが、黙認しているんだぞ? その意味はわかるだろう?」


「ギルマスもハラダが負けるとは思ってない訳か。それどころか勝負にすらならず俺が即死するのを防ぐ為、ハンセンをつけたと」


 ハンセンの言葉を裏付けるギルドマスターの対応に、ガルズの額に脂汗がにじむ。


「そういうことだ。とにかくお前は師匠を舐めずに始めから全力で行け! そうしないと師匠の防御動作だけでもお前が死にかねん」


「何なんだよそれは! 俺は魔王に挑むのか!?」


 今まで強気だったガルズが、その言葉に初めて怖気づいた。


「そう思っても間違いじゃ無い。最終警告だガルズ、今からでも間に合う真剣勝負はやめておけ」


「いまさら引っ込められねえんだ! 俺にも誇りはあるからな」


 ハンセンの警告に、悲壮な表情で吼えるガルズ。


「わかった。じゃあもう何も言わんが、死ぬなよ」


 ハンセンが説得を諦めて審判の位置につくと、ガルズの側にいたウィッチも訓練場の端に控える。そして、ハラダもガルズも武器を構えた。


「では、両者始め!」


 ハンセンが両者を見て、準備が出来たことを確認し勝負開始を告げた。


「ウオッシャアッ」



 ガルズが開始と同時に、大きく前に踏み込み大剣を振り下ろす。

 しかし、ハラダは体をズラし紙一重で避けるとガルズの踏み出した足に槍の口金部分で打撃を与えた。


「グワッ」


 足を払われたガルズは、後ろに仰け反り何とか耐える。

 ハラダは流れるように槍を回し、そのまま石突きで腹を突いた。


「グホゥッ」


 ガルズは棒立ちの状態だ。

 その隙を逃さない、ハラダの連撃が始まった。

 まず、そのまま振りあげた石突きでの肩口への振り下ろし。


「ガッ」


 そして、反対側横腹を横から振りぬく打撃。


「グフウゥ」


 そのままガルズのつま先を石突きで突き刺し、空中に飛び上がり背後を取る。


「ギャアッ」


 ガルズは何とか後ろに攻撃しようとするが足が動かず、上体だけ捻った形で剣を無理やり振る。


ギインッ


「ガッ」


 ハラダはその剣を槍の穂先で弾き飛ばし、がら空きになったガルズの脇に石突きで強い突きを入れた。


「ウゥッッ……」


ガランッ


 ガルズが崩れ落ちると同時に、空中に舞っていた大剣が床に落ちた。


「勝負あり! 勝者ハラダ!」


 ハンセンの声と同時にウィッチがガルズに駆け寄った。

 時間は十数える程、野次馬の声援も無いまま、あっけなく勝負はついたのであった。


******


 二刻後。

 ギルド軽食堂で<水の剣>と同席する<竜の咆哮>の姿がある。


「今まで、すまなかった。以後、交渉内容までは文句を言わねえから許してくれ」


 ガルズの謝罪に<水の剣>の三人が返答する。


「まあ、いいですよ。ガルズさんの言っていることは極端だけど、方向性は間違いじゃないしね」


「うんそうだな。俺らも死にかけて倒したオークを、ベテランに素材横取りされたら許せないからね」


「そうそう、共同戦線だとか言って、まったく戦わずに倒した後、『報酬山分けだ』なんて言ってくる奴を許せないのと同じだよ」


 三人ともガルズを許す方向で話は進んでいるようだ。



「おう、安心したぜ。じゃあ、許してもらったってことでちょっと質問なんだが、あのハラダさんって何者なんだ?」


 ガルズが突然話を替えた。


「もう、終わりかよ? 謝罪短すぎませんかリーダー」


 ヤットが、ガルズに突っ込む。


「結構ネチネチ苛めてたからね。アンタ達も、そんなすぐ許さなくてもいいんだよ?」


 ライアが、リーム達にアドバイスする。


「まあ、私はどっちでも良いかな。リーダーは変わらんよ」


 ウィッチは我関せずだ。


「オメェら、ちょっとぐらい俺の味方しろよ! 謝って許してもらったんだから。違う話してもいいじゃないか」


 ガルズは孤立感から、メンバーに文句をいう。


「まあまあ、皆さん落ち着いて。確かに謝ってもらって許しましたからね、別にいいですよ。それにハラダさんの話は、興味ありますし」


「そうだね、俺もその話は他の人と話してみたかったんだ、何か知っていること無いのかなって」


「うん、僕も知りたい」


 リームの言葉にトーマスもピートも乗った。

 それを聞いたガルズがドカッと椅子に腰を下ろし、場を仕切ろうと口を開いた。


「おう、じゃあ皆、知っていること挙げていくぞ。まずは俺からだな。ハラダは強い、俺が手も足も出んほどにな」


「なんだそれ! そんなの皆知ってる。情報でもなんでもないぞ」


 ガルズの情報に、ヤットが文句をいう。


「なんだよ? じゃあお前、俺より情報持ってんのか?」


「おう、ビビルなよ。ハラダはなあ、雑貨屋のルネと出来てんだ。ルネが言ってたよ『ハラダのケツ触った』ってな」


「ヤット! なに話してんの!? 色恋の話じゃないよ。だいたいそれは、ルネが勝手に言いふらしてるだけで、実のところはルネが勝手に尻を叩きに行っただけでしょ!」


「ライア良く知ってるじゃねえか? 情報元は誰だ?」


 ガルズがライアに信憑性を問う。


「娘のルナだよ。私はあの子とはよく話すからね」


「ああ、その情報源は堅いわね。間違いなさそうだわ。でも、皆そんな情報を望んでるわけじゃないでしょう?」


 リームが話に割り込んだ。


「おおっ、何かあるのか!」


 ガルズが前に身をのり出した。


「ハラダさんはねえ、朝に川の中洲で、ハンセンさんに槍の稽古をつけてるのよ。それはもうすごいんだから!」


 リームは得意満面だ。


「ほう! どう凄いんだ?」


「えっ……それは、何かを柔らかく使って何か速くするらしいです……」


 ヤットに突っ込まれ、尻すぼみになるリーム。


「カ~ッなんだよもう! 何もわかんないじゃないか!」


 ヤットが額に手をあてて天を仰ぐ。


「ええと、僕が知ってるのは。『コメ』という食べ物を探していることかな」


「『コメ』?」


「うん! 聖竜列島の特産で『ライス』って呼ばれてるらしいんだけど」


「ああ、『ライス』か。確かに聖竜列島の特産だな」


 ウィッチがつぶやく。


「へっ? ウィッチさん知ってるの?」


 トーマスが驚いて、ウィッチを見る。


「聖竜列島は俺の故郷だからな。毎日食べてたから知ってるさ、まあ、二度と食べることもないだろうが……」


「え、なんで? 『コメ』の情報持って行ったらハラダさん喜ぶよ! 何か教えてあげれないの?」


 ピートがウィッチにお願いする。


「いや、こいつは事情があって家には……と、いうか国に帰れないんだよ。察してやってくれ」


 黙り込むウィッチに替わり、ガルズが理由を説明した。


「そうなんだ……ゴメンね、ウィッチさん」


「いやいい、気にするな。それより、これで一つ仮説を立てられたな。ハラダは聖竜列島の関係者かも知れん」


「ああ、なるほど! 聖竜列島の特産物を知っているんだからね。そうかも!」


 ウィッチの言葉にリームは納得した。


「……でもな、それくらいだろ? 大したことはわかってねえし、ミステリアスな奴だよな」


「あんなに強いのにね。ここに来るまで、噂にならなかったなんて信じられないわ」


 ウィッチの言葉に、ライアが呆れたようにつぶやく。

 皆が同意したように黙り込む。そんな沈黙をピートが破った。


「あ! もしかして突然、異世界からやってきたとか?」


 他の皆は顔を見合わせた、そして間が空き、次に皆一斉に言い返す。


「「「そんな訳ないだろ!!!」」」


 皆に、言い返されたピートは一人心の中で反論した。

 

(そうだと思うんだけどなあ~)


 ピートは本気で、そう考えていた。



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