転生から始まる愛と世界征服
@THIS
プロローグ
「生きたいか?」
何も見えない世界。その中で聞こえてきたのは女性の声だった。
「お主は生きたいか?」
暗闇で何も見えない中、倒れた彼の上に現れたのは一冊の本であった。
それは黄金の本。
頑丈な鉄の門のごとき厚みと小窓ほどの大きさの表紙をもつ大きな本であった。
黄金の本が発光とともに声をかける。
「お主は死のうとしている」
男は思い出していた。天変地異としか言えないほどの大嵐の中、彼は必死で何かのもとに向かおうとしていたのだ。
己の身の危険を顧みないほどの何かのために。
そんな彼のもとに襲い掛かる雷。そして地震による崩落。さらには洪水である。
再び意識を取り戻した時には暗闇の中にいたのだ。
わかっているのはまだ生きているのが信じられないくらいの状態。なんの慰みにもならない儚い奇跡。
肌で感じる水の流れがそれを教えてくれる。
「しね・・・ない」
彼は願う。
すでに何のために必死になっていたのか思い出せる状態でなかった。
それでも死ねないという強い意志だけが残っていたのだ。
その意志に応えるように黄金の本が開かれる。
現れたのは美しい黄金のドラゴン。黄金のオーブを手にし、鼻先と頭の後ろに角のある黄金のドラゴンであった。
「なら試しの時を始めようか。お主が妾と契約に足る存在かどうか・・・」
黄金竜の問いに対する答えは、彼女が出てきた黄金の書が輝き、その男の体もまた黄金もまた輝いたことである。
「そうか・・・試すまでもなかったか。この書に封印されてどれだけの時が立ったのか分からぬ。無限といえるこの書の中をさまよった日々じゃったが…それも終わりか」
相当さまよったのだろう。疲れた様子を見せていた。
「瀕死であることが最大の問題じゃのう・・・良い呪文があればいいのじゃが・・・ええい、無駄に破壊力の高い術式ばかりでてきおって」
黄金集が書の周りに浮かび上がるようにして現れたいくつもの画面を見ながら考え込む
その画面の一つが男の目の前に現れる。
―――――マスター権限、確認しました。
その画面にはそのように表示されていたのだ。それに気づき、理解するのに
「転生術式」
その名を呼ぶと、画面に浮かび上がるのは転生術式の文字である。
「・・・これはたしかブラックボックスに入っていた謎の呪文?興味深くてずっと解析、改良していたのじゃが・・・まさかの転生術とは。本当に存在していたのじゃな」
男はそれが初めからあることを知っているかのように見つけ。発動させようとしていたのだ。
「まさか、こやつ、使ったことがあるのか?秘奥にして、秘術、至宝であるこの術を」
術のプロテクトが次々と解かれていく。彼の周りに展開する幾重もの術式。
「はつ・・・どう・・・」
その術が光とともに発動される秘術。
それとともに周囲が揺れる。彼が生きていた空間が崩れ落ちようとしていたのだ。
「・・・どれ、妾も付き合うことにしようか。わからぬことばかりじゃが、聞くこともできんからな。まあ、今転生しても、このありさまじゃ。なら、妾がお主を守ってやるしかないか」
黄金竜は黄金の光となり、新生しようとしている男の体を術式と一緒に包み込む。
まるで光の繭のようであった。それを大量の土砂が飲み込んでいく。
「また来世で会おう契約者よ。それまで妾も眠ることにしよう」
とある山林、そこに双子の女の子が走っていた。
もう一人の女の子とともにだ。
そのあとを追うのは双子の女の子よりもいくらか年上の女の子二人と四人の大人である。
「ちょっと陽菜!!月菜!!風花!!待ちなさい!!」
それでも三人は走り続ける。
必死でだ。
三人がついたのはとある山の中にある洞穴である。
「…二人とも、ここだよね?」
風花が確認をとる。
二人はそろって頷く。
「なら・・・いこう!!」
彼女たちはそろって確認し合うと、その中に入っていく。
すごい勢いで走る三人。
そのあとを追いかけた六人。
大人四人はその洞窟の不自然さに気づく。
あまりに綺麗すぎたからだ。土そのものを岩のように圧縮したかのような洞窟。神殿のようにさえ思えたのだ。
誰かが意図的に作り出した。そう思えて仕方ない。
奥に行くとさらに衝撃的な光景と出会うことになった。
それは光る繭のようなものである。
「なるほど…これに呼ばれたわけか」
その繭は淡く光っていた。
その繭に二人がためらいもなく手を伸ばしたのだ。
そのあとに風花も続く。彼女たちもそれぞれ手を伸ばしたのだ。
三人とも両手をだ。
大人たちが驚き、それを止めようとして・・・三人の手に触れた繭が光となって消滅してしまった。
繭の中にいたのは・・・三人と同じくらいの年の男の子であった。
ぶかぶかのスーツを着ているという違和感があるのだが。
皆がその光景に驚く中、大人たちがその男の子を抱き上げた。
大人たちにもその光が降り注ぎ、その体が微かに光っていた。
気づけば白一色だった。
男の子が目覚め、最初に見た色。病院の天井の色である。
視線を移すと自分の腕についている点滴。そして、壁を透かして見るとそこには様々な患者や白衣を着た医者、看護師たちがいるのが見えたのだ。
「ここは・・・病院なのか?」
彼はすぐに自身がどこにいるのか察する。
「どうして病院なんかに・・・」
状況を思い出そうとして・・・彼は気づいてしまう。
「・・・あれ?」
彼自身の記憶までもが病院の天井のごとく真っ白であることに。
「思い出せない。何も・・・」
戸惑う彼。
「私は、誰だ?」
名前すら思い出せないのだ。無理もない話だろう。
戸惑う彼がいる病室に飛び込んでくる二人がいた。
「あっ、起きてる!」
「具合はどう?」
それは双子の女の子――陽菜と月菜であった。
そのあとからやってくるのは風花である。
三人の女の子たちは彼にあれこれ聞こうとして知ってしまった。
「何も覚えていない」
彼がすべてを失っていることに。
自分自身の大切な記憶もだ。
「残っているのは死ねない。生きて…何かをなさないといけないという気持ちだけ」
なんとしても生きないといけないという強い意志だけであった。
その話を聞き、言葉を失うのはいつの間にか部屋に入っていた大人たち。
だが、三人は違った。
「また思い出せるよ。大丈夫だから」
太陽のような明るい娘。陽菜が明るく言う。
「うん・・・きっと。私たちも手伝うから」
「手伝います」
月のような優しい娘、月菜は手を差し伸べる。
「だから明るくいこうよ、まずは体を休めてからだよ?」
風のように軽やかで自由な風花の言葉が和ませる。
「・・・ありがとう」
その言葉に彼は救われることになる。三人の女の子たちにだ。
のちに彼は陽菜と月菜の家に引き取られ、星矢と名付けられることになる。
彼――星矢はひそかに決意していた。
自分を救ってくれた三人を大切にすると。
現実は無常である。
そこから六年の年月が流れ、それを知ることになる。
世界の破滅の危機。
全世界で自然が猛威を振るっていた。
大地は震え、天は鳴く。山が火を噴き、海は荒れ狂った。
天変地異と呼ばれる惨状には怪物がいた。
自然の猛威の化身といえる怪物、それがあちこちに災厄を振りまいていたのだ。
怪物たちを率いるのは山羊頭の頭骨を被った怪物だった。
カラスの羽を幾重にも編み合わせたような黒いローブを身に纏い、首には眼玉のような宝石がついたネックレスを付けた人型の怪物。
世界が天変地異で混乱する様を、周りに展開させた幾重もの映像で眺める彼。
「世界よ…恐れおののくがいい。お前たちは学ばなかった。幾重の時も争い、だまし合い、奪い合ってばかりだ。その世界を再び終わらせてくれる」
それは滅亡宣言。
「我が名は魔王クライム。お前たちを滅ぼしつくす者の名を覚えておくがいい」
魔王――クライムは足元にいる生体反応に気づき視線を向ける。
そこには一組の少年と少女がいたのだ。
「生き残りがいたか」
そう告げ、手をかざし、光を放とうとして、やめてしまった。
二人は恐怖で震える体で互いを抱きしめ合い、支え合いながら必死に逃げていたのだ。
怖いはずなのに、互いに互いを補って必死で生きようとする姿にクライムは言葉を失う。
「・・・わかっておるわ。お前たちには罪がないことくらい」
人は悪意だけではないと彼は知っていた。
「だが・・・このままではあいつを失った時と何も変わらない・・・」
魔王は手に集めた光を別の方へと向けて放つ。
放たれた光とぶつかるのは炎の矢。二つは相殺される。
「・・・お前たちも諦めが悪い」
炎の矢を放った相手は山の上にいた。
「言ったはずだよ。諦めないって」
そこにいたのは一人の少女――陽菜である。あちこち細かい怪我をしているがその目はまだ死んでいなかった。
山の上で陽菜はクライムを見上げる形で対峙する。
「・・・お前の妹は自分が預かっている。支配権を奪った上でだ。だが、それでいいのか?」
クライムの側に現れるのは月菜である。その瞳から正気の光は消えている。
「・・・其れでも救うって決めた。私の・・・たった一人の大切な半身だから!!」
「そうか・・・覚悟を決めたか。天晴なことよ。自分と戦うには十分すぎる理由か」
「世界を救う・・・それもついでにできる」
世界を救うことがついでと言い切る陽菜。
「世界を救うのも、月菜を救うのも手段は同じ・・・お前を倒すことだ!!」
「・・・ほう、あいつらと同じことを言って・・・ん?」
関心した様子のクライムは陽菜の側に何時の間にか立っている者に気づく。
陽菜の隣にいた高校生くらいの少女がまっすぐクライムを見上げる。
「世界っていうものは変えていくものよ。滅ぼすものじゃない」
真っ直ぐな瞳でクライムを見上げる。
「全て決められた道に、ずっと反発していたのが馬鹿らしいわ。いくらでも自分で面白くできるものなのにずっと気づけなかったから。それを父様と母様に伝えることができなかった」
「海花・・・さん」
見上げながら涙をこぼす少女――海花に言葉を失う陽菜。
「だから、もう後悔はしたくない。それだけなの!!」
苦し気に海花と月菜を見る陽菜。
それに気づいた海花は優しくその頭をなでる。
「安心して。全部飲み込めたから」
その力強い笑顔に今度は陽菜が涙をこぼす番であった。
「・・・その子を離しなさい。私の妹達の・・・大切な親友だから!!」
クライムは涙を流しながら力強く言い切った海花に驚く。
簡単には立ち上がれないことがあったのだ。その出来事から短い時間で海花は立ち上がってきたのだから。
他二人の高校生男子も海花に続く。
一人は獅子の鬣のような髪をしたやんちゃそうな少年――玲央である。
「世界っていうのは簡単に終わらねえし、終わらせはいけねえ。怪我で野球ができなくなってたとえ絶望しか見えなくても、どこかに希望や、新しい夢が転がっているもんだ。馬鹿やってともに笑い合い、支え合っているやつらもいる!!」
玲央はクラインをにらみつけて言う。
「壊させはしねえぜ。絶対に!!」
吠える玲央の隣でもう一人の生真面目そうな少年――進も続く。
「…確かに人は悪だ。多くの過ちを繰り返し、争ってきた人は愚かだよ。こっちもそれを憎み、ずっと苦しんでいた。どうしようもないことなのかと絶望もしたさ。でもね、それだけじゃない。悪もあれば正義もある。人の考えは様々だ。人の数だけの悪があれば、人の数の正義もある。だからこそ争う。だからこそ・・・分かり合えることの尊さも」
分かり合うことの大切さに目を見開くクライム。彼自身もその大切さを忘れていた。
「人の多様性は可能性だ。それを滅ぼさせはしない!!」
彼ら四人の言葉にクライムはしばし考え・・・
「そうか・・・なら今一度お前たちに問うことにしようか。人の可能性というものに」
彼らが人の希望足る存在と認めた。
「さあ始めよう。試しの時を」
その言葉に四人が叫ぶ。
『上等!!』
四人の後ろに現れる者たちがいる。
陽菜の後ろにはすべての鳥類の美しい部分を集めたかのような赤い炎の鳥。
海花の後ろには美しい鱗と鰭を持つ緑の海龍.
玲央の後ろには力強い四肢を持つ黄の獅子。
進の後ろには角をもつ美しい黒い馬。
彼らは守護神。
太古の昔に生み出され、ずっと世界を見守ってきた守護神たち。
四人のパートナーである。
彼らは守護神と契約を交わした者達。
通称――契約者
『サモン・ザ・ガーディアンズスピリット!!』
守護神の力を鎧として纏い、戦う者。
「煌めくは紅の聖炎――ガーディフェニックス」
「荒れ狂うは翡翠の嵐――ガーディバハムート」
「轟くは大地の黄牙――ガーディレグルス」
「駆けるは天雷の黒角――ガーディスレイプニル」
最後を締めるのはガーディフェニックスとなった陽菜である。
「神の名において世界を護りしもの。我ら・・・」
『ガーディアンズ!!』
名乗りとともに爆発する周囲。それは彼らの力の発露である。
「・・・フェンリル、ウィッチ」
クライムの隣で浮いていた月菜の背後に氷の狼が現れる。
月菜も変身する。氷の狼の力を持つ守護者の姿へと。
彼女の隣には魔女のとんがり帽子をかぶった別の存在もいる。
「来い、エレメンタリアン」
彼がそう告げるとともに、彼の足元の地面から次々と現れる先兵たち。
全身が火、水、風、土の四つのエレメントをそれぞれ凝縮し、人の形のようになった者たち。
エレメンタリアンの名の由来である。
四種類の先兵たちが、彼女たちのいる山を覆いつくし、囲む勢いで現れる。
「まずは我が先兵を潜り抜け、二人のしもべを制してみろ。我と戦うのはそのあとだ」
その言葉とともに最終決戦が始まった。
その激闘をはるか上空で見ている者がいた。
「・・・これはどういうことだ?」
その声には隠し切れないほどの怒りが満ちていたのだ。
「誰だ。・・・このふざけた状況を作り出した馬鹿は?」
彼は巨大な黄金の竜にのっていた。強大でいて、美しさ、気品すら感じる黄金竜は彼のすさまじい怒りに震えていた。
――――――――おっ、おちつけ!!お主の怒りは辛い!
「落ち着いていられるか。こっちは頭が可笑しくなりそうなのを必死におさえているのだぞ?余が少し離れている間に・・・」
彼――星矢は少しの間、陽菜達から離れていた。理由は彼が手にしている黄金の書。それと、彼が乗っている黄金の竜――エキドナにあった。
――――目覚めるタイミングが最悪じゃったか
きっかけは陽菜が古代文明に生まれた守護神――フェニックスと契約をしたことだった。
魔物と呼ばれる謎の存在による事件が起き始めた日々、その魔物から守るために陽菜は覚醒したのだ
契約者、及び守護者として。魔物の脅威に立ち向かう陽菜。
その様子をみて、星矢の記憶も一部戻ったのだ。そのためなのか、怒りが高まると一人称が私から余へと変わるようになっていた。
戻った記憶は己も契約者であること。転生の際に使った黄金の書に、契約した存在――エキドナが封印されていることもだ。
陽菜達のために、エキドナを目覚めさせようと彼は旅立った。
だが、それがあだになったのだ。
それは月菜の契約者としての覚醒と、とある存在による洗脳である。
月菜は洗脳され、大暴れした。その際に、海花と風花の両親、そして実の両親も計画の邪魔になると判断され、洗脳した相手の指示で殺害してしまい、風花には重傷を負わせてしまっていたのだ。
彼女を洗脳した相手は魔王すら復活させ、洗脳した月菜たちを押し付けて姿をくらましている始末である。
「・・・古代文明を滅ぼした魔王――クライムか」
怒りを一度ひっこめ、状況を確認する星矢。
現状やるべきことを理解しているがゆえに。
エキドナからある程度の情報は得ていた。
魔王クライム。古代文明にて最高の守護神として生み出されたが、友である邪眼王バロールを殺され、その怒りで文明を壊滅させ、世界を滅ぼそうとした魔王であること。
「・・・おそらく陽菜が月菜の洗脳を解除する。いくつか術の発動遅延状態で準備」
――――わかった。
「どこのどいつかわからないが、あいつらを苦しめるというのならこっちにも考えがある」
星矢は黄金の書を開き、術式を展開しながら告げる。
「エキドナ、あれの封印を解く」
あれという単語にエキドナは驚いた様子をみせるが・・・同時に納得していた。
―――――確かにあれはそのために作られた。じゃが真の担い手が現れることもなかったことで有名じゃぞ?
「仮でよかったら、陽菜たちがいる。うまくいかぬのならこっちが直接手を下す。その気になれば単独であいつを消滅させることもできるのだからな」
星矢はそう告げながらクライムを見る。
怒りが少し収まり、彼は冷静にクライムを見て気づくことがある。
「・・・だが、できればしたくないとも思っている。あいつにも縁を感じる。お前もそうなのか?」
記憶はない。だが、初対面ではないことだけわかったのだ。
見て感じたのは懐かしいという感情。
エキドナを見て最初に思ったことと同じことをクライムに対しても思った。
「・・・止めないといけないのは間違いないのか」
彼は天を仰ぎながらこの状況を収めるべく動き始めていた。
「・・・次にあいつを見つけたら、この手で握りつぶしてくれる。私――いや、余の至宝に手を出したのだからな」
その奥に大切な人たちを失ってしまった悲しみとそれを月菜にやらせるという悲劇を起こさせた相手に対する怒りを漏らしながらである。
彼は告げる。
――――サモン・ザ・ガーディアンズスピリット
変身の言葉を。
事態は星矢の想定したとおりに動いていた。
洗脳を解除され、倒れる月菜ともう一人の少女。
エレメンタリアンも倒した。そこでクライムとの直接対決に入ったのだが・・・
「・・・流石だ。我にこれを使わせるのだからな」
彼女たちは追い詰められていた。
守護神や魔神は各々が一つは持っている切り札的な技があるのだ。
契約者たちはそれをファイナルアタックと呼び。彼らの場合は契約の関係か、さらに強化された上で、一度の変身で一回しか使えない最強の切り札となっている。
最強の守護神として生み出されたクライムも例外ではない。
彼は戦いの中で自身のファイナルアタックを開帳したのだ。
それは純粋マナを収束させた巨大なエネルギー球。
しかも一つだけではない。クライムの真上でまるで夜空に輝く星々のように無数の純粋マナの収束球が出現している。
自身が手にした巨大な純粋マナの球体。それに付随する同じ大きさを誇る数多の純粋マナのエネルギー球体の群れが彼の切り札の一つだったのだ。
「かつて星降りによって地球生命は大絶滅を経験した。我がその歴史に学び、己の切り札としたものだ」
古代文明を一夜にして壊滅させたクライムの星降り。その正体が彼のファイナルアタック。
空にある球体一つで都市が壊滅するほどの威力である。それが夜空の星のように。それが一斉に降り注ごうとしていた。
「受けてみるがいい・・・そして世界とともに滅べ」
文明を壊滅させた必殺技が陽菜達を襲う。
――――滅びの流星群<スタースコールデストロイヤー>
数多の巨大エネルギー球が陽菜達に向けて落ちてくる。
それを皆覚悟して受けようとして・・・・
「やら・・・せない・・・」
月菜がもう一人の少女とともに全身にエネルギーを纏わせた状態でやってきたのだ。
それはファイナルアタック。
二人はそれ使って陽菜達を護っていたのだ。
だが、そのままではもたないのは明白だった。
クライム自身が使っているファイナルアタックのエネルギーの総量が桁違いすぎるのだ。
無数のエネルギー球が陽菜達に迫り、それが突然消えた。
地面を突き破って現れた一本の剣によって。
「・・・グラーヴィズナの封印が解けただと?」
クライムはとっさにその剣に他の無数の光の球を向けるが、次々に打ち消される。
だが、それでも攻撃を止めない。
「ちぃ、さすがは武神具。使い手がいないとはいえ我の攻撃を防ぐだけの力が・・・」
『いまだ!!』
その隙を見逃さなかったのが月菜ともう一人の少女。
制御が甘くなった巨大な球体を押し返し始めたのだ。
「・・・ありがとう、そしてごめんなさい姉さん。あとは・・・おねがい」
「えっ?」
という月菜の言葉を残して二人は球体を押し返す。
クライムが異変に気付いた時には球体は目前だった。
「なあ・・・」
なすすべもなく己のファイナルアタックが直撃する。
大爆発とともに二人の姿が消え・・・
「・・・あ・・・・ああ・・・・:
爆発の中からはボロボロになったクライムの姿だけしかいなかった。
「おのれ・・・このような手段で反撃にでるとは・・・」
月菜の姿はどこにもいない。それを知った陽菜は・・・
「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
悲痛な悲鳴とともにクライムに向けて飛び上がった。
クライムが唯一恐れていたグラーヴィズナと呼ばれし剣を手に取ってだ。
「ぬおおおおっ?!」
クライムはそれに気づき、まだほかに残っていたエネルギー球を陽菜に向けようとして・・・
天からの黄金の光の稲妻に阻まれたのだ。
「がああっああ!?」
全身を襲うすさまじい衝撃とダメージによろめくクライム。
その目には遥か上空にて浮かぶ黄金の契約者の姿が映った。
「まさか・・・第七の・・・契約者・・・」
彼が放った黄金の稲妻が致命的な隙となり、クライムの体に陽菜が手にした剣が突き刺さる。
陽菜は突き刺したまま地上へと崩れ落ちるように落下していく。
クライムは己の体に突き刺さった剣を見て知る。
「・・・そうか。それがこの世界の答えか・・・我の負けだ」
その結末にどこか満足した様子でクライムはつぶやくと同時に、その身が大爆発を起こし、消滅する。
落下する陽菜を残った仲間たちが必死に受け止める。
だが、陽菜の全身からはすっかり力が抜けている。
「救いたかったのに・・・助けたかったのに・・・」
悲痛な声に皆が痛ましい顔をする。海花は何も言わず抱きしめる。
「・・・あなたはよくやった。私たちこそ・・・ごめんなさい。こんなことしかできないわたしたちを・・・」
「月菜ああああああぁぁぁああああああああああああ!!」
救いたかった大切な半身を失った痛みがあたりに響き渡った。
「ちぃ・・・あの二人の転送位置は!?」
――――すまぬ、クライムの消滅の際の余波でマナが乱れ探知が使えん
「何とか月菜ともう一人もついでだが救ったが・・・肝心なところで詰めを誤った」
星矢は地上に降り立ちながら己の失敗を悔いていた。
彼は月菜たちを救っていた。大爆発の際にあらかじめ待機させていた転送魔法を使い、二人を別の場所へと転送させたのだ。
だが、爆発の中の転送のこともあり、転送場所が分からなくなってしまった。おまけに探知しようにもクライムの崩壊の余波によって生まれた超高密度のマナが邪魔をする。
「・・・ベストでもなければ、ベターとも言えんな。情けないものだ。だからこそ、次にそなえないと。月菜の守護神はステルス能力に長けているから一度見失うと苦労しそう」
彼が地上に降り立った理由は一つ。
側に落ちていたクライムの体の破片と思わしき黒い羽をとる。落ちているすべてを黄金の書を展開させて吸い込んでいく。
「今後のためにクライムの破片と共にグラーヴィズナは手元においておく」
最強の守護神であるクライム。その体の一部と地面に突き刺さった無傷の剣の回収である。
クライムは強大な力とあるとてつもない特殊能力を持ち、その破片を解析してその力を取り込むために回収。
それに剣の回収も重要な意味を持つ。
それはその剣が武神具の一つだからだ。
武神具。それは理不尽という言葉が何よりも似あう古代の超兵器。
その中で最強と名高いのが星矢の目の前にある剣――グラーヴィズナである。
クライムを倒すために作られただけのことはあるのだ。
クライムの欠片の回収後、剣を手に取ろうとして、星矢は地面から何かが出てくるのを感じ、その場を飛びのく。
「・・・槍?」
飛び出してきたのはショートソードくらいの大きさの穂先を持つ槍であった。
グラーヴィズナと勝るとも劣らない力を感じさせる槍。
「これも武神具か・・・ってエキドナ?どうしておびえて・・・」
星矢は黄金の書の中で引きこもり、がたがたをふるえているエキドナにびっくりしていた。
―――――――あっ、あたりまえじゃろ。それは神殺しの魔槍ゲイグニル。原初にして最凶の武神具じゃ・・・
神殺し。その名前とエキドナの怯えた様子からその槍がどういった力を持つものか察した星矢は十分に切り札として使えると判断。
「申し分ない。一緒に回収する」
二つを書の中に収納しようとして・・・黄金の書が光り輝く。
まるで近くに別の何かがあり、呼んでいる様子。
「・・・なんだ?」
その疑問はすぐに答えがでる。
槍の上に銅色の書。剣の上に銀色の書があらわれたのだ。
「・・・エキドナ。この金の書は三つの創世の書の一つと言っていたな?」
――――――察しの通り、残り二つの書が目の前にある。古代文明最高の魔導書、創世の三つの書が勢ぞろいか・・・お主はどういった星の下にいる?
銅が槍、銀が剣を吸い込むようにして収納。
「おいおい、勝手に収納するな。金の書・・・アクセスを」
二つの書と接続し、どうして二つを収納したのか探る星矢。
その理由は元々収納するためのスペースが用意されていたかららしい。
中で封印されているそれぞれの武神具の使い手のために。
「・・・ん?封印されている使い手?」
二つの書がそろって告げる。
――――封印解除の要件・・・保護者足る存在を確認。解除します。
書から出てきたのは・・・少年だった。
銀から出てきたのは、書と同じ銀髪の星矢と同じくらいの歳の少年。
銅から出てきたのは書と同じ銅の色をした髪を持つ少し歳下の少年である。
二つの書からの要請は彼らの保護をお願いしたいというものだったのだ。
そのありえない光景に天を仰ぐ星矢は一言・・・。
「・・・勘弁してくれ」
新たな問題を嘆いたという。
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