第12話 セイレーンの巣を壊滅させてしまったりもする
ざざーん! ざざーん!
にゃーにゃーとカモメのごとき鳥が啼く。
「異世界の海もあまり変わらないか」
カノユキがそこにはいた。ついでにアルテノもいる。
そして、
「やってくれたじゃないかあ、漆黒の」
バネッサたちもやってきていた。
「あたいらを出し抜くとは、ふ、ふふふふふふ」
カノユキは頭にはてなマークを浮かべた。
「はーはっはははははははは。いやあ、あんたも大人しそうな顔をしておいてなかなかのやりてだねえ。断ったふりをして、その後すぐにクラーケン退治のミッション・バトルを受けるとは、恐れ入ったよ!」
「はあ? お前ら何を言っている?」
俺は単に勇者を助けるついでにクエストを受けただけなんだが?
「そもそもミッション・バトル自体が成立していないはずで、お前のはやとち」
「だけど、いい気になるんじゃないよ!」
聞いてないな、これは……。早くもカノユキはまともな思考を破棄することにした。
「ここからはあたいらも本気だ。遅れは取り戻させてもらうよ! なあ、おい、ゴンズ!セバス! さあ、いくよ!」
あいあいさー!
灼熱の旅団の3人は元気よく駆け出した。船を探しに言ったのだろう。
「な、なんかすごいよ。勝負が始まっちゃったみたいだけど……」
「知らん。放っておけ」
「い、いいのかなあ」
「かまわん」
(そもそも、あいつらにかまけている余裕などない)
カノユキは深く思考に沈む。
(今回の敵は……)
俺でも多少戦うことはできるだろう。
だが、放っておけば、勇者たちが死んでしまう。
そうすれば。
この世界は魔王が支配し、ジ・エンド。
バッドエンド直行。
そんな未来を回避できるは自分だけである。
カノユキは海を見る。
風が先程よりも徐々に強くなってきた。遠雷も聞こえる。
「嵐になるかもしれんな……」
「ううーん、ぼえぼえ」
汚物が海へと放流される。
「ううーん、完全に酔ったな」
「ふ、ふひひ」
と女神が尊厳を維持できていない顔で笑いながら、
「もー、かーくんったらなっさけーい!」
などと言っていた。
「いや、お前ほどじゃないが」
ぼえぼえ、と汚物を海にまきちらす女神に言った。
「ぼえぼえ」
カノユキたちは船をチャーターして洋上に出ていた。依頼を受けた冒険者には無料で貸出をしてくれるのだ。
「それにしても」
遠くの空を見る。黒い雲が天を覆っていた。遠雷が静かに、だが存在感をもってゴロゴロと重低音を奏でている。
「……いやな、天気だ」
どこか湿気を含んだ、生暖かい、薄気味わるい風を浴びながらつぶやく。
そして、風に乗って耳に伝わる音楽も、どこか心をざわつかせ……、
「ん?」
音楽?
「し、しまった! これは!?」
カノユキはハッとする。
「おい、お前たち今すぐ耳をふさげ! これはもしかするとッ……!」
が、時すでに遅し。
ぽややーん。ぐーぐー。ふらふら……。くらりくらり……。
「くっ、手遅れか!」
船員たちがいつの間にか目をぐるぐる回していたり、わけの分からないことをブツブツ言ったりしている。明らかに正気を失ってしまっているようだ。
「ど、どーするのかーくん! この船吸い寄せられてるよ!」
「なに!」
船の吸い寄せられている先に、大きな岩場がある。
そこにいたのは。
『海獣セイレーン』
美しい音色と美貌で船乗りたちをおびよせる人型モンスター。
意識を失った人間を誘い、海底へと引きずりこむという。
「……だが、どうして俺たちは無事なんだ?」
全員があの不気味な音楽を聞いたはずだが?
なんでかしら?
「ちっ。そんなこと考えている場合じゃないか」
美しい女たちが音楽を奏でる。形状は人魚。その口からもたらされる音色は蜜のよう。だが、それらが異形のものであることをカノユキは直感する。そんな化け物たちに船は迫る。
「ともかく、このまま海の底に引きずり込まれるわけにはいかない! 行くぞ‼」
「うん‼」
美しいセイレーン。
が、その美貌が……。
ぐちゃり!
カノユキたちが岩場に降り立ち、セイレーンたちに肉薄すると、セイレーンが本性を表す。その美貌は獲物を引きつけるための仮初のもの。
バケモノの容貌を顕現させる。
「くそ、化物どもめ!」
「かーくん、伏せて」
アルテノが風魔法を詠唱する。
「喰らいなさい! ウィンドカッター♡」
なんで「♡」なんだ……。
が、威力は絶大だ。蛇にも似たセイレーンは八つ裂きにされて青色の体液を撒き散らす。
だが。
わら……。わら……。ぞろ……。ぞろ……。
「くそ! 効いてはいるが、数が多い!」
ナイフで切りつけ、追い払いながらカノユキは吐き捨てる。
(海に逃げられると逆に厄介だぞ)
「危ない! かーくん‼」
「え?」
(しまった! 油断したか!)
カノユキは一瞬で状況を悟る。今、カノユキは目の前のセイレーンをナイフで切り伏せた。それは背後ががら空きということ。
悪寒が走る。きっと、このあと自分は背後からセイレーンから恐るべき攻撃を受けるに違いない。
「し、しまっ……!?」
ちゅっどーん‼
………………
…………
……
「は?」
岩場の一角が喪失していた。
爆発は岩場に密集していたセイレーンたちを蹴散らした。
圧倒的な火力に、なんというか場違いな雰囲気が流れる。
けほけほ、と爆風に巻き込まれた女神が咳き込んでいた。
「あーはっはっはっはっはっは」
間抜けな大笑い声が遠くから聞こえてきた。
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