第10話 灼熱の旅団あらわる!

第2章



サラザール王国近郊。青空が広がる穏やかな昼下がり。


ズブシャー‼


血を撒き散らしながらモンスターが倒れる。


「ふん、他愛もない」


サーベルを引き抜きながらその人物は言った。


「よ、さすが姉御」


「姉さんにかなうやつはこの界隈ではもういやしませんぜ」


「くくく、そりゃそうさ」


姉御とか姉さんとか言われた人物はニヤァと笑った。


「あたいにかかればこれくらい造作もないねえ」


「さっすが姉御だぜ!」


「これなら勇者たちだってなんのそのだ!」


「くっくっくっ」


女は笑い、


「世界を救うのはこの灼熱の旅団の仕事さ!」


ばばーん!


と、新しい面白そうなパーティーが、勇者やカノユキたちの近くまで迫っていたのであった。




「ああん? 灼熱の旅団?」


冒険者ギルドのマスター、ピロキは片眉を跳ね上げながら言った。


「ああ、そうさ」


自信たっぷりな様子でバネッサは言った。


歳の頃は20代後半。その割には世間ずれしような雰囲気だ。出るところは出ている。が、体格は大きい。がっしりとしている。女傑といった感じ。


「ふふふ、驚くのも無理はないねえ。この超有名なパーティーが現れたってんだからねえ。どうだい、サインだってしてやってもいいんだぜえ?」


「ああ、いやそういうわけではなくてな」


ぽりぽりとギルドマスターは髪のない頭をかいた。


「ちょっと名前が似てると思ってな」


「は?」


バネッサとその取り巻き二人の男たちがピシリと石像のようにしばし固まった。




「ふうううううううううう、今日も今日とて助かったな」


ギルドにかえってきた漆黒の旅団、団長のカノユキは万感の思いを込めて言った。


「そうだねー! お姉ちゃんの力がまたまた役にたったねえ!」


女神アルテノは腰に手をあてて誇らしげに胸をはって言った。


くかかかか、と笑い声をあげながら。


いや、お前はまた敵につかまっていただろうが。いい加減、その油断するくせはなんとかならんのか。いいかげん知らんぞ。


それを言うならかーくんはせめてレベル2になろうよ。ていうか、いつまでレベル1なのよ。


ばちりばちり。


と、そんな雌雄を決すべく白虎と玄武の構えをしている二人の間に、


「ちょっと、あんたたちだね‼」


つめよってくる女……バネッサである。取り巻きの男二人も後ろからねめつけるようにしている。


「えーっと……だれだあんたらは。知ってるかアルテノ」


「ううん、知んない」


「ふむ。俺たちは労働からやっと開放されてな。ただいま憩いの時間というやんだ」


「お姉ちゃんもやっとひやっこい麦酒を飲めると神に感謝してるところなんだよ? いや、わたしも神なんだけどね」


「その神様ギャグはだいぶ寒いな。ふむ、そういうわけで今は相手をしてられないんだ。すまないがまたのご来訪を」


「うるさい! だまりやがれ!」


バネッサが近くの椅子をけりあげた。


ちなみに女神は、寒くない、寒くないもん、とつぶやいている。


「あんたらがあたしらのパーティー名を横取りしたっていう不逞のやからだねい!?」


パーティー名?


不逞のやから?


「なんのことだ、一体?」


カノユキは女神にむかって頭を人差し指でくるくるとした。頭のかわいそうなひとか?


「しらばってくれても無駄だよ!」


ばばん、と激しくポーズを決める。


波止場で海に向かって吠える海の男のごとく、椅子に片足をのせながら、


「あたしたちは、海を干上がらせ、山をも震撼させると恐れられる、名高きパーティー。あ、その名も、灼熱の旅団! この赫赫たる赤き髪と真紅の瞳がチャームポイント! 恐るべき冒険者集団さぁ!」


わー。


さすが、姉御!


と後ろで取り巻きの男二人がやんややんやとしている。


知ってるか?


いや、知らん。


そんなアイコンタクトでのやりとりが、一瞬にしてギルド内で行われている。


が、


「あ、俺聞いたことあるわ」


一人の冒険者が口を開いた。


「有名なのか」


「いや、というか……」


冒険者は思い出すようにしながら、


「たしか冒険に出るたびにその依頼者が何らかの被害をこうむるっていうんで、疫病神として有名なパーティーじゃなかったか。前の街を追い出された、みたいなことを聞いたような気がするが……」


ざわざわ、ひそひそ。この街に来てたのか。やべえな。そんな会話が繰り広げられた。


「おい、迷惑集団」


「やかましい!」


カノユキの言葉に、バネッサは怒鳴り返す。


居住まいをただすようにして、


「ふん、変な言いがかりはやめてもらおうか」


ビシリとカノユキを指差し、


「そんなことよりも今はパーティー名の話だ。あたいらが最高のセンスで名付けたパーティー名が、あんたらのパーティー名と酷似しているようじゃないか。ええ?」


えっと、パーティー名?


冒険者ギルドに登録した名称のことだね。


ああ、あれか。あれってそんなに変わった名前か?


バネッサはハッ、と鼻を鳴らし、


「なんて名なんだい? ふふん、まあどうせあたしたちのパーティー名に似ているだけで、しょせんは紛い物。2流、3流の名前だろうがねえ」


「ん? ああ、俺達のパーティー名か。まあ、たしかに大したことはないかな」


カノユキは頷いてから、


「『漆黒の旅団』っていうパーティー名だからな」


ちょっと、狙いすぎたかな。


そうだよお、もっとかわいい名前がいいよお。


だが、そのパーティー名を聞いた途端、バネッサたちはプルプルと震えだす。


「し、漆黒……」


ん?


「し、しししししししししし漆黒」


大丈夫か?


「漆黒の旅団、だとおおおおおおおおおおおおお!?」


「うわあ!?」「きゃあ!?」


「か、か、か」


「か?」


「かっこいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい‼」


……………………………………………………はい?


「ちょ、ちょっとまっておくれよ。漆黒! 漆黒だって!?」


「? ? ?」


「くわあああああああああああああああああああ、かっこいい!」


バネッサが頭を抱えながら喝采を叫んでいる。


「灼熱よりもかっこいい! かっこいいじゃないか!」


「本当ですぜ、姉さん!」


「なんてったって漆黒ですからね! 黒より黒き黒ですよ、姉御‼」


はぁはぁ、と息を切らしながら、


「くうううううううううう、まさかこんなライバルが世の中にいるとはねえ! なあ、あんたたち‼」


「ええ姉さん! ナイス漆黒!」


「ナイス漆黒!」


にこやかに漆黒漆黒言い合っている。


「やめんかい!」


と、いい加減カノユキも恥ずかしくなってきた。


かーくんにも恥ずかしいって感情があるんだねえ。


やかましいわい。こんなけ「漆黒漆黒」言われたら恥ずかしい気になってくるだろうが。


「決めたよ!」


ドドンとバネッサたちは「漆黒漆黒」言うのをやめてカノユキたちに向き直る。


「あんたたちは今からこの灼熱の旅団の永遠の宿敵【ライバル】にする‼」


「頼むからやめてくれ」


勝手に宿敵にしないでくれ。


「ふ、ゆえに、わたしはあんたらにバトルを申し込む‼ さあ、漆黒の旅団よ、この勝負いざ尋常に受けられよ!」


「は」


カノユキはいきなりの展開に頭がついていかない。


「はあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


そう絶叫するしかなかったのである。


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