鱶川ネムリ
「ひなちゃんを離せ!」
紺色ニンジャの喉笛に飛びかからんと、めいは地面を蹴った。だがそのとき、左側の木の上からがさっと音がして、突如灰色のニンジャが飛び降りてきた。めいの目の前に着地した灰色ニンジャは、彼女を遠ざけようとするかのように脇差を横薙ぎに振るった。
「わっ!」
めいは慌てて立ち止まり、バックステップで距離をとった。さすがにこのタイミングで攻撃されると、白刃取りする余裕もない。
「私は
「ニンジャはあんたの手下なの? ひなちゃんは何も関係ないでしょ」
「ふふ……あなたの友人である、というだけで、立派な関係者なのですよ」
美青年……鱶川ネムリは銀色の長髪を磯風になびかせながら、小さく愛らしい口の両端をつり上げて不敵な笑みを浮かべた。長いまつ毛に守られた瞳はルビーのように真っ赤な色をしていて、睨み返しているこちらが吸い込まれそうなほどに美しい。
およそ男のものとは思えぬ、蠱惑的な美貌の青年。声を聞かなければ、きっと性別を惑わされていただろう。しかしその美しさは、同時に有毒植物が如き危険性を秘めているように見える。
「百聞は一見に如かず。この言葉は前漢の武将
「な、何がしたいのあんたたち」
「地獄のコマンダーニンジャ部隊最強の戦士“
もしかして、彼らも「知っている者たち」なのだろうか。
目の前の美青年とニンジャたちがどのような者たちで、何を企んでいるのかはわからない。けれどももし、今までサイボーグのサメやデスワームなどを差し向けてきたのが彼らだとしたら……
「北海道でお待ちしてます。それでは、今しばらく」
ネムリとニンジャたちは比奈を伴ったままバッタのように高らかと飛び跳ね、すぐ近くに停泊していた白いクルーザーボートに飛び移った。ボートはそのまま出航し、海の向こうへと去ってしまった。あっという間の出来事で、めいは何もできなかった。
めいの足元に、銀色のクナイが刺さっていた。拾い上げてみると、そこにはデスワーム事件の際の矢文のように、紙が巻きつけられていた。めいはその紙を開いて、中の文章を読んでみた。
「毛鹿牧場でお待ちしております。一人で牧場に来るように。警察に通報したら人質の命はないものと思ってください」
ぽとり、と、手紙が落ちた。めいの両手は、ぶるぶると震えている。陳腐でありきたりな脅し文句だったが、その単純明快さが却って恐ろしい。
今、自分はとても大きくて凶悪なものを敵に回している。怖かった。前職のパワハラ上司よりも恐ろしい。でも……
「ひなちゃん……絶対助けるから」
立ち止まるわけにはいかない。友を助けるためなら、たとえ火の中にでも飛び込んで見せる。
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