上から彼氏

彩京みゆき

第1話

 終電で私の部屋にやって来た彼氏。

 いつもの横並びで座るソファー。

 右側が彼、左が私の定位置。


「お前さあ・・・」


 って私を覗き込んで、彼はたまに上から目線の呼び方をする。

 そう言う時は決まっている。


「浅野さんに最近やたら飲みに誘われてない?

 『また今度』とか曖昧な態度取って無いで、ちゃんと断ってよ?」

「はあ?

 ちゃんと断ってるし。

 二人きりじゃ絶対行かないし」

「じゃあ皆だったら行くの?

 酔ってお持ち帰りされちゃってもいいの?」

「無理矢理しないでしょう・・・。

 気まずくなったり、逆ギレされたら困るじゃん」

「そこは俺に頼るとこじゃない?」

「・・・どんなスーパーマンよ?」   


 こんな時は、単純に嫉妬心に狂っている。

  

「てかさ?

 職場でも『お前』とか言うのやめてくれる? 

 結果バレるのは仕方ないけど、バラす必要なくない?」

「・・・はい。

 ごめんなさい」

「私、何か悪い事した?

 してないよね?」

「・・・はい、してませんね」


 黙る。

 ・・・いじけたか?


「何か飲む?」

 って私はキッチンに向おうと立ち上がる。

 彼が背中から私を抱きしめる。


「・・・ごめん。

 ・・・好き・・・」

 と、彼。


「・・・うん、知ってる」


「・・・好き?・・・」


「・・・知ってるよね?」


「知ってるよ?

 でも、好き?」


「うん、好き」


「俺の方が好きだけどね。

 俺の好きなとこ言ってみて?」 


「顔。

 体。」


「そこ?」


「細マッチョなとこ。

 頭の中と内腿のホクロ。

 何だかんだ優しいところ。

 会えなくても私の事考えてるところ。

 嫉妬すると、ちょっと病んで言動がおかしいところ・・・」


「何それ。

 まあ、正解だけど・・・」

 って、私の髪を撫でる。


「君の好きなところ。


 顔、

 長い髪、

 唇、

 胸、

 足、

 背中のホクロ」


「見た目と体だけ・・・?」


「首の匂い。

 かわいいところ。

 優しいところ。

 実は俺がいないと寂しいところ。

 弱いとこ見せられないところ。

 何だかんだ俺でいっぱいなところ・・・?

 てか、全部?


 ・・・俺のことだけ、見てよ」


 って口づける。


「見てるじゃん・・・」


 って私は彼のネクタイで首を軽く絞め上げて、

 そして、緩める。

 床に落ちたネクタイ。

 私は彼のシャツのボタンを一つ外して、胸を指でなぞって、首筋に口づける。


「何それ?

 帰れなくなるけど?」 


「・・・もう帰れないよね?」


「・・・好き。

 ・・・好き?」


「・・・うん、

 ・・・だから、好き」


 そして二人は、深く、深く、

 口づけた。



 ベッドに沈み込む二人は、


 今度は、


 どっちが上・・・?

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