魔法学園放送部~拡声魔法で今日も放送しております~

ZUMUIHE

第1話


「こんちは! こんちは! こんにちは!」


 けたたましい女性の声が校内に響き渡る。

 そのあまりの声に誰もが耳を抑える。


「あははは! みんなは元気かな? 私はもちろん元気、元気。元気すぎて一睡もしてないよ~! あはははは!」


 最高にハイな状態であった。

 女性の声は下がることを知らず、上がり続ける。


「じゃあ、今日もやっていきましょう‼ 魔法学園放送部‼」


 はっきり言ってはた迷惑。騒音発生。

 しかしそれはここ魔法学園では日常茶飯事であった。



 *  *  *



 魔法学園。

 文字通り魔法を学ぶための学園。小中高一貫、エスカレーター式の学校である。

ここには国も種族も関係なく、多くの学生が在籍している。皆魔法を学ぶためにこの学び舎に来ていた。

 校舎は広く、設備も充実。

 ここ以上の魔法を学ぶための学園は存在しないと言っても過言ではない。そのレベルの学校なのである。


 だがそんな魔法学園に、魔法を学ぶために入学したわけではない少女がいた。

 少女の名はスピカ・サケ。一般家庭に産まれ、健康に育った少女は幸運なことに豊富な魔力、そして類まれなる魔法の才を持っていた。

 誰もがうらやむことであった。

 そして両親はそれを祝福し、彼女のために魔法学園に通わせることにした。


 スピカは始め、両親の期待を背に、精一杯学んでいった。

 毎日毎日魔法を学んでいった。

 そんなある日、スピカは出会った。ある魔法――拡声魔法に。


 拡声魔法とは自身の声を大きくする。

 広く自分の声を響かせる。

 遠くまで自分の声を届かせる。

 そんな魔法であった。


 別にその魔法は魔獣を倒したりできるわけではない。

 別にその魔法はきれいなわけでもない。

 別にその魔法はかっこいいわけでもなかった。


 ただの便利な魔法。

 非常時などに役に立つ、そんな魔法であった。


 彼女がその魔法に出会ったのはちょうど6年生の頃。非常時において自分がとるべき行動などを学ぶ、防災のような授業のときであった。


 始め先生がその魔法を使って見せたとき、彼女はうるさいと思った。騒がしい。耳がビンビンする。

 だけどそれをいざ自分がやってみたとき。

 スピカの中で何かが外れた。


(なんだこれ! 心臓がど~んってした! すごい!)


 彼女の琴線にがっちりと嵌ってしまった。


 スピカは、その日はずっと拡声魔法を使いまくった。あまりにも何回もやるものだから先生には止められてしまった。

 家に帰るとまた何度も使った。流石に親や近所に迷惑にならないように、自分の周りには防音の魔法をかけていた。

 するとなぜかあまりビンっとこなかった。

 スッキリしなかった。

 スピカはどうしてだろうと何度も、何度も繰り返した。魔力がスッカラかんになるまでやった。それでもスッキリしなかった。


 次の日、スピカはスッキリせず、モヤモヤしたまま、学校に行った。

 そして廊下を歩いているときふと思った。


(ここで叫んだら気持ちいかなぁ~)


 思った次の瞬間には行動していた。


 魔力を集中させ、拡声魔法を起動。

 そして大きく空気を吸って、


「わあっ‼‼‼」


 そう一言だけ叫んだ。


 長い長い廊下に彼女の声が響く。窓ガラスが震える。空気が震える。肌が震える。心臓がど~んとなる。

 廊下にいた人たちは皆、突然の大声に驚き、ビクッとからだが跳ねる。耳を抑える。

 スピカの声はこだました。何十にもこだましていった。


 そのとき彼女が思ったのはやってしまった、とかではなかった。

 ただ一つの感情。


(気持ちいい‼)


 それだけであった。

 そしてスピカは完全にハマってしまった。

 拡声魔法を使って、叫ぶことにハマってしまったのだ。

 それからというもの彼女は拡声魔法を使って叫ぶことばかりをした。何度も先生に注意されたが、止めなかった。

 無駄に高い魔法の腕前で、止めようとしてくる先生たちから逃げながら、叫び続けた。


 そして進級し、中1となった。

 さすがに進級し、少しだけ大人になったのか、他人に迷惑をかけてはいけないと彼女は考えるようになった。そのため、むやみやたらに叫ばなかった。

 だがそれは別に叫ばないというわけではない。


 むしろどうすれば合法的に叫べるのかと考えるようになっていた。


 そして考え付いたのだ。


 スピカはその案を思いついたとき、天からの啓示かと思った。そのぐらい彼女にとっては妙案であったのだ。

 だがその案。今すぐに実行できるようなものではなかった。多少、いや長い準備が必要であった。


 スピカはその時間を我慢することにした。

 叫ばず大人しく。

 真面目な学生の皮を被って、生活した。

 先生方は大変喜んだ。問題児となっていた天才が元の真面目な生徒に戻ったと。


 そして時間が経ち、スピカは高1へと進級した。それと共にスピカの行動が開始された。

 魔法学園には高等部になるとあることができるようになる。

 それは部活動の創設である。

 スピカはそれを利用し、放送部を創設した。


 先生たちは特に何も疑うことなくそれを許可した。

 その結果が今だ。


 スピカは毎日、放送と称して叫ぶようになった。

 なんとかそれを止めようにもどこでやっているのかわからない。

 ならば放送していないときに捕まえ、何とか説得し、止めさせようにもなかなか捕まらない。

 雲を掴むかのように毎度毎度逃げられてしまうのだ。


 そして先生たちは諦めた。

 もういいやと。



 *  *  *



「ではでは! 今日のトラブル話と行ってみよう!

 今日のトラブル! みんなは魔法生物学のマルク先生は知っているかな? あの小柄で毛もくじゃらの先生! 多分分かったかな? その先生が飼育している小型ドラゴンがいるの。あっ、名前はアップルというらしいよ。由来はからだがリンゴみたいに赤いから~。いや~、安直だねぇ」


「まぁ、それでねそのアップルくん。実は小型ドラゴンじゃなくて大型ドラゴンだったらしいの。マルク先生大型なのを小型って学校に申告して飼ってたらしく、その嘘が今日ついにバレちゃったみたい」


「それでそれで、そのバレた理由というのが本当におかしいの!

 なんとなんと、アップルが大きくなりすぎて、マルク先生の研究室の天井を貫いちゃったの。そして、その貫いた先ってのが……理事長室!」


「もう理事長はカンカンに怒って穴を下りて、そこにいたマルク先生を怒鳴り散らかしたんだって!」


「本当におかしいったらありゃしない」


 先生たちが諦めた後、生徒たちも特には何も行動をしていなかった。

 なぜなら意外と面白かったからだ。

 確かにちょっと騒がしい。

 だがそれでも慣れればそこまで苦ではなく、話の内容にも耳を傾けられるようになった。


 スピカが放送する内容は今日のような学校で起きたトラブルの他、食堂のメニュー、面白雑学。はては誰が最初の投稿をしたのか、お悩み相談。

 どれもなかなかに面白いモノであった。


 そしてスピカも少しずつ変化していった。

 始めは好き勝手叫びながら放送するという感じであったが、だんだんと聞きやすいボリュームに合わせるようになっていった。

 少し騒々しいが、なかなかに気持ち良い挨拶で始まり、うるさすぎない声で放送する。そんな風へと。


「続いてはお悩み相談!

 ペンネーム『イシイシ重い』さん。ん~と、何々? 最近仕事のストレスでドラゴンの叫び声の幻聴が聞こえるようになってきました。たまに視界も定まらず、部屋が揺れているように感じることも。薬を飲んではいるのですが、よくなる気配がありません。むしろ悪化しているような気さえします。どうすればいいでしょか?」


「ん~何かこの状況……まぁ、気のせいかな」


「ひとまず相談への返答は……どうすりゃいいんだろうねぇ!

 ストレスってことだから、一度そのストレスの原因を排除してみるとかぁ? まあ、あとは少しの間仕事から離れて見るとかかなぁ」


「う~む。何か真面目な返答になっちゃったなぁ。まぁ別にいっか。

 そんなわけで『イシイシ重い』さん。頑張ってくださ~い」


 ドゴーンッ‼


「うっひゃぁ、すごい音したな。何か爆発したのかな? これは理事長室の方かな……」


「おっ、そろそろ昼休憩終わりじゃん。じゃあ今日はこの辺で!」


「みんな! 理事長には優しくするんだよ~‼」


「魔法学園放送部‼ 今日の放送終わり‼」

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