どじっ子忍者
藤浪智子
第1話 姫救出作戦 その1
拙者は〝どじっ子忍者〟ではない。
人々が勝手にそう読んでいるだけだ。
しかし、忍者には間違いない。
拙者はこの国の殿から重大な任務を任されておる。
それは
殿の一人娘、花姫(はなひめ)を隣りの国の悪い殿様〝悪殿(わるとの)〟から取り戻す事だ。
悪殿は、美しい花姫に一目惚れし、連れ去ってしまったのだ。
悪殿め…
今日は頑張って早起きして早速花姫を取り戻す為、さっそく悪殿の城へやってきた。
太陽の光が眩しい。
拙者の忍者衣装も黒くギラギラと輝いている。
…よし。
いざ乗り込まんと、悪殿の城の門を勢いよく叩く。
「ドンドン!ドンドン!」
これでもかと息を沢山吸って…
「我は忍者なり!花姫を迎えにきた者でござる!」
無理やり野太い声を出してみた。
普段この様な声を使うことはないので、声がひっくり返った。
…返事はない
どうやら、拙者のことを怖がって出てこれないらしい。
「どうした?怖いでござるか?…では、こちらから行くでござるよ!」
城の門を開けようと手を伸ばしたその時!
城の中から数えきれないほどの矢や槍が拙者めがけて飛んできた。
不意打ちとは!さすが、卑怯な奴め!!
拙者は必死に攻撃を避けた。
すると、一本の矢に手紙が結び付けられている事に気がついた。
拙者は攻撃を避けながら手紙を読む。
手紙には花姫の字でこう書かれていた。
「忍者様へ
助けに来てくださってありがとう。
…アドバイスさせてください
その黒い服は太陽の光の中ではとてつもなく目立っております。
そして、門は悪殿の家来達に常に守られております。
貴方様の声が、私がいる城の天辺まで聞こえてきましたので居ても立っても居られず、手紙を書かせていただきました。
…早く助けて…!
花姫より」
そうか!
拙者は色々と大事な事を忘れておった!
一度帰って出直そう。
拙者は攻撃を避けながら叫んだ。
「また来ます!」
……………………
(悪殿サイド)
黒い服をまとった忍者が城の門から「姫を迎えに来た」と大声で叫んでいる。
我が家臣たちをはじめ、門を守っている者達も明らかに動揺している。
…そんなワシも動揺している。
なんでこんな日中にそんな感じで来るんだよ!
忍んでこいよ!
隣を見ると、花姫と目があった。
花姫はワシにこう言った。
「…これから一応攻撃されますよね?
でしたら、矢を一本お借りして、あの忍者様にお手紙を認めてもよろしいでしょうか」
ワシは冷静な姫の言葉にただうなづくと、矢を一本と、紙と筆を渡した。
サラサラと手紙を書く姫にワシは問う。
「攻撃しないで!あの人を殺さないで!とワシに頼まなくて良いのか?」
すると姫は静かな口調で答えた。
「あのお方に攻撃は当たりませぬ」
姫は手紙を矢にくくりつけると、ワシにそれを手渡して力強くこう言った。
「いいから早く飛ばしてください」
ワシはなんとも言えない気持ちで家臣達に攻撃命令を出した。
激しい攻撃のはずなのに、姫の言う通り、一つも攻撃は忍者に当たらないではないか
なんてこった。
びっくらたまげたわい。
振り返ると、姫はかすかに微笑んでいる。
…なんか怖いよ
忍者は「また来る」と言って帰って行った。
…また来るのか…。
次はちゃんと忍者らしく忍んでこられるだろうか…。
敵ながら心配だ。
どじっ子忍者 藤浪智子 @lesh
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