吸血種の里編
第131話 ジョニーと近況と
……目が覚めると、そこは屋敷のベッドの上だった。
あの勢いでぶっ飛ばされても生きてること感謝しながら周囲を見渡す……俺の隣では、イチノさんがリンゴを剥きながら座っていた。そして、俺の視線に気付いてナイフを置いてリンゴを皿に飾って声をかける。
「アレイ様、目が覚めましたか」
「……おはようございます、イチノさん……ええっと、あれから何日経過しました?」
「半月です」
……流石に驚かないとは言わないが、それでも半月も寝ていた事実は地味にダメージがある。
そういえば、最初のダンジョンでも気絶して寝込んでいた事があったな。
「そんなに寝てたんですか、俺」
「睡眠不足に魔力の消耗。それに加えて、怪我による出血。あんな雑な応急処置では出血も抑えキレていませんでしたからね。極限状態だったからこそ、意識を保っていましたが意識を失えば目覚めないのも当然です。まあ、首への一撃は本当に危なかったですが」
「……笑えねぇ」
ブラドの一撃は、場合によっては俺が死ぬかも知れなかったのかと考えると末恐ろしい。
……まあ本人からすれば俺がラトゥの方を掴んで話を聞いている場面だったから平静を失うのも分からなくもない。元々、ラトゥに対して過保護なブラドなのだ。まあ、それで俺が死ぬかも知れないような一撃を加えたのはどうかと思うが。
「半月……ティータの調子はどうなってますか?」
「ティータ様は、多少体調は崩していますが今のところは命に別状はありません。ですが、消耗が激しくて次に目覚めるのは何時になるか。それは分かりません」
「そうなのか……」
……なら、今はティータに対して俺が何かできる事はないというわけだ。
……そうだ、忘れていたのでイチノさんを見て一言。
「お疲れ様でした、イチノさん……ラトゥと一緒にティータのために動いてくれてありがとうございます」
「いえ、お礼を言われるようなことではありません。仕事の上ですので」
そんなことを言いながらも、少しだけ表情は柔らかい。イチノさんも、ティータのために職務を超えて頑張ってくれたのだろう。
……そろそろ、ティータ以外の眠っていたときに起きた話も聞いていくことにするか。
「それじゃあ、俺が寝ている間に何が起きたのか教えて貰っても大丈夫ですか?」
「かしこまりました。では、どこから話しましょうか……」
そして、イチノさんはゆっくりと思い返すように教えてくれる。
「まず、吸血種陣営の動きとして……現在、ブラド様とエリザ様はラトゥ様の契約を解除する方法の手がかりになるような情報を幾つか見つけたとのことです。アレイ様とラトゥ様の不確実な契約を解除して、元通りの形に本当に戻す事が出来るのか……集めた情報を精査している最中だそうで。屋敷の中で精査をするのも申し訳ないということで、彼女たちは現状では屋敷ではなくて外部の宿を取っています」
「なるほど……別に気にしなくても良いんだけどな」
「アレイ様が昏睡したとどめがブラド様による負傷なので、正直同じ場所に居るのが申し訳なかったのかと」
「ああ……」
そう言われれば、確かにそれはそうだ。冷静になる時間を作るためにも距離を開けていたのかも知れない。
とはいえ、今の仮契約を解除出来ればラトゥをやっと自由にしてあげられるわけか。
「次に、ルイ様達ですが、帰還されて現在ではこの街の冒険者ギルドから出たお祭り騒ぎに巻き込まれて最近は録に自由に行動出来ていないそうです。この街の冒険者ギルドで登録してから成り上がった銀等級冒険者は、彼女たちが初めてだったので街全体が盛り上がっています」
「……そんなに大事になっていたのか」
「下手に街に行かない方が良いですよ。外部からも冒険者や商人がやってきて露店や騒ぎも多いですので」
それを聞いて驚きながらもそれだけ大きな話ではあるので納得はする。
銀等級冒険者を出した冒険者ギルドというのは、それだけ評価が上がる。所属する冒険者ギルドの受付嬢の質やサポートの優秀さ。さらには依頼や近隣の店の質などが冒険者達の立身の一助となっているからだ。
だからこそ、王都の冒険者ギルドに正式な評価を受けて銀等級冒険者となった冒険者を出した冒険者ギルドには人が集まり、中にはスカウトをするためにわざわざ銀等級冒険者や金等級冒険者もやってくる。さらには、名前を売りたい冒険者達もやってくる。さらには噂を聞きつけて顔を売りたい商人もやってくるわけだ。
(まあ、しばらくは冒険者特需で盛り上がるんだろうな)
それに対応するために、色々と忙しくなり面倒だと言いたげなリート達の顔を思い浮かべて少しだけ面白くなる。
……まあ、当事者からしたらたまった物ではないだろうが。
「それ以外の街の動きですが……冒険者ギルドは銀等級冒険者の誕生に浮き足立っていますね。とはいえ、仕事自体は増えて対応しているので盛況ではあるそうですが。街の治安自体は悪化するどころか、この状況で更なる問題を起こすまいと監視などが厳しい状況です。なので、むしろ平和になるでしょうね」
(……そうなると、スラムの子供たちは大丈夫か?)
良い情報のようにも聞こえるが……スラムの子供たちからすれば治安を良くしようという動きが大きくなれば貧民窟の住人達は邪魔になる
そうなれば、目を付けられて貧民窟狩りのような行為にも発展しかねない。
(……まあ、それが気にしておくか。ルイもいるからそこまで極端な事にはならないだろうが)
ベットに寝転んでいる間にどこまで情勢が動いているかは予想は出来ない。
これは実際に自分の目で確かめる事にするしかない。
「そして、今回のティータ様襲撃に関する王都などの動きです」
「……っ! どうなったんですか!?」
「まず、王都に吸血種のグランガーデン家から送られた書状によって大混乱になったそうです。妖精種である情報も外部に流れてしまったことで、暗殺者ギルドへの依頼は取り下げられました。王都も、現状では吸血種などのような魔種との関係改善のために奔走することになり、こちらへ対応するような力は残っていないでしょう。王家も吸血種陣営も、妖精種であるティータ様の存在を公表する益はないのでこの事実は未だに広まっていません」
「……そうか。なら良かった」
……それを聞いてラトゥには本当に感謝しかない。
ティータが妖精種だと言う情報が広まるなら、今後の人生にも影響がある。それを考えてくれたのかも知れない。
「……当面は安心しても良いってわけだな」
「そして、フェレス様からの伝言があります」
「伝言?」
借金取りからの伝言……どういうものか予想が出来ない。
「『滞りなく手続きや裏は押さえつけているので借金もしばらくは気にせずティータ様の回復のために好きに動いて良いですよ』……という事です」
「……なるほど」
ありがたいような。借金は結局返済を待たれるだけなのか。と色々と考えることはあるが……今だけは感謝しておこう。
「なら、早速動かないとな」
そして、俺は立ち上がろうとベッドから降りて……そのまま転倒する。
床に頬をつけながら呆気にとられる俺に呆れたような声がかけられた。
「半月寝たきりだった人間が突然立ち上がれるわけがないでしょう。まずは体を慣らしてから動いてください」
「……ごもっともです」
起こされながら、俺は説教をされるのだった。
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