第93話 ジョニーと新たな階層
「……ん、ぐあっ……」
目が覚める。体の関節が凝り固まってバキバキと音を立てた。
……うーん。仮眠程度に考えていたのだが、魔力の回復度合いと疲労の取れ方で思ったよりもしっかりと眠っていたようだ。思った以上にすっきりとしている。
「おはようございますわ、アレイさん」
「ヨク寝テタナ、召喚術士」
起きた俺にラトゥとグレムリンが挨拶をしてくれる。
二人は既に起きていた……というか、グレムリンは眠っていないので当然か。
「すまん、大分寝てた」
「眠っただけ、魔力が回復しているなら必要な休息ですわ」
「俺モ、色々メモヲ纏メル時間ガ出来テ有意義ダッタゾ」
「私も仮眠を取らせて頂いたので、十分休息は出来ましたわ」
なんだかんだ、二人も休む事は出来ていたらしい。顔色を見ても、健康的なようだ。
さて、次の階層へと進む前にメンバーを考えて召喚をする。
「まず、バンシーとシェイプシフターを呼ぶが……その前に、グレムリン。ちょっと変わってて貰ってもいいか?」
「イイゾ」
「すまん。必要になったら呼ぶからな」
「期待シテイル」
そう言って呼び出したのは二人と、ザントマンだ。
「おはようございます!」
「!」
「やあ、召喚術士くん。もう出番なのかな?」
「ああ。次の階層に挑むんだが……次の階層でサラマンダーが出てくる可能性もある。その時には、ザントマンの能力で眠らせる事が出来ればかなり消耗を避けて進む事が出来るはずだ」
「なるほど、あの蜥蜴もどきを眠らせるのが僕の仕事って訳だね。そんな大役は恐悦至極だよ」
笑みを浮かべてそんな風に答えるザントマン。たまに、芝居がかった言い方をするよな。
……バンシーは微妙に嫌そうな顔をして、俺の横に来て耳打ちをする。
(召喚術士さん! なんかやっぱり胡散臭いですよ! あの人)
(そうか? ああいうキャラなんだろ。そういえば、あんまり一緒に行動してなかったな。バンシーは)
結構、ちゃんと仕事をしてくれている場面も見てないだろう。
バンシーからすれば騙し討ちのように俺をワームに差し出して、切り抜けたから取り入ったように見えるな。
(まず、召喚術士さんはなんでも信用しすぎなんです! 最初に、騙したんですから何かあるかもしれないですよね!?)
(気にしても仕方ないって)
ザントマンと色々あったが、あくまでも最初だけであり、仲間になった時点で過去にあった事は忘れるものだ。
それに、状態異常という絡め手はとんでもなく有用なのだ。それだけでもリスクを飲んで有り余るくらいに価値がある。
「絶対に碌でもない事考えてますよね!」
「ん? 碌でもない事を考えるのはいつもの事じゃないかな? 召喚術士くんは」
「……ちゃんと働いてくださいよ! 変な事は考えずに!」
釘を刺すバンシーに、面白そうだといいたげな顔をするザントマン。
「当然だよ。僕はちゃんと契約をしてるからね。もちろん、召喚術士くんのために粉骨砕身の覚悟で戦うよ」
「……本当ですね!」
「うんうん、なんなら誓っても良いよ……何に誓った方が良いかな?」
「選ぶ程度なら言わないでください!」
……うーむ、なんというかザントマンはバンシーをからかって楽しんでいる気もするな。
まあ、そういうコミュニケーションもいいだろう。それよりも、そろそろ次の階層に挑むとしよう。
「遊んでないで、そろそろいくぞ。二人とも。さてと、頼んだぞ。シェイプシフター。次の階層に挑むのもお前が頼りだ」
「!」
頷くシェイプシフター。
「うぅ……私、遊んでないのに」
「全く心外だよねぇ」
「貴方が言いますか!?」
仲の良い二人の会話を聞きながら、下へと続く階段を先導して俺達は階層を下った。
――そして、二階層に辿り着いた。
そこに広がる光景は、想像を超えていた。
「……うわ、これ、完全に森になってるのか?」
「植物が生えて、花も咲いていますわね……本当に地下に降りたのか、ちょっとだけ不安になりますわ」
「ダンジョンってこんなこともあるのか?」
「いえ、私もここまで環境が変化するダンジョンは珍しいと思いますわ……もしかしたら、上の階層でバーサーカーが火を燃やしていたのは植物が生い茂るのを防ぐためもあるかもしれませんわね」
確かに。サラマンダーとの共生関係もあり得るかと思ったが……そちらの線もあるか。
しかし、やけに気温が高い。だからこそ、植物が生育しているのだろうが。
「上に比べて更にシェイプシフターの力が必要になるな……頼んだぞ?」
「!」
任されたとばかりに、斥候に出るシェイプシフター。
時には視覚で。時には一人で先に出ながら安全を確保する。俺達はその先導に従いながら安全な道を付いていく。と、バンシーが大きな声を上げる。
「わっ!? ビックリしました……」
「なるほど、独自の生態系が出来てるのか」
バンシーの横に映えていた植物が、近くにやってきたバンシーに反応してバクリと捕食しようと動いたのだ。ソレに驚いたらしい。
……これはモンスターなのか? まず、植物自体が地上と同じ植物なのかという問題もある。
「……恐らく、この植物自体は偶然にも環境に適応できた事で生育した植物だと思いますわ。ダンジョンが生まれる際に、地下に眠っていた植物の根や種が育つ事はありますの。まあ、大抵は魔力に適応しても温度や水の問題で枯れる事が多いのですわ」
「その条件が偶然揃ったから、ここでは植物が生い茂ってる訳か」
「ですわね……ただ、本来はダンジョンというのは異物を排除する性質がありますわ。だから、階層毎に環境が大きく違うと言う事はないはずですの」
……つまり、このダンジョンはそういうあり得ない何かが起きているわけだ。
だが、それはつまり探せばそれだけの価値がある物が眠っているとも取れる。
「なら、気をつけて進まないとな」
「ええ……それにしても、凄いですわね」
と、ラトゥは感心したように呟く。
見て居るのはシェイプシフターだ。森となっている階層の中を淀みなく歩きながら、危険な場所を的確に避けている。何故か迂回した場所の上に、振動で反応したのか突如として地面が割れて巨大な植物が口を開けるような光景を見ればまともな斥候がいなければ死んでいただろうと分からせてくれる。
「シェイプシフターさんは本当に優秀ですわね……冒険者で同じような能力を持っている人が居たら引く手数多ですわ。使い分ける必要があるとしても、一人で何役もこなせるというのは非常に重要ですもの」
「だろうな。俺の一番最初に契約してずっと頑張ってくれた相棒だからこれだけ出来るって信じてるからな」
「……その相棒の扱い方、とてもぞんざいでしたけどね」
「いや、ちゃんと戦力として使う事が重要だろ?」
「もっとちゃんとした扱いをしてあげるべきですよ! 土台とか切り分けたりは普通じゃないですって!」
バンシーの言葉だが、やはり戦力として仲間にした以上そのスペックを十全に使う事が一番だろう。
お互いの主張を通す言い争いを見て、フフと笑うラトゥ。
「ほら、ラトゥさんも笑ってますよ! やっぱり変なんですって!」
「いえ、その……なんというか、仲が良い光景を見て微笑ましかっただけですわ」
「そんなに微笑ましいか?」
「召喚術士という契約をする関係でも、忌憚なく意見を言える関係というのは健全で素敵だと思いますわ」
そうなのか? とバンシーと二人で顔を見合わせる。
それを見て更に面白そうに笑うラトゥ。
「ええ。私はそう思いますわ」
毒気を抜かれた俺とバンシーは、そのまま言い争いがなく続く事はなくシェイプシフターが先に道を確認した事もあり、先に進んでいくのだった。
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