第91話 ジョニーと階層超えと
「ぎゃるぐうううう!!」
「来るぞ!」
先程までの指示を飛ばしていた姿を捨て去って、狂気に飲まれたように俺達へと向かってくる長。
一体だけとはいえ、体格が通常のバーサーカーの倍もあるのだ。バーサーカー達のサイズは普通の成人男性程のサイズなのでその倍の大きさともなれば、ただ暴れるだけでも相当な被害が及ぶ。
「アガシオン、牽制してみてくれ!」
「は、はい! 分かりました!」
まずは魔法による矢を放つアガシオン。その矢はバーサーカーの長に突き刺さる。肉質自体は堅いわけではないらしく、ダメージは通っている。
だが、その攻撃を意に介さずにこちらに突き進んでくる長。
「牽制は無意味か……」
「しょ、召喚術士さん! こっちに来てますよ!?」
「分かってる! ラトゥ!」
「任せてくださいまし!」
俺の言葉に併せて、ラトゥは横から飛びついて爪によって長の首を切り裂いた。
出血をして、致命傷にも思える怪我。だが、長はそんな物を意に介さずラトゥを振り払って俺の方へと走ってくる。ラトゥが何かに気付いて、こちらに叫ぶ。
「――ダメですわね! 傷が回復していますわ! 半端な攻撃では削れませんわ!」
「ちっ、そうなると厳しいな!」
やはり、火力が不足している。ダメージが蓄積するならやりようはあるが、流石に回復されるとなると話が変わる。
こうなると、【血の花園】のエリザのような魔法使いタイプの仲間が確かに欲しくなる。いずれ、難しいダンジョンに挑むときのために火力出せるタイプの仲間も増やしたい所だ。
「ぐるわああああ!」
「うおっ!? あぶねっ!」
なんとか回避。突撃してくる長はまるで暴走機関車だ。
どうやら、俺を最後に敵と見定めたらしく俺を執拗に狙ってくる。必死に逃げ回りながら、次の手を考える……しかし、ミノタウロスといい俺が狙われる事が多いな。まあ、慣れているし司令塔みたいなものだからそれも仕方ないのだが。
だが、追いかけてくる長から逃げ回って考えるのにも限界がある。そこで、思いついた。
「シェイプシフター!」
「!」
「頼んだぞ!」
シェイプシフターに指示を飛ばして魔力を送る。模倣先をバーサーカーから変更して別の存在に成り代わる。
今度の模倣先は――ブラドだ。そして、想像以上の素早さで俺を掴んだシェイプシフターは空中へと浮かび上がる。
「ぎゃがぐがああああ!」
「よし、流石に上空だと攻撃はされないか」
ブラドの能力である羽を生やして飛行をする事はシェイプシフターでも十分に出来る。少々怖いが、それでも俺を抱えて飛ぶ事くらいは造作も無い。
こうしていれば、思考を回す余裕くらいは生まれる。
「――! ――!」
「……いや、すまんシェイプシフター! やっぱり無理があるよな!?」
どうやら、俺の体重を支えるのは難しいらしく顔を赤くして必死に飛んでいた。ブラドと全く同じようにとはいかないらしい。
(さて、どうする。火力が足りない。つまり、重い一撃で消し飛ばせないとジリ貧だって事だ。ここから逃げ出す手もあるが、それだとしても奴を吹き飛ばすような手段は手に入るとは限らない)
こうして浮かんでいる時間もあまりない。
俺に攻撃が届かないと判断したら、狂化しているとはいえ手近にいる別の獲物を狙い始めるのは目に見えている。だからこそ、決断をしなくてはならない。
そこで、叫んで聞いてみる。
「アガシオン! お前の魔法だと威力は足りないんだよな!」
「は、はい! 時間をかければもうちょっと威力は高い魔法は出せますけど、流石にこの敵を倒すには……」
「分かった、構えて待っていてくれ!」
その言葉に、アガシオンは集中を始める。
「ラトゥは!」
「私も、今の状態だと倒せるような攻撃は出来ませんわ!」
「バンシーはどうだ!?」
「ごめんなさい! 私も回復されると難しいです!」
ラトゥも、本職としては前線を張る壁役としての仕事だ。吸血種としての力を発揮すれば別だろうが、現状では難しいだろう。バンシーも音の攻撃は言わば、小さいダメージの積み重ねによる大ダメージだから回復される敵とは相性が悪い。
ならば、召喚すべきは――
「シェイプシフター! 今から送還する」
「!?」
「だから、もっと上に運んでくれ! 落ちるまでの時間を作る」
「……」
戸惑いながらも、シェイプシフターはさらに上に運んでくれる。
「ありがとうな、シェイプシフター!」
そこで、送還。こうして魔力の使い方を覚えた事で何度も召喚と送還を繰り返しても魔力の負担が減っている。俺の理想とする戦い方に近づいている。
そして、俺は再度召喚する……それは、グレムリンだ。
「――ウオオオオ!?」
「すまん、落ちてる所に悪いがあのボスに威力の高い爆弾を頼む!」
「グウ!? ……ワ、ワカッタ!」
自由落下しながらも、グレムリンは俺の指示に従ってポーチから爆弾を取り出す。
最初にバーサーカーに使った物よりも大きいサイズの物だ。俺の頭のサイズ程ある。これが爆発したならば、長にも通用するだろう。
「起動スル魔力ガ必要ダガ、流石ニ魔力モ時間モ足リナイゾ!」
「いや、大丈夫だ! アイツの顔に投げつけてくれ!」
「ワ、ワカッタ……ドウニデモナレ!!」
覚悟を決めたグレムリンが、爆弾を投げつける。
バランスを崩しながらも、それは真っ直ぐに長の顔の正面に飛んでいく。このまま長の顔に爆弾が激突したとしても爆発はしないだろう。
だが、そのために準備をして貰っていた――
「アガシオン!」
「は、はい!」
魔力の矢を構えていたアガシオンは、俺の指示に従って矢を放つ。
――矢は長の目の前で爆弾を貫く。そして、それに呼応して爆弾は光り……大爆発を起こした。
「うおおおお!?」
「グワアア!?」
想像以上の威力に、俺達は落ちながら吹き飛ばされる。
――壁に激突する寸前に、ラトゥが俺達をキャッチしてくる。
「……無茶をしますわね」
「ありがとう、助かった」
長を見れば、爆発の影響で頭が消し飛んでいる。体が崩れ魔石へと変化していってる。
……恐ろしい威力だな。
「グレムリン……良かった、無事か」
「……正直、メッチャ痛イゾ」
近くの壁に叩き付けられて倒れていた。
とはいえ、致命的なダメージを受けてないなら問題は無いだろう。
「しかし、凄い威力の爆弾だな……」
「俺モ予想外ダッタ……魔法ガ原因カ?」
「かもな……アガシオン、ありがとうな。ピンポイントで当ててくれたから助かった」
メモを取り始めたグレムリンをスルーしつつ、先程の功労者であるアガシオンに声をかける。
と、アガシオンを見て……吹き飛ばされて転んでいるのを発見した。起き上がろうとして失敗している。
「お、起こしてください……魔力を使いすぎて……体を戻す分が……」
「大丈夫ですか!?」
慌ててバンシーがアガシオンを起こしに行く。
それを見て、思わず気が抜けてしまう。
「なんというか……締まらないな」
「……イツモノ事ジャナイカ?」
「……違いない」
グレムリンの言葉に、思わず納得してしまうのだった。
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