第87話 ジョニーと異常と

「あれは未発見のモンスターだと考えて……恐らくだけど、敵を見定めたら物理的に行動不能になるか核を壊されるまで決して戦闘不能にならずに襲いかかってくるモンスターだと思う。あの感じなら、状態異常系も効かなそうだな……」

「そうですわね。魔法使いの使う魔法の中に相手の意志を狂わせる狂化という物がありますわ。それに近い気がしますわね」

「とはいえ、魔法を使った感じもしなかった。そういう性質を持ったモンスターって訳か……一応、記録して帰ったら報告するか。名前は……まあ、バーサーカーって名前で一旦は呼ぶとしよう」


 戦闘が終わり、モンスターの考察を兼ねて全員で休息を取っていた。

 まだまだ進行度は最初だが、それでも情報の無いダンジョンを進むのであれば慎重である事に超した事はない。食料なども、十分に持ってきているので焦らずに進む事が重要だ。


「戦闘自体は危なげはなかったんだけども……こうして、見た事のないモンスターが出てきただけでも結構不安要素が大きいな。シェイプシフター、1階層から次の階層に行く階段までどのくらいの距離か分かるか?」


 その質問に首を横に振る。ルイ本人だったら、もう少し先までは分かるかも知れないが……シェイプシフターの模倣だと先に待つ部屋を調べる事が限度のようだ。

 とはいえ、魔具を使えず模倣は出来ても経験や知識まで完全に模倣出来ない以上は、本家のルイよりは斥候としての力は落ちるのは仕方ない事だろう。むしろ、それだけ欠落しても斥候としての能力を発揮出来るシェイプシフターの能力に驚かされる。


「なら、今後もまだ情報の無いモンスターが多く居ると考えて進むか。時間が掛かると、帰還までの食料だのに不安があるが、急いで死ぬよりはマシだしな」

「私も同じ意見ですわ」

「あっ、私も同じ意見です!」

「――!」


 バンシーとシェイプシフターも元気よく答える……多分、ラトゥの真似をして答えたんだろう。

 ルイを模倣しているシェイプシフターはまだしも、バンシーに関しては絶対に分かっていないと思う……まあ、最近は魔力の消費が重いからとあまりダンジョンに連れ回していなかったので張り切っているのだろうが。


「……そういえば、グレムリン。静かだけどどうした?」

「……ム? ナニカ言ッタカ?」

「いや、静かだけどどうしたのかと思ってな」


 グレムリンは何かポーチから出した手帳に書き込んでいた。

 本当に何をしているのか気になってくる。


「召喚術士ノ戦闘杖ニ関シテ、観察シテル。マダマダ開発段階ダカラ、データガ必要ダカラナ。強度モソウダガ、使イ勝手ノ改善モ必要ダ」

「そうか……ちょっと見ない間に、お前も見違えるように成長したんだな。間違いなく、いつかは立派な鍛冶屋に慣れると思うぞ」

「ソレナラ嬉シイナ。ダガ、マズハ最初ノ客デアル召喚術士ノ武器カラダ」


 そう言って、手帳にさらに書き込んでいる。

 ……なんというか、ゴブリンの頃に比べると種族の特徴だったのだろう。大雑把さが減って細かく小さい事に気づくようになっている。

 さらに、意欲的になっているのもある。ラトゥとの顔合わせで召喚した際には、俺に対して作りたい物があるからしばらくの間は召喚してて欲しいといわれたくらいだ。丁度、魔力を使う特訓の段階なので喜んで受け入れたが。と、そこで思い出す。


「そういえば、爆弾に関しても助かったよ。ラトゥ一人じゃ万が一もあったし、今回出したメンバー……というか、俺達にはまだ火力不足な面があるからな。そこをカバー出来るのは大きい」

「タダ、威力ノアル爆弾ノ数ニハ限リガアル。残リハ20発クライシカナイ」

「なるほど……威力を考えると、確かに心許ないな」


 多く見えるが、先がどれだけか分からない中で攻撃手段に限りがあるというのはリスクが高い。

 グレムリンの能力をある程度は聞いているが、直接戦闘に使える手段は少ない。


「確か、元々のゴブリンよりも近接能力は低くなったけども隠密能力や器用さが上がったんだったよな……爆弾の他に攻撃手段は持ってるのか?」

「期間モアッテ、準備ガ出来テイナイナ……ナイフト、陽動用ノ爆弾ト、イザトイウ時ノ切リ札ノ威力ガ一番高イ爆弾ダケダ。モシモノ時ニハ自爆モ出来ルゾ」

「そこまでの覚悟は助かるけども、グレムリンは頼りにしてるからな。無理はしないようにしてくれ。可能なら誰もやられずに行きたいからな」

「アア。可能ナ限リ頑張ルゾ」


 グレムリンという小回りが効き、先手を取る事の出来る役回りは重要だ。

 先頭に置いて先制して行動を取れるメリットは、ゲーマーでなくとも理解出来ているであろう。どんな戦力でも先手を取られてしまうと弱く脆いのだ。だからこそ、斥候とは違う相手の行動を妨害し先手を取らせてくれる役目のグレムリンは大切だ。


「シェイプシフターも無理はするなよ。お前が今回のダンジョン探索での要だ。お前がいない時、多分俺達の死ぬ確率は跳ね上がる。頼りにしてるからな」

「!」


 頷くシェイプシフター。

 今までに欠けていた斥候という役割の重要性。しかし、俺の立場として報酬を折半する様な事は難しい。だから、シェイプシフターの存在は本当に助かっている……こうして考えると、本当に誰も彼も重要な戦力だ。それに今は頼れる戦力としてのラトゥも……そういえば忘れていた。


「……そういえば、ラトゥ。聞くのを忘れてたけど報酬はどうすればいい?」

「報酬ですの?」

「ああ、協力をしてくれるからダンジョンで手に入れた物は折半するか、多めに支払わないとだからな」


 自分よりも格上の冒険者に同行を頼む以上は、それだけの報酬が必要になる。

 今回は仕方のない事情があるとは言え、それでも危険に身を晒させるのだ。殆ど持って行かれるとしても文句は言えない立場である。


「それなら、三割だけ貰いますわ」

「……少な過ぎないか? 倍は取っても少ないくらいなのに」

「ふふ、今回に関しては以前の迷宮で助けられたお礼と迷惑をかけたお詫びもありますわ。それに、今のところはお金にも道具にも困っていませんもの。本音で言えば、報酬は無しでもいいんですの。でも、それは他の方にも示しが付きませんものね。それに無報酬なんてバレたら、ブラドに怒られてしまいますわ」

「ははは……その時は俺も怒られますね」


 ……まあ、俺は怒られるだけではなくてボコボコにされそうな気がする。

 無報酬で良いというのは、ありがたいように見えて良くない。報酬がないクエストなんていうのは、最低で最悪だ。仕事に対しては正当な報酬が必要なのだ。

 そういう意味では、こちらが気にしないようにしてくれたラトゥに感謝しかない。


「分かった。今回はありがたく貰っておく。いずれ恩は別で返す」

「ふふ、期待していますわ。アレイさんは家族の為に頑張っているので応援していますわ。私も、吸血種という同族のために動く事は多いですもの。だから、その気持ちは分かりますわ。その行為はとても尊い事ですわ」


 そう言って微笑むラトゥ。吸血種は同族意識が強い種族だから、俺のティータのために頑張っている姿に何か感じ入るものがあったのかも知れない。

 ……ふと、俺の肩を叩く。そちらを見るとバンシーが何やら期待した表情をしてこちらを見ていた。


「召喚術士さん、召喚術士さん!」

「ん?」

「私には何かありませんか!」


 ワクワクした表情で聞いてくるバンシー。

 ……うーん。


「いやまあ、言う事は特にないかな……」

「えっ、なんでですか!? 他の人にはあるのに!?」

「いや、最初から頼りにしてるし言う事ないからな」


 バンシーは今まで使いこなせなかった俺の問題なのだ。

 だから、今更言う事なんてのはない。


「……えへへ! そうですよね!」

「いてえいてえ。叩かないでくれ」


 笑顔で俺の方を叩くバンシー。それを見て、ラトゥは微笑ましいといわんばかりの表情を浮かべている。

 ……危険なはずのダンジョンでも、変わらないノリでいる俺達なのだった。

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