第29話 ジョニーは無事に届ける
「――で、リートがボスをぶった切ったんだけども、死んだ時に毒をまき散らすタイプでな。それを庇うためにヒルドが盾になったんだが、その毒がどうも腐食性だったらしくて、着てた全身鎧が腐って使い物にならなくなってな。今日は新調するために二人で鍛冶屋に行ってんだよ。リートは鍛冶屋の次男だからそういう武器とか防具にも詳しいからな」
「なるほど……そりゃ結構損をしたんじゃないか?」
「相当厳しかったが、まだ誰も踏破してないダンジョンだったからな。魔石に魔具、ついでに情報を冒険者ギルドに申告したから結構プラスになりそうだ」
先日、ルイ達が新しく潜ったというダンジョンの話を聞きながら待っていると、ようやくアガシオンとストスの会話が終わったらしい。
「お、お待たせしました……すいません、すっかり話し込んじゃって」
「いやあ、アガシオンという種族は知識が豊富なのですねぇ。僕としては、新しい魔具愛好家としての同士を見つけて本当に嬉しいですよ! やはり、種族の違う視点というのは勉強になりますね。それに、魔具もいくつか交換出来たのでいい出会いでした」
今日、出会ってから初めて見る心の底からの笑みを浮かべているストス。
……なんか、俺がここに来たことよりもアガシオンを連れてきた事の方が大きい出来事になったんじゃないかと思わないでもない。というか、本筋の話を忘れてた。
「……オレは元々、アガシオンが持ってる魔具で要らない奴の中に買い取って貰えそうなのがあれば……っていいたかったんだが……その感じだと交換して終わった感じか?」
「あ、そ、そうですね……もうコレクションはお互いに見せきったので……で、でも大丈夫です! ちゃんと良い交換をしました! 自分のコレクションが充実して本当に嬉しいです!」
「ええ。僕も良い交換をすることが出来ました。やはり、同士の間では損なくお互いに得をする交換をしませんとね」
どうやら、話の中で既に交換は終わったらしい。いやまあ、良い交換を出来たのは良いのだが個人的には現金になってくれたら嬉しかったんだが。
とはいえ、悪い交換ではなかったというのは事実だろう。それに、魔具というのは使い方次第で幾らでも可能性がある道具だ。そういう意味でも、知識の無い俺が売ってしまうよりはよかったのかもしれない。多分。
「あ、あの……召喚術士さん。またここに来る時は、自分のことを召喚して貰ってもいいでしょうか? その、自分なら魔具の知識もありますし……」
「ああ、元からそのつもりだ。まあ、売っても良い魔具があったらそれを俺にくれると助かる。それ以外は好きにしても良いからな」
「わ、分かりました! ありがとうございます!」
これまでから考えられないくらいにニコニコとした表情を浮かべながら良い返事をするアガシオンを送還しながら、まあ良い出会いだったのではないかと結論づける。
「用事は終わったか? それなら帰るぞ。暗くなると危険だからな」
「ふむ、もう帰るのかい? ルイも、最近は銅級冒険者になったんだから僕の所に良い魔具を売りに来るって期待してたんだけどね。まだそんなに売ってくれないから寂しいんだよね」
「売るのはまた今度だよ。オレの所はちゃんと真っ当なパーティーをしてるんだ。金に困ってるわけでもないのにお前の所に魔具持ち出して迷惑かけるわけには行かねーだろ。あと、もうじゃねーよ。どんだけ話し込んでるんだよ。外を見ろよ。もう暗くなってるだろうが」
「おや、思った以上に時間がたつのは早かったみたいだね。ごめんごめん、同士との会話はつい弾んでしまうからね。とはいえ、次はちゃんと持ってきてくれることを期待しているからね」
「まあ、考えとく」
ルイとストスの仲は悪くないのだろう。どこか親しげで気の置けない会話を耳にしながら待っていると、ストスが俺の方を見た。
俺の近くによってくると、小声で話しかけてくる。
「アレイくん。今後ともフェレス絡みで付き合いも増えるだろうからね。今後ともよろしく頼むよ。返事の手紙を渡すのも頼んだよ……と言うのが一つ。もう一つ頼みがあるんだけど、いいかな?」
「頼み? なんですか?」
「なに、大した頼みじゃないよ。ルイの友達になってあげて欲しいんだ」
突然の言葉に、困惑する。
どんなとんでもない頼みかと思ったが……いや、結構とんでもない頼みではあるな。しかし、その表情を見れば楽しんだりからかっているわけではなく真面目な理由のようだ。
「……友達なら、ルイには他に幼馴染みがいるんじゃないですか?」
「確かにいるね。でも、あの子達は関係が近すぎるんだよ。友達というよりも、家族みたいなものだ。そうすると、責任感が強くて面倒見が良いあの子には気を抜くことができない。もう、関係が切れているはずの貧民窟の子供達すら気にかけているような子だ。そんなあの子が息抜きをする相手がいるなら、君くらいが丁度良いと思ってね」
「丁度良いって」
どういう評価だと思いながらも、そこまでルイを気にする訳が知りたくなる。
「……なんでルイをそんなに気にかけてるんですか?」
「気にかける理由か……あの子はこの貧民窟で生まれ育った子で、僕はあの子がまだ小さい頃からずっと見てきたんだ。まあ、妹分みたいなものだよ。こんな場所で無事に冒険者となれるまで育ってきたからこそ、あの子の人を見る目と実力は確かなんだ。だからこそ、あの子は常に気を張り詰めている。僕を筆頭に信用できない大人も多いからね」
おどけてそういうストスだが、その目は笑っていない。
……この環境で、純粋な善意で動く人間は居なかったのだろう。いや、居たとしても食い物にされて骨も残らない末路を迎える場所だ。そんな貧民窟という場所で生き抜くと言うことは、人としての何かを捨てる必要があるのかもしれない。人当たりの良さそうなストスも、そういう意味ではルイにとって気は置けずとも信用は決して出来ないのだろう。
「だから、君が良いんだよ。フェレスが認めるようなお人好しだからね。あの子が潰れてしまうのは、僕にとっても損失が大きいんだ。別に何をするわけじゃなくて良い。気楽に愚痴を言えるような相手であって欲しいだけさ」
「……まあ、努力はしますけど」
「うん。ならそれでいいさ。頼んだよ」
そう言って笑顔で俺の背中を叩いて送り出される。
待っていたルイはこちらを見てようやくかというような表情をする。
「おい、いつまで話をしてるんだよ。本当に危ないんだからな?」
「ごめんごめん。それじゃあ、アレイくん、また次の来店をお待ちしているよ。それから、ルイも顔を出してくれると嬉しいな」
「覚えとく。んじゃ、帰るぞ」
そして、手を振っているストスに見送られながら店の外に出る。
外はすっかり日が落ちてきて、ただでさえ薄暗い裏通りはもはや闇の中といっても過言ではない程になっている。
「じゃあ、今から歩き方を教えるからな。またここに来る可能性があるなら道くらい覚えておいた方が良いだろ。目印よりも、地形を頼りに覚えた方が良いから……」
「教えて貰って助かるよ」
「迷惑をかけたのはこっちが先だからな。むしろ、そんなに感謝されてもオレの方が申し訳ない」
そう答えて、歩いて行く。
分かりやすい説明を聞きながら、貧民窟の真っ暗になった道を二人で歩いて帰っていくのだった。
「道は覚えたか?」
「ああ、ありがとう。次に来る時には問題ない……はずだ」
「不安なら、オレを見つけて声をかけたら教えるよ。普段は貧民窟じゃなくて冒険者ギルド近くの宿に泊まってるからな。そこら辺歩いてるはずだ」
「ああ。分かった。その時は頼らせて貰う」
貧民窟から大通りに戻ってきてからそんな風に会話をする。
すっかりと空は暗くなっていて、そこらから夕食を作っている香りや酒場の喧噪が聞こえてくる。真っ暗になる前に帰れて良かった。完全に日が落ちる前ですら、先を見通すのが難しいほどに暗くなっていた。ルイがいなければ間違いなく立ち往生していた自信がある。
「しかし、すっかり暗くなったな」
「ったく、ストスの奴は話が長すぎるんだよ。魔具のことで話し込むとすぐに時間のことを忘れるんだからよ」
「いや、ウチのアガシオンも一緒に話をしてたからな。俺の方の責任もあるってことで」
そんな風に会話しながら、ふと一軒の酒場が眼に入る。
そして思い出すのはストスの言葉。言われたから友達になるような行動を取るわけではないが、それでもきっかけの一つではある。
「……よし、折角だ。ルイは晩飯の予定ってあるか?」
「ん? いや、ないけど」
「じゃあ、あそこの酒場で飯にしないか? 今日は案内してくれたお礼に奢るよ」
「ん? いいのか?」
一人でずっと冒険者をやるとしても、交友関係を絶つメリットは大きくない。折角なら、こういう所で交友関係を広げておくのも良いだろう。
冒険者になったのだ。受付嬢さんと借金取り以外にもちゃんと仕事やら日常のの話が出来る相手が欲しいではないか。
「んじゃ、遠慮無く。財布の心配はしなくて良いよな?」
「……まあ、お手柔らかにしてくれると嬉しい」
「なら、遠慮はしないでおくか」
そう言ってルイは笑いながら酒場へと入っていく。
……気楽に奢るなんて言わなかった方が良かったかもなぁ。そんな後悔をするのだった。
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