第3話 ジョニーは思いついた
「グギャギャギャ!!」
「うおおおおおおおおおおお! 死ぬ! 死ぬ!」
「きゃああああああ!」
「グジュル……」
必死に逃げる俺とフェアリー。そして、手には真っ二つになって力無くドロドロになりかけているスライム。
その背後からは、襲いかかってくるゴブリンの大群。今度こそ逃がさないと言う気迫を感じる。もしや、ゴブリンが覚えていて余程逃がしたことが屈辱だったのだろうか。
ダンジョンの道を必死に戻っていく。必死に逃げて逃げて、なんとかダンジョンから飛び出した。
「ギウ! チッ……! ペッ!」
そしてまたダンジョンから飛び出したのを見て二度と来るんじゃねえぞとでも言いたげに中指を立てて去って行くゴブリン……うん、モンスターからそんな対応されるとは思わなくてなんかちょっとショックを受ける。
……はぁ、疲れた。フェアリーという仲間が増えたことで、早く動きを見たくて再度ダンジョンに潜ったのだが……まあ、結果は前回と似たような感じになってしまった。まさか最後にゴブリンに追いかけられて追い出されるまで同じになるとは思ってもなかったが
「し、死ぬかと思いました……うぅ、もしかして付いていくのは早まったかなぁ……」
「契約したことは後悔させないぞ……実際、前と違ってなんとか3部屋目は超えれたからな……!」
「そうですか? 本当に大丈夫ですか?」
不安そうなフェアリーに自信満々という表情で頷く。実際、成長はしているのだ。
……さて、ダンジョンという物について説明をしよう。まあ、受付嬢さんの受け売りだが。
ダンジョンというのは魔力によって変質した生きている洞窟らしい。いわば、冒険者というのは生きたまま生物の体内に侵入して、そこから様々な価値のある物を持って帰る外敵というわけだ。そして、モンスターはその外敵を排除するための細胞である。
つまり……まあ言ってしまえば冒険者がバイ菌で、モンスターはダンジョンの体内を守るための白血球のようなものだな。なんともロマンがない説明だが。
(まあ、体内で捕食するから冒険者を誘い込むって時点で生物なのかどうなのか……まあ、それはいいか)
考えても仕方ない。この世界の学者が考える事だ。ちなみに、俺が挑戦している初心者向けのダンジョンというのは冒険者ギルドが管理している3つのダンジョンの総称だったりする。
定期的にダンジョンを踏破しつつ、入場や攻略を制限してダンジョンを消滅させない程度に存続させながらローテーションをしている。そこまでする理由は、冒険者希望の若者が無駄死する確率を減らしつつ基本を覚えささせる事が出来るかららしい。そして、そこで認められて初めてギルドの管理していないダンジョンへと挑む権利が認められるわけだ。
そして、金になるのは管理されていない巨大なダンジョン。内部は人外魔境であり、貴重な素材で一財産を築くか屍をダンジョンの栄養に変えられるか。その二択と言われるほどだ。
さて……長々と話したがつまり纏まった金を手に入れるためには、この初心者向けダンジョンを踏破しなければお話にならない。そういうわけである。
(しかし……)
視線をフェアリーに向ける。フェアリーは見られている事に気づいてオドオドとしはじめる。
「……どうされました? もしかして、私なにか失敗してましたか?」
「いや、思った以上に役に立ってくれてるなーと思ってな。仲間にして良かったよ」
フェアリーは思った以上の拾いものだった。細かいことによく気づいてくれて、魔力の操作が得意という自己申告通りに魔力を利用しての探索や俺やスライムのフォローをしてくれる。
召喚というのは、いわば蓋を開けたポリタンクの水を小さなコップに注ぎ込むようなものだ。だからこそ、扱いが難しい。上手く魔力を込めなければあっという間に溢れたり少なすぎて力を発揮出来ないなどのトラブルも起きてしまう。そんな俺の魔力操作を手助けしてくれて随分と節約できている。本人自体がそこまで魔力を必要としないのも優秀だ。
「そ、そうですかね……えへへ……」
(まあ、これで戦えるか……せめて、怪我を治せたら最高だったけど……高望みか)
そう、問題があるとすればそこだった。実際に治療に関して試したが、膝くらいの擦り傷は治せると言ったが治らなかった。フェアリーである彼女は肉体を持たないので治すイメージが難しいということでちょっとした切り傷などを治療するのが関の山だろう。
そして戦闘だが……本人の性格が戦闘に向いていないのか、魔力のコントロールがあれだけ巧みだというのに攻撃に転用するのは下手くそで、殆ど威嚇にもならなかった。石でも投げれるか試して貰ったがスライムに直撃したのを見て完全にその運用は諦めたのだった。
(とはいえ、非戦闘要員枠として特化している分には使いやすいんだよな。問題は、俺とスライムだと火力が足りないんだよなぁ……シンプルに物量が足りてない。スライムも指示をしないと自分から動ける程じゃないしなぁ)
フェアリーが簡単に見つかったので、他の契約出来るモンスターもサクッと見つかるかと思ったが大間違いだった。どうやら、フェアリーに出会えたのは運が良かっただけのようだ。フェアリーに心当たりを聞いてみたが、基本的には逃げ隠れしていたらしいフェアリーにそんな知識は無かった。
改めて、召喚術士がいない理由が分かる。ここまで運が絡むのであれば、運が悪ければスライムという戦力のみでダンジョンを踏破する事になる……仲間が居る場合は、頑張って魔法を覚えた方が潰しが効くだろうしなぁ。
(借金さえなければ人に頼っても良かったんだけど……まあ、言っても仕方ないか)
まず、借金がなければ恐らく冒険者になるなどと思いもしなかったからな。
それに、金というのはトラブルの中でも一番火種になりやすい。この世界に生きてきた知識でも前世の知識でも、金のトラブルを抱えたら望まなくても事故が起こるのはよく知っている。
……そういう意味で、金銭的なものではない物を求めている召喚獣との契約は助かる物だ。明確なルールがある上での関係性だからな。
「っと、そうだ。スライムを治してやらないと」
「ジュル……」
「あのぉ……」
前回は余裕がなかったので送還したが、本来は再召喚するよりも魔力を込めてスライムに自己修復をして貰った方がコスパがいいのだ。
召喚をする上でのリソースは大切だ。魔力さえあれば何度でも呼び出せるのが召喚士の強みでもあり弱みでもある。このサイズで魔力によって作られた肉体であるとはいえ、どんなサイズでも好きなタイミングで呼び出す事が出来る。
そういった強みもあれば、魔力を使うほどに召喚獣に使わせる力も減るので弱くなる。そして魔力なんて物は休んでいないと生きているだけで消費していくものだ。いかに魔力を残して力を使えるかが需要である。
(魔力を込めて、一回治してからダンジョンにもう一回潜るか? さっきは、色々と試していたから油断したがそれを抜きにしたらある程度隠れて進む事は……)
「あ、あの!」
と、そこで急に声を上げるフェアリー。
顔は真っ赤で、どうやら何かを言いたいらしい。
「ん? どうかしたのか?」
「その……私がスライムを治しましょうか……!? 魔力を込めるだけなら、私も出来ますし……それに、その……」
「あー、大丈夫。怒ったりしないから言ってくれ」
「……スライム、結構魔力の込め方が雑なので苦しそうにしていて……あんまり込めると破裂しちゃうかも……」
「……そうなのか?」
ぐったりしたスライムに聞いてみる。心なしか肯定するように震えていた。
そうか……浮き輪に空気を無理矢理に詰め込んだ感じなんだろうな。スライムは貴重な戦力だ。できる限りは消耗をしないように扱いたい。
「じゃあ、スライムに魔力を込めるのは頼んだぞ」
「はい、任せてください!」
頼むと、嬉しそうにフェアリーはスライムに魔力を注ぎ始める。
頼んでみると、フェアリーは喜んでこういう雑用などもしてくれる。
(……ふむ、こうやって役に立つのが嬉しいのかな?)
フェアリーという種族に対して俺は詳しくはない……というか、冒険者というのは大雑把にしかモンスターを把握していないから詳しい性質などは分かっていない事が多いのだ。。
どうやれば倒せるか。どういう習性を持っているか。どういう戦い方をするのか……などは詳しいが、殺し殺される間柄なので習性だとか何を喜ぶのかに関してそこまで情報は出回っていない。
もしかすれば、こうして交渉できるモンスターなら習性やら、好みだとかそういうのがキーになるようなことも……
「きゃあっ!? あ、あの……! すいません、召喚士さん……!」
「ん? どうしたんだ?」
「スライムが、その……」
視線の先には……なんと、二つに分裂して動き回るスライムの姿が!
スライムは戸惑って……んー、戸惑っているのか……? 結構元気よく動いてるようだ。特に見た感じで問題はなさそうだ。
「……何があったんだ?」
「そ、その……魔力を込めてるときに体が限界だったのか崩れて二つに別れちゃったんです。再生に失敗したかと思ったんですけど……どうも、偶然にも別れた二つに魔力が均等に行き渡ったせいで……何故か、分裂しちゃったんです……」
「分裂……スライムが?」
「ご、ごめんなさい……! せっかく任せて貰ったのに」
想像を超えた現実に、謝罪してションボリしているフェアリーすら目に入らない。
脳裏に浮かんでは消える前世の記憶。それは、楽しく遊んで日々新しいコンボを開発していた記憶。それがこう言っている。検討の余地ありだと!
「――面白い! よくやったフェアリー!」
「ええっ!?」
俺の前世は、ゲーマーだった。それは間違いない。
だが、そのゲーマーの中でも……コンボを見つけ、オリジナルを開拓し、日夜自分の最強コンボを開発するのが大好きな……カードゲームでいうジョニープレイヤーだった。
ああ、なんとも度し難い血が騒いでしまっている! 馬鹿は死んでも治らない! 生まれ変わっても業はどうやら消えないようだ!
「これは、面白いぞ!」
スライムの新しい運用に、俺は借金も何もかも忘れて検討を始めるのだった。
「……やっぱり付いていく人、間違えた気がします」
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