8-3

 冒険者ギルドに赴く公爵家と街の入り口で分かれ、四人は一路、王宮へ向かう。エメは馬の揺れが心地良いのか、王宮に着く頃には舟を漕ぎ始めていた。やはり体力値の低さが問題だな、とラースはそんなことを考えていた。

「坊ちゃま~! おかえりなさ~い!」

 門をくぐった瞬間、そんな高い声が聴こえ、ラースに抱えられ寝かけていたエメがビクッと肩を震わせ起きる。彼らに駆け寄って来るのはユリアーネだった。満面の笑みを浮かべ、大きく手を振っている。

「ユリアーネちゃんって、あんな子でしたっけ」

 ニコライが苦笑いを浮かべながら言う。

「でも」と、エミル。「最近のユリアーネさんのほうが可愛らしいと、男性のあいだでは評判ですよ」

「なんでそんなこと知ってるの、エミルくん」

 エミルが肩をすくめるだけで応えないので、ニコライは顔を引きつらせた。エミルはいつも妙な情報を持っている。

「はしたないぞ、ユリアーネ」

 苦言を呈するラースにユリアーネは、申し訳ございません、と辞儀をする。しかし次の瞬間には、ラースの腕から地面に降りたエメを抱き締めていた。

「ダンジョンデビュー、おめでとうございます!」

 エメはくすぐったそうに笑う。ユリアーネは結果をまだ知らないはずだが、成功したと確信しているらしい。むしろエメが失敗するはずがないと思っているのかもしれない。

 近くを通り掛かった神官が咳払いをするので、ユリアーネはようやくエメを離した。それからいつもの真面目腐った顔になり、お食事の用意がございます、と辞儀をした。


 食事を終えて部屋に戻ると、ではさっそく、とエミルがステータスボードを取り出した。どこかそわそわしている。

「鑑定をしてもいいですか?」

 エメは、ずいっと手を差し出した。

 鑑定の結果がステータスボードに浮かび上がると、ふむ、とエミルは顎に手を当てた。

「体力値が五、魔力値が十、上がっていますね。それから、やはり【マナ感知】を獲得しています」

「スキル獲得ってなんの前触れもないっスよね」

「天啓とも言われているしな」

 ダンジョン攻略中にスキルを獲得するのはよくあることだが、なかなか自覚することができないのだ。今回のエメのように、獲得直後に役に立つことがあれば気付くことができるのだが、皆が皆そういうわけではない。

「ステータス的には典型的な魔法使いっスけど」

「加護の魔法はまだ発動していないみたいだな」

「そうですね……。おそらく【癒し手】の影響ではないかと思います。普通は、最上位エクストラスキルを持っていたら、それに特化したステータスにしますからね」

 最上位エクストラスキルを差し置いて他のステータスを伸ばすのは、無謀にも近いと言われている。今回、エメは【祈り】を得た上に【癒し手】を封じている。最上位エクストラスキルの育成ではなく加護の魔法の取得を目的としているため、目的のステータスには到達していない。

最上位エクストラスキルと加護だったら、どっちが強いんスか?」

「どちらとは言えませんね。ほぼ同等かと」

「おおう……。ってことは、加護で得られる魔法は、最上位エクストラスキル並みってことっスか?」

「そういうことです」

「そりゃなかなか開花しないはずっスよ~」

 ニコライが頭を抱える理由がわからないエメは、励ますように彼の腕をたたく。礼とともにエメを抱き締めたニコライは、気を取り直すように言った。

「ひたすら魔法レベルを上げるしかないんスかね?」

「もしくは、ダンジョン攻略で経験値を上げるか、ですね。ダンジョン攻略中にスキルや魔法が開花することは、よくあることですから」

「なるほどお……」

「加護の魔法は必要になったら開花する。無理にすぐ習得しなければならないものでもないだろう」

 冷静に言うラースに、確かに、とニコライとエミルは顔を見合わせた。そもそも、加護の魔法がどういったものなのかもいまはわからない。魔法の正体が知れないのに、何をどう伸ばせばいいかなどと言うのは、荒唐無稽である。

「いまは坊ちゃんの素養を伸ばしますか」

「それがいいですね」

 うんうん、と頷くニコライとエミルに、エメは不思議そうにきょとんと目を丸くした。

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