7-2
ようやく解放されてぜえはあと呼吸を整えたニコライが、気を取り直したようにエメに微笑みかける。
「部屋に戻ったら何するっスか?」
エメが首を傾げるので、戻ってから考えましょうか、とニコライはエメをおんぶした。いつもならラースが抱え上げるが、たまにはニコライもエメを運んであげたい。
部屋に向かって廊下を歩いているとき、エメが何かに気付いたようにニコライの肩をたたく。彼が指差したのは、クエストなどの紙を貼る掲示板だった。
「坊ちゃんもそろそろ、ひとつくらいクエストを受けてもいいんじゃないっスかね。ダンジョン攻略して経験値を上げたほうが魔法を得やすくなるっスよ」
「そうですね」と、エミル。「下位ダンジョンの三階層までくらいならいけるのではないでしょうか」
「……エメのステータスは」
「体力値は四十を超えました。魔力値は百二十です。魔法はまだ使えませんが、冒険者スキルはいくつかあります」
「…………」
渋い顔をするラースに、エメが期待をはらんだ視線を向ける。ラースはひとつ溜め息を落とした。
「わかった。だが、最下位ダンジョンだけだぞ」
エメの表情がパッと明るくなる。ただし、とラースが続けると、きょとんと目を丸くした。
「何があっても【癒し手】を使わない。これだけ約束しろ。これを守れるなら連れて行く」
エメはこくこくと頷いた。エメのことだから、仲間が命の危機に晒されたら【癒し手】を使ってしまうかもしれない、とラースは思う。それはつまり、自分たちが命の危機に直面しなければいいということだ。エメのレベルに合わせてということもあるが、最下位ダンジョンの三階層目までだったらかすり傷すら負わないだろう。
「じゃあ、受け付けして来るっス」
ラースにエメを渡し、ニコライはクエストの紙を掲示板から剥がした。期限は三日後まである。
「行くのは明日でいいっスか?」
「ああ」
行って来るっス、と言って去って行くニコライに手を振り、エメは満足げに微笑んだ。
「そうと決まれば」と、エミル。「今日は体力の回復に努めましょう。魔法の練習で消費したはずですから」
「魔法が使えないのに魔力値が伸びるのはどういう仕組みなんだ。【癒し手】だって使っていないのに」
「素養ですね。魔法の練習をすることは経験値の上昇につながります。その経験値によって、伸びしろのあった魔力値が伸びているということです」
「じゃあ、剣の稽古をつけたら体力値も上がるのか?」
「それも素養ですね。エメの場合、魔力値が伸びやすく体力値が伸びにくい。剣の稽古をつけても疲れるだけです」
「なるほどな」
「まあ、これはないと思いますが、万が一ひとつも魔法が使えなかった場合、剣の稽古を無理やりにでもつける必要があるでしょうね。戦う術はひとつは必要ですから」
「……。加護があるんだ。ひとつも魔法が使えないなんてことはないだろ。
「加護による魔法が、攻撃系の魔法であるとは限りません」
「まあ、まだ何を判断するにしても時期尚早だな」
「そうですね」
エメにはふたりの話は難しく、きょろきょろとふたりを交互に見る。僕に任せておいてください、とエミルが言うので、よくわからない、と言うように笑った。
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