今日、人を殺した。
鳶谷メンマ@バーチャルライター
懐転
今日、人を殺した。
理由なんてどうでも良かった。ただ、殺したかったから殺した。
違う。理由は、あった。
なんだっけ。理由、理由は。
もうどうでもいい。殺した、ただそれだけで充分だ。
何度も殴った。何度も感度も何度も何度も、拳が割れて骨が見えた。相手が動かなくなるまで、ずっとずっとずっと。
気づくと、拳の裏は血と汗、それとブヨブヨとした何かでぐちゃぐちゃだった。好奇心に駆られて舐めてみると、ハチミツの味がした。
鳥が鳴いていた。あの鳥の名は、なんだっただろう。
「カワセミだよ」
たくちゃんが言った。
短パン姿で、麦わら帽子をまぶかにかぶった男の子。ぼくの親友。
そうだ、カワセミ。おじいちゃんが教えてくれた。
おじいちゃん。ずっと、ずうっと昔に、脳梗塞で死んだおじいちゃん。
たくちゃんは引っ越した。チチオヤノテンキンというらしい。それ以来、ぼくの中でその言葉は友達を連れて行ってしまう悪魔の呪文となった。
そうか、これもチチオヤノテンキンの仕業なんだ。
目の前に倒れている、もう誰だかわからなくなってしまった彼も。彼が死んだのも、きっとチチオヤノテンキンのせいだ。
違う違う違う違う違う。
俺が殺した。俺が殴った。
こいつが悪い。悪くない。
悪いのはぼくだって、ママはいつもぼくに言うんだ。悪くないのに。ほんとうは、お兄ちゃんたちが悪いのに。
駄目だ。思考がまとまらない。
まず仕事はクビだ。刑務所に入ることになる。
何年も、何十年も入ることになるかもしれない。
いやだ、そんなのはいやだ。
俺は悪くないのに。ぼくが悪いのに。
カワセミがまた鳴いた。いいや、鳴いていないんだ。
「やっぱり、メジロかもしれないね」
おじいちゃんが言った。白い部屋の、ベットの上におじいちゃんはいた。
変だよ。おじいちゃんは死んだのに。
「そうだ、死んだよ。お前のせいだ。私が死んだのも、彼が死んだのも。たくちゃんが引っ越したのも、全てお前の」
違う。
「違わない」
違うんだ。おれは。
「何一つ違わないさ」
いやだ、そんなこと言わないで。
ぼくのせいじゃない、ぼくのせいじゃ。
そうだ。
俺のせいだ。
めじろがかわせみをころしてちちおやのてんきんがおじいちゃんをつれていったのも。
ほんの些細な、小さな言い争いから彼を殺してしまったのも。
ああ、ああああああああ。
誰か、誰か俺を。ぼくを。
たすけて
ころして
今日、人を殺した。 鳶谷メンマ@バーチャルライター @Menmadayo
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